「大人ってずるい」と思った時に読む絵本『みそしるをつくる』

文=ひとりがわそろこ
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 ひとりがわそろこ絵本相談室は、かつてのわたしの悩みに、現在のわたしが、回答として1冊の絵本を処方する、世界最狭のお悩み相談室。早いもので4回目。最近じゃあ、わたしって悩み相談にのるのが意外とうまいのかも、とさえ思えてきました。ま、すべて錯覚ですがね。それでは、今月のお悩みにまいります。

相談

「あさごはんのおもちにあきて、『げ、たべたくな』ていったのね。そしたら、『ならたべなくていい。かわりに、いますぐ、もちにあやまりなさい!』って、おこられた。いつもは、じぶんのいけんをだいじにしなさい、とかいうくせに。おとなはずるい」(6歳のそろこ)

処方

みそしるをつくる』(高山なおみ 文 長野陽一 写真 ブロンス新社)

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みそしるをつくる』(高山なおみ 文 長野陽一 写真 ブロンス新社)

大人の皮のその奥には・・・

 6歳のそろこ、わたしに相談してくれて、どうもありがとう!
 上手に相談できたね。同じそろことして、誇らしいよ。

 さて、ご相談案件。「餅に謝れ」ときたね。いきなり謝られても餅だって戸惑うよね。新年早々、災難でした。そんなそろこに処方する絵本は、『みそしるをつくる』(高山なおみ 文  長野陽一 写真 ブロンズ新社)です。この絵本を書いたのは、料理家の高山なおみさん。子どもの手でおいしいみそしるが簡単につくれる方法を、この絵本で教えてくれます。

 そろこはもう6歳だし、うすうす気づいているかもだけど、大人は結構言うことがコロコロ変わるし、完璧な存在じゃないわけね。あの人たちは、長くまとって肌になじんだ、大人の皮をぴっちり着ているけれど、それを脱ぐと、中身はそろこと変わらない、ぴかぴかの子どもが入ってたりするんだよ。

 大人は、子どもを一生懸命育てようと、洗濯したり、ごはんつくったり、仕事したり、まあがんばっているけれど、いかんせん中に子どもが一匹入っているもんだから、疲れてブレブレになっちゃうこともある。で、ブレブレの大人の言うことを絶対だと思い込んで、一緒になってふりまわされているうちに、子どももクラクラしてきちゃう。そんな風にならないためにできるいいことが、この絵本にはのってます。

自分でできるのが、いちばん楽しい

 餅やだ発言で、ピキンと怒った親の心境は、1、朝食づくりに疲れた。2、がんばってつくったいそべ餅を拒否され、くやしい。3、子どもの我儘を受け入れると、将来困った大人になりそうで心配。4、ねむい。まあ、こんなところでしょう。いずれにせよ、この状態で「焼きおにぎりにして」とか頼んでも「味いっしょだし!」と、さらに怒られるのが関の山。

 そんな時は、不毛な戦には出陣せず、自分で、みそしるをつくってみるといい。これは大人向けのレシピ本ではなく、子どもへ向けてまっすぐにつくられた絵本だから、おおらかで、字だって笑っちゃうくらいに大きいの。

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これならできる。やってみよう。

 見よう見まねで料理するうちに、そろこのムカムカも、すうっと消えてなくなる。これはね、ほんと。人間は、手を動かしてものをつくることに喜びを感じる生き物だから、あっという間に切り替わる。まあ、まずはためしてみて頂戴よ。

 書かれた通り手を動かしていくと、最後には出汁のしっかり取れた、お豆腐と油あげの、やさしい味のみそしるができあがる。あんまり簡単にできちゃうから、きっと、びっくりするはずだよ。

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わが家も、やってみましたよ。

 自分の手でおいしいものをつくれると、自分で自分を幸せにすることができる。

 これで、背中に羽が生えたくらい、自由の幅が広がるよ。料理も、気持ちのメンテナンスも、判断も、決断も、なんだって自分でできるのが、一番楽しくて幸せなことだからさ。

スマートで洗練された「勝ち」

 もうひとつ、ひとりでみそしるをつくれるようになると、何がいいって、誰かにつくってあげられること。

 湯気の立つみそしるをひとくち飲む。「ああ、おいしい」と息をつく。その人のからだは温まり、栄養がいきわたって、元気と優しさを取り戻す。これを全部、自分の手で提供できるってすごいこと。

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あぶらあげ すとん とん とん すとん と ん

 たとえば、目の前の大人が、イライラのブレブレだったとする。そろこは無言で台所に立ち、「おおきい おわん ちいさい おわん」をやる。最初から最後まで、子どもはちゃんと、ひとりでできる。できたてのみそしるを大人の前にことんと置く。大人はそれをひと口飲んで、ほうっと息をつく。その瞬間を見計らって、そろこは言うの。

 「どう、ちょっとは落ち着いた?」

 その時の大人の顔は見ものだよね。これは、怒鳴りあい、傷つけあうのではない、スマートで洗練された、そろこの勝ち方。ひとつの型としてぜひ覚えておいてよ。

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できました〜!

 『みそしるをつくる』ができるようになったら、『おにぎりをつくる』も試してみて。みそしるとおにぎりが自分ひとりでつくれたら、こわいものなし。

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自分でにぎると、とびきりおいしい。/『おにぎりをつくる』(高山なおみ 文 長野陽一 写真 ブロンス新社)

 お腹もすいてたし、今月はこの辺で終わりにしよう。

 6歳のそろこ、それじゃまたね。

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Illustration Stuart Ayre 
画家/翻訳家 英国オックスフォード大学で美術学士を修了後、来日。イラストレ ーションと翻訳の仕事を手がける。京都在住。 
WEB: https://www.stuart-ayre. com
Twitter: @stuartayre

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