ルームシェア可能物件に特化した専門サイト「シェカアリ」を運営する日置さん

文=藤谷千明
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 ルームシェアという生活形態はまだまだ少数派である。家族に色々な形があるように、ルームシェアにも様々な形がある。とはいえ、それぞれのシェア生活の経緯もルールもバラバラで、「家族ではない」からこそのコツや知見が蓄積されているように感じている。本連載は、そんな「それぞれのシェア生活」の知見を共有するのが目的だ。

 私はオタクのアラフォー女性4人でルームシェアをしている。ほどほどの距離感で快適に暮らす日々を綴ったエッセイ『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎)を昨年出版。届いた感想やWEBに公開されているレビューには「ルームシェアの賃貸物件の契約のハードル」への反応がそれなりにあった。

 親子やきょうだい、夫婦など戸籍を同一としている者同士、あるいは、その予定があるカップル以外……つまり他人同士のルームシェアで部屋を借りるのは、なかなか敷居が高い。もちろん全部が全部ダメというわけではなくオーナーの判断による。ただ、「NO」を出す大家が多いのは、自分の体験や周囲の話を聞いても実感としてある。

 騒音や早期退去が懸念されるなどの理由などで(とはいえ、ルームシェアをする人間が全員大騒ぎするわけでもなく、私自身のルームシェア生活も3年目に差し掛かろうとしているので、これもケースバイケースだと思うのだが……)、他人同士が3、4人で暮らしたいとなると、物件はかなり絞られるのが現状だ。

 また、ひとことで「ルームシェア」といっても、オーナーによって定義が様々で、賃貸ポータルサイトで「ルームシェア可・相談」と打ち出している部屋でも、実際に問い合わせてみたら家主の考える「ルームシェア」と借り主の考える「ルームシェア」の定義が異なり門前払いに……ということも起きたりする。

 そんな中、ルームシェア可賃貸物件を専門にあつかうサイトも存在する。「シェアカリ」は、関東圏を中心に構築した独自の賃貸物件データベースから、ユーザーの希望にかなう物件をチャットで提案することでルームシェア物件を探す上での煩雑さをできるだけ排除したサービスだ。「シェアカリ」を運営する日置愛さんに、ルームシェアをとりまく現状について話を訊いた。

第4回 「シェアカリ」日置愛さん

 日置さんは、もともとアメリカで働いており、その頃にルームシェアをしていたことから、「日本でもこの生活様式を広めたい」と、起業に至ったという。

「いろいろな価値観を持った人と暮らすことで、自分の可能性が広がると思うんです。アメリカでのシェア生活で出会った中国やインドの子たちは、本当にエネルギッシュで、“ぬるま湯に浸かってられないな”と、刺激を受けました。日本に帰ってからも友達とルームシェアをしていたのですが、そこでも同居人が私と暮らしたことがきっかけで、やりたいことを見つけて転職することがあって、誰と暮らすかで人生って変化が起きると感じたんです」

 ルームシェアがもたらす化学反応に可能性を感じた日置さん。ルームシェアという暮らし方は、まだまだ日本ではマイナーな存在で、物件を探す段階で一人暮らしや家族で借りるときよりも対応物件が少ない。さらに、冒頭でも述べたように、「ルームシェア可」と銘打った物件でも、貸主と借主の想定する「ルームシェア」が異なるケースも多々あり、賃貸ポータルサイトでは拾いきれないニーズがあると考えた。

「既存の賃貸ポータルサイトの場合、“ルームシェア可”で掲載されている物件でも、実態に問い合わせてみたら“きょうだいまでのシェア可”だとか、貸主によって定義が様々なんです。借主側の希望する“ルームシェア可”物件を見つけるまでに時間がかかってしまいます。そこで、その確認作業を短縮するというか、自分たちの希望するシェアの許可のとれる物件をピンポイントで紹介するサービスにたどり着いたんです」

 大々的にPRなどは行わず、現在はInstagramやTwitterのみで情報を発信しているためか、ユーザー層は20~40代が中心だそうだ。

「男女比は半々ですね、女性の場合は二人組が多く、セキュリティのしっかりしたマンションを折半して住みたいというご希望の方は多いです。一方、男性の場合はグループでの入居希望が多く、広い戸建てを希望する傾向はありますね。男女混合グループのシェアのお問い合わせも最近では増えています。」

 現在、サービスを運営する上で一番の課題は、増加するルームシェア需要に対して、貸し出しを了承する物件が足りていないことだという。

 サービス開始当初は「入居希望者をたくさん集めて、賃貸オーナーにルームシェアをの需要を知って貰えれば、物件数は増える」と考えていたが、増やすためには需要があることの証明ではなく、早期退去や欠員による家賃未払いリスクといった貸主側の不安要素を取り除く必要があった。

 ならば、貸出想定リスクをできるだけ補填できるような、複数名の入居に特化した家賃保証「シェアカリ保証」を作り管理会社へ営業に回ってみたが…….それも結果はあまり芳しくなかった。

「管理会社さんは、すで家賃保証会社を3~5社ほど抱えています。例えルームシェアの貸し出しリスクに配慮した家賃保証を用意しても、年間数件あるかないかのルームシェアの一契約のためだけに保証会社を切り替えるとなると、現場のオペレーションコストがかかりすぎてしまうんです……」

 「あらかじめ貸主側に具体的なルームシェアの相談許可をとっている物件」のデータベースを構築している「シェアカリ」だが、ルームシェアをしたければ、まず「シェアカリ」に問い合わせるのが一番の近道なのだろうか?

「どの不動産業者でも、9割は同じ物件を扱うことができます。なので、私達が扱う物件の多くも他の業者でも扱えるわけです。その9割の中で “シェアの貸出許可がとれている物件データ” を常に1番に揃えているのは弊社といえるかもしれませんが、“探す近道”かというと……」

 やや言葉を濁す日置さん。そこには賃貸不動産の世界の複雑さがある。

「3人以上のルームシェアの場合、一人の収入では払えないくらいの家賃になるため、与信審査の関係でシェアであることを伝えないと審査は通らないケースが多いです。しかし、2人のルームシェアの場合、どちらかの収入がある程度あれば、シェアであることを伝えなくても審査が通ります。そのため、シェアであることを黙って通すことを推奨する不動産仲介業者も多く、“ルームシェアNG”物件にシェアで住んでいるという方もも一定いらっしゃいます。シェアカリではルームシェア許可物件でのシェアのご提案しか行っていないので……」

 不動産会社はコンビニの数以上にあるという。それ故にそれぞれのやり方があり、多少強引な会社もあるということなのだろうか。

 そして、賃貸契約に関する法律は、一度入居したら借主に有利なものが多く、「こっそり二人で住んでいた」程度では退去を迫るのは難しいという。ルームシェアに難色をしめるオーナーが少なからずいるのも、騒音問題などで退去させることが難しいからだと推測できる。そして大半の大家が借主と直接やりとりするのではなく、不動産管理会社に業務を委託している。オーナーと管理会社の意識が変わらない限りは、ルームシェアへの偏見は変わらないのだろうか。

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