企画展に登場した衝撃の「昆虫食おままごとセット」。食文化への理解は進む……のか!?

文=ムシモアゼルギリコ
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 ごっこ遊びの一種である「おままごと」では、家での炊事・食事が模倣されます。それは単なる遊びというだけでなく、「食育」という役割もあるようで……。とある企画展の「昆虫食おままごとセット」を観賞し、そこから生じた雑感アレコレをお届けします。

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 私が「虫を食べる母」だということは、わりと早くから認識していた娘。1歳頃は既に、おままごとで皿に虫のおもちゃを盛って「どーじょ」としてくれていました。「トッカワールド」なるアプリにハマっている6歳の今では、バーチャルな遊び空間にペットとして現れる(多分)バッタをフライパンにぶちこみ、「はい虫料理できたよ♥」とふるまってくれます。食文化の多様性を理解……ではなく、母親である自分がウケるからです。味の好みはさておき、「食べられるもの・食べられないもの」の線引きって、いつどこで学ぶのでしょうか。

 娘が生まれてから今どきのおもちゃに触れるにつれ、いつもかすかな違和感を覚えていました。日本のおもちゃは、低年齢向けのままごとセットや絵本にも、度々「寿司」が登場するからです。理由・狙いは単純に「日本の食文化を遊びを通じて学ぶ」なのでしょうが、しかしそうはいっても、寿司は子供にとっては「身近な食べ物」ではないよな~と。

 一般的に、子供が生魚を食べても大丈夫とされるのは3歳ごろから。しかも、日常的にたくさんという感じではなく、少しだけ。一方、おままごとは1歳ともなれば興味を示しだす、ごっこ遊びです。果物や野菜、おにぎり、麺類、パンといった炭水化物あたりは離乳すれば毎日食べる食品なので親しみもありますが、寿司、分かってるのか!? 寿司のオモチャにはナショナリズム的な食育意識もあるのでしょうが、当事者である子供たちがどうとらえているのかという部分に、常々謎を感じていたのです。

 しかし、先日そんな違和感を吹き飛ばす、おままごとセットが登場しました。渋谷区神宮前の「ART・IN・GALLERY」で11月に開催されていた企画展「見る見る見た目展」(現在は終了)で展示された、「昆虫食おままごとセット」です。

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アートディレクター集団「弱みを握る寿司屋」が主催する「見た目」にまつわるデザイン展。見た目の課題(弱み)を観察し、「見た目」と「本質」のギャップから作品制作を試みたというもの。

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昆虫食ままごとセットのラインナップは、バッタ、セミ、エリサン(野蚕の仲間)。そして虫調理のための、鍋やフライパン、ピンセットなどの調理器具もセットになっている。これは「おままごとだから道具も必要だよね!」などという平凡な理由ではなく、加熱前はピンセット、加熱後はカトラリーにすることでコンタミネーションを防ぐという、細かい設定からなのだ。わかります。作者は北恭子氏。監修はNPO食用昆虫科学研究会理事長の佐伯真二郎氏。

 おままごとセットの虫は、ただの虫のオモチャに非ず。まずは嗅いでびっくり、ニオイつき(バッタフレーバー、エリサンフレーバー、セミフレーバー!)。こちら日頃虫を食べている私にも、イマイチ分からない香りでしたが、娘に至っては「変なにおい!」と顔をしかめておりました。単純に「香りを楽しむ」だけなら、フルーティな香りのタガメ一択なのでしょうけど、タガメ食のポイントである「香りを楽しむ調理」をおままごとに反映させるのは、難易度高そう。

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「ニオイつきなんだって!」と母に促され、素直に嗅ぐ娘。

 もうひとつの特徴は、実際に虫を調理する際の工程となる「翅や脚を外す」を体験できること。食べられないわけではないものの、口当たりをよくするために行われている、地味に大切な工程をおままごとにぶちこんでくるあたりが、すごい。展示の解説にはこう書いてありました。「バッタの太ももは美味しいのです」。肢の根元からもいでしまわず、 関節から下のギザギザだけとりのぞく重要ポイント! そうそう……と思わず頷いてしまう。

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セミの翅が磁石でパカっと外れます。1歳児くらいでも、楽しめそう。

 さて、日頃虫を食べない娘ではありますが(なんかいつもコレ書いてるな)、遊び盛りの6歳です。おままごとグッズとなれば、促されずとも自然と手が伸びます。そして黙々と翅を外し、調理の真似事をしている……! 寿司、無理があるよね~なんて思っていた私はバカでした。無理があろうがなかろうが、魅力的なおもちゃであれば子どもは手を出すもの。子供の遊びは全てが学び。今はタダのオモチャでも、いずれ遊んだ体験から何かしらの芽が出るのでしょう(出ないかもしれないけど)。

 注目はされつつあるものの、食習慣のない層からはまだまだ嫌われる事の多い昆虫食。本当に広めたいのであれば、次世代の意識を変えるべく、子供の遊びへ積極的に取り入れる事も考えていったほうがよさそうです(すごい反発も発生しそうですが)。昆虫食おままごとのコンセプト説明にあった「食文化への理解と想像力を育む」は、なるほどおままごとならスムーズに入り口に立てそうです。寿司がままごと化されているのも、なんとなく納得してしまった体験でした。子供向けの電子コンテンツではお料理アプリは山ほどあり、そこには外国料理のメニューも多種多様登場します。しかし遊びといえども、こうして手を動かして翅を外したりするほうが断然リアルだなと実感することもできました。

 虫を実食したことのない娘の昆虫食おままごとのほうですが、狙ってボケてんのか? と思うほどに、実際の食べ方からは清々しいほどに外れていました(一般的なおままごとも実際はそんなものですが)。鍋でコトコト似ているのは……胴体から外した翅と脚先。それ、捨てる部分だよ。それとも出汁でもとりますか?

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無理やり解説するならば「本来捨てる部分の翅や脚からもていねいに出汁をとり、シャキッとしたアスパラを浮かべて仕上げたスープです。大地の恵みを残らずいただきましょう」って感じかな。

おまけ

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後日、昆虫料理会がありました。ままごとセットで虫料理に親しんだら、虫を食べるだろうか、と一縷の望みを抱いてみたものの、やっぱり一切手を出さない娘。虫マレーシア料理、香り豊かで最高に美味しかったのになあ。保守派め。

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