
GettyImagesより
ニューヨークの移民が投票権を得た。
東京都の武蔵野市で外国籍住民が住民投票に参加できるようにする法案の議論が続いているが、ちょうど同じ時期、ニューヨーク市では移民に地方選での投票権を与える法案が可決された。これにより2023年から永住権(グリーンカード)、または労働許可を持つ移民80万人が市長選、市議選、区長選などに投票できることとなった。州知事選を含む州レベル、大統領選を含む連邦レベルの選挙には投票できない。
対象となる移民80万人には、1.4万人の日本人も含まれる。
ニューヨーク市には2万人の日系移民が暮らしている。そこから米国市民権を取得済みの人と未成年を除く14,000人が新たに投票権を得る。この人たちはニューヨーク市の地方選と、日本の選挙(在外選挙)の両方に投票できることになる。
ちなみに他国からの移民に比べると、日本からの移民の米国市民権取得率は極めて低い。その理由は前々回のコラムに書いた。
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無資格滞在 → 労働許可 → 投票権
ニューヨーク市の移民都市振りをチェックしてみる。
ニューヨーク市の全人口880万人のうち、実に38%が外国生まれの移民だ。街ですれ違うニューヨーカー10人のうち4人近くが移民という計算になる。
移民は
(1) 米国市民権を取得して米国籍者となった人(すでに投票権を得ている)
(2) 永住権もしくは何かしらの滞在資格を持つ人(今回、投票権を得た人)
(3)滞在資格を持たない人
に大別できる。
滞在資格を持たない移民は、かつては不法移民(Illegal Immigrants)と呼ばれたが、近年は「Undocumented Immigrants」(書類に記載されていない移民)と呼ばれる。このグループには子供の時期に親に連れられ、もしくはすでにアメリカで働いていた親と再会するために単身で渡米し、滞在資格を得られないまま成長した若者たちが含まれる。
彼らは通称「ドリーマー」と呼ばれる。オバマ政権時代にドリーマーを出身国への強制送還から守り、進学と就職を許可するDACA(Deferred Action for Childhood Arrivals)という法が作られた。ドリーマーたちはより良い将来を得るために、政府に身元を把握されるリスクを冒してDACAに申請した。オバマ大統領が任期を終了した後、反移民の共和党政権となる可能性があり(実際、そうなった)、大きな賭けだったがドリーマーたちは大学進学や就職を果たし、結婚して子供をもうけた。
ドリーマーたちの不安は的中し、トランプがDACAを停止した。勉学や仕事を中断させられただけでなく、ICEと呼ばれる移民局の捜査官に捕まらないよう、自宅にこもる生活を強いられた。アメリカの将来を担う学生、すでに社会の一員として働いていた人々が強制送還と、それに伴う家族離散を恐れる日々に引き戻された。米国市民や永住権保持者などと結婚、またはアメリカ生まれの子供がいる人は家族をアメリカに残し、本人のみが送還されるのだ。
さらに言えば、ドリーマーの中には救急救命士など医療従事者もおり、コロナ禍の最中に貴重な労働力をアメリカは失っていたことになる。なんと愚かな政策であったことか。
現在、DACAは復活している。今回の新法により、ニューヨーク市に暮らすドリーマーのうち労働許可を持つ人たちも投票権を得た。社会に貢献し、納税する彼らは地方政治に参加する資格があると認められたのだ。
移民から政治家に
昔からアメリカには元移民(*)の政治家が少なからずおり、国務長官や各省の長官の座にまで上り詰めた人たちすらいる。現在も多くの移民政治家がおり、ミネソタ州選出のイルハン・オマル下院議員もその一人だ。

イルハン・オマル下院議員(wikipediaより)
オマル議員の一家は、議員が8歳の時に祖国ソマリアの内戦を逃れて出国。4年間をケニアの難民キャンプで過ごした後に渡米し、ミネソタ州に定住。同州には全米最大のソマリア系コミュニティがあり、現在4万人以上のソマリア人、ソマリア系アメリカ人が暮らしている。
オマル議員はイスラム教徒としてヒジャブを着けていることから、ミネソタ州に落ち着く前に暮らした州では学校で虐められたと語っている。ミネソタに移った頃には英語も上達し、活発に地域活動に参加し、やがて大学に進み、後に政治家となった。ちなみに議員となった後も「虐め」は続いており、つい先日、共和党の極右議員がオマル議員をイスラム過激派の自爆テロリストだとするジョークを発し、現在、大きな問題となっている。
幼い時期に移民した人であれば英語に母語の訛りもなく、第三者には「アメリカ人」にしか見えないこともある。けれど彼らは他者が理解できない同胞の苦労を知っており、コミュニティを代表して社会的弱者である移民の暮らしを改善していく。その際、祖国の文化、移民としての体験が必須となる。
ニューヨーク市の移民投票権法案を起こしたのも、ドミニカ共和国からの移民であるイダニス・ロドリゲス市会議員だ。同議員も9歳でニューヨークに移住している。今、ニューヨーク市の移民のうち、最大の人口を持つのはドミニカ系だ。つまり今回の移民投票権法はドミニカ系コミュニティが政治的、社会的に声をあげるのに大きく役立つのだ。

イダニス・ロドリゲスNY市会議員(wikipediaより)
(*)米国市民権を取得した時点で法的には「移民」でなく、米国市民(アメリカ人)となる。移民としての体験、祖国の文化を重要視し、移民と呼ばれることを厭わない人もいる。
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