娘は勉強が苦手だとわかっていても、高校までは行かせようと思った理由

文=うさぎママ
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前回までのあらすじ

 特別養子縁組によって一児の母になった著者。娘のアンちゃんが小さな頃から少しずつ養子であることを伝える「真実告知」を進めて信頼関係を築き、とても楽しく子育てしていたのですが、たったひとつだけ悩みがありました。

第3章 アンの子ども時代:小学生のアン

 アンが小学校の高学年になる頃、私には頭の痛いことがひとつだけありました。

 宿題はするけど、勉強は好きじゃないアン。というよりも、吞み込みが悪くて、十を聞いて一を知るタイプのアン(勉強に関してのみです。ほかのことは上手くできるし、特に対人関係はとてもデリケートに対応できて心配なし)。

 優等生になんかならなくてもいいし、偏差値の高い学校へ行かなくても全然かまわない。ただ「生まれてきてよかった」と思える充実した人生を送ってほしいと思っていました。だから、アンが小学生になっても教育ママとは程遠く、テストの点数で叱ったことは一度もなかったはずです。

 むしろ、明るくて友だちといい関係を保てるアンに安心していました。私は、その方面が苦手で、そういう人をとてもうらやましいと思っていたから。「クラスでいちばん面白い子」との評判を聞いたときは、ブラボー!アン!って思いました。

 ところが、マイペースなアンは本当に宿題しかしないし、「ある程度の成績は保つはず」と楽観していた私が青くなるほど、長い低迷期が続きました。そして、アンの将来に一抹の、いえ一抹どころか百抹の不安を抱くようになりました。アンは高校へ進学できるのか、とか。というわけで、この頃から少し勉強に口出しして、アンに煙たがられたのを覚えています。

娘「どうして宿題が終わっているのに、もっと勉強しないとダメなの?」
私「わかっていないとこは、もういっぺんやってみないと心配でしょ」
娘「心配じゃないよ、わかってるもん!」
私「じゃあ、やってみて」
娘「……」
私「ほら、やっぱりわかってないでしょ!」
娘「ふぇ〜ん(涙)」

 アンにしてみれば、突然の教育ママの出現です。さぞかし戸惑い、違和感を持ったことでしょうね。でも、元来おしゃべりなアンなので、私とはよく話をしていました。

 そう、こんなこともありましたっけ。夫の帰りが遅い夜、ふたりでテレビを見ながらのティータイム。

娘「パパって、こういう番組は嫌がるよね」
私「そうそう、でも面白いよね」

 と、ミーハー母娘が、これ幸いとテレビの人生相談を見ていたら、「養女です。かわいがってくれていた親に、小学生の頃から急に冷たい仕打ちを受け始めて、それから不幸です」って相談が……。「えっ、なんで〜?」とアンとふたり同時に声をあげました。司会者が「理由はなんでしょうか?」と聞くと、それがトラウマで幸せになれないという女性が口にした答えは「私の成績が悪かったからです」。

 アンと私は一瞬絶句し、その女性には申し訳ないけれど、次の瞬間には顔を見合わせて大爆笑でした。しばらくは、アンに「宿題やったの?」と声をかけるたびに、ふたりとも大笑い。不審がる夫に理由を説明したのですが、どうにも伝わらなくてイライラしたものです。

 あのときの女性は、幸せになれたでしょうか。成績にがっかりした養母さんは、どうしているのでしょうか。本当は笑い事ではなかったけれど、「笑いの中には微かな毒が含まれている」のいい例かも。もちろん、「微かな毒」というのは、教育ママ化した私のことですね。

 その後、小学校の卒業が1年後にせまった頃には、アンの将来が不安で、夜中に胸がしめつけられ、まんじりともせずに朝を迎えることもありました。ただただ心配をしていただけの母をみてきた私は、その轍だけは踏まないつもりで生きてきたので、冷静に分析してみました。その結果、私の心配は「アンが高校に入学・卒業できるのか」という一点にしぼることができました。

 アンを産んだ人は、当時19歳の学生でした。たぶん、出産のために休学して、しっかりしたアンの実祖母が復学させたのではないでしょうか。そんなことからも、アンを育てる以上は、せめて高校は卒業させたいと思っていました。いえ、アンさえ望めば、最高学府まででもなんでも、どんなことをしても学ばせたいと思っていたけど、そういうつもりはないようだし。学業に向いていない子に、それを押し付けるのは親の見栄やエゴだと思ってもいたので悩みました。

 生き抜くパワーやガッツ、何かの才能を持っていたら、学歴なんか関係ないでしょうが、アンは極めて普通の女の子。とにかく普通のレールにのせて、将来を考え始めたときに選択の幅があるようにと思ったのです。

 だから、結論としては「やはり高校は卒業させておこう」ってことですね。アンの天性の明るさが、たかが学歴ごときで消えてしまうのだけは避けたい。高校受験を回避するには、中高一貫の学校がいいと思い、いろいろとリサーチして、アンとも話し合い、手厚いと評判の伝統あるミッションスクールにアンを託すことに決めました。

次回更新は12月27日(月)です。

特別養子縁組について

 特別養子縁組は、子どもの福祉のために(親のためではなく)、子どもが実親(生みの親)との法的な親子関係を解消し、養親(育ての親)と実子に等しい親子関係を結ぶ制度です(※)。そんな特別養子縁組制度が成立した翌年の1988年、うさぎママ夫妻は児童相談所の仲介で0歳の娘・アンちゃんと出会い、親子になりました。

厚生労働省 特別養子縁組制度について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169158.html

※この連載は、書籍『産めないから、もらっちゃった!』(2012年、絶版)の改定版を公開するものです。

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