ダラダラ、じっくり、演者の楽しんでいる顔がみたい…2021年バラエティ番組に見えた変化の兆し

文=西森路代
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『あちこちオードリー』(テレビ東京)より

 毎年年末になると「2021年のテレビやお笑いを振り返る」企画の依頼をもらう。次の年になるとなんとなく忘れてしまうようなテレビやお笑いに感じた空気感を、今年も書いておきたいと思う。

 テレビにとって、出演者が「役に立つ」ということとはどんなことだろうか。みなでひな壇に座り、VTRを見て、間にトークを繰り広げる番組であれば、短めのコメントをきっちり言って笑いをとり、その場の空気を壊さないことなどがあるだろう。そこでなんでもない無駄話をして円滑な流れを壊してしまったら「その話、楽屋でやってもらえますか?」と突っ込まれてしまう。そのとき、ゴールに点をいれたのは、無駄話を笑いに変えたつっこみの人やMCのほうになるのではないかと思う。

 2021年現在、ひな壇にたくさんのタレントやお笑い芸人や番組に宣伝できた俳優などがずらりと並び、一言でシュートを決めたり、弱いコメントにつっこみがアシストしてシュートするような番組はまだまだ存在しているが、少しずつ新たな形にシフトしようとしているように思う。

 ひとつは、朝のTBSで朝の帯番組として始まった『ラヴィット!』が特徴的だ。「すべてのひな壇バラエティは、大喜利であったのだ」という解釈をして、そこにまっこうから取り組んだ番組なのだと思う。

 これは大喜利に強く、自身のInstagramにて発信している“タグ大喜利”をムック化した『#麒麟川島のタグ大喜利』(宝島社)を出版した麒麟の川島明がMCだからこそできることだ。コンテストで結果を残した芸人などがスタジオゲストとして出演したり、ロケに行ったりと、お笑い芸人にとっては、可能性の広がる番組になっているし、番組の雰囲気も和気あいあいとしている。

 ひな壇のバラエティを、もっと大喜利に振り切ったのが『ラヴィット!』だとしたら、逆に、じっくり話す番組も生まれた。この流れのはじまりは、なんと言ってもテレビ東京で2019年の8月にパイロット版が始まり、その後、名前と時間帯を変えながら放送を続けている『あちこちオードリー』だろう。

 この番組では、ゲストはだいたいが1組、もしくは2組に限られており、台本も事前のアンケートもなく、オードリーの若林が、そのときに聞きたいと思ったことを聞いていくという形式になっており、ほかの番組では聞けないような芸人やタレントたちの本音が漏れ出すということで話題になった。

 話題になりすぎ、ネットニュースなどでかいつまんで記事化され、誤解されることも多いため、この番組のセットには、「ラジオじゃない」「不用意な発言禁止」「ライターがすげぇ見てる」というお品書きが貼ってあるくらいだ。

 私も、活字媒体もしくはWEB媒体で、お笑い芸人のインタビューを多数手掛ける立場として、『あちこちオードリー』のように深い話が聞き出せればいいなとも思っている。しかし、よくよく考えると、雑誌やWEB記事のインタビュアーというのはもともと、打ち合わせもアンケートも台本もない「ぶっつけ本番」が基本であるから、むしろ『あちこちオードリー』のほうが、雑誌やWEB記事のインタビューに近い作りなのではないかとも思ったりすもするのである。

 この『あちこちオードリー』のプロデューサーである佐久間宣行が手掛けるもう一つの番組『考えすぎちゃん ON TV 〜ワンクールだけの大冒険』も今年のテレビ/お笑いを語る上で欠かせない番組だろう。この番組は、動画配信サービスParaviで2020年9月7日から配信されていたが、2021年10月期からワンクールだけという条件でテレビ東京での地上波放送がスタートした。

 ファーストサマーウイカに、DJ松永(Creepy Nuts)、岡部大(ハナコ)、そして佐久間宣行に旬レギュラーの祖父江里奈(テレビ東京プロデューサー)という座組に、各局のプロデューサーがParaviで放送中の番組をおすすめしにやってくるというものだが、前半はレギュラー陣のざっくばらんとした雑談が繰り広げられ、後半で各局のプロデューサーが登場しても、番組紹介に徹するというよりは、やはり雑談という雰囲気が強い。

 面白かったのは、10月28日深夜の『考えすぎちゃん』の番組の中で、佐久間が「本質を喋るトーク番組が増えすぎて」「きっかけの一つおれが作っちゃったのもあるけど」「だからこの番組は、中身のないトークを」と語っていたことだ。そうは言いつつも、視聴者のお悩みを得意分野で解決しようとしているうちに、本質的な話になっているのが面白かった。

 自分のインタビューを振り返っても、あらかじめテーマに沿って引き出そうとした質問が本質的な話を引き出すものではなく、なにげない会話が続いた後に、ふと出てくることが多いのだが、『考えすぎちゃん』でも、そんなことが思い出されたのであった。

 テレビの一見、無駄にみえる話は、以前であれば「その話、楽屋でやってもらっていいですか?」と言われかねなかったが、昨今はそのモードも変わりつつあるように思える。

 そこに直結しているのかどうかはわからないが、コロナ以降に、おかずクラブのオカリナが、「ご飯食べながらダラダラ話してます。何も起こりません。それでも良ければ見てくれたら嬉しいです」というコンセプトで始めたYouTubeチャンネル「ときどきオカリナ」や、ぼる塾の4人が、やはりご飯を食べたりおしゃべりをしたりするYouTubeチャンネル「ぼる塾チャンネル」などが愛されていることも、無関係ではないのではないだろうか。

 今年は、阿佐ヶ谷姉妹のエッセイ『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』(幻冬舎)がNHKの「よるドラ」枠でドラマ化もされた。私はこの原作の文庫版の巻末インタビューを担当したのだが、そのとき編集さんから「おふたりが、好きな果物トップ5を手書き文字でTwitterにあげていたような、独特の空気感がただよう、なんでもない感じにしてほしい」というリクエストをいただいた。まさにそういうおもしろさが、テレビでもじわじわとではあるが、広がっているように思う。

 先述の『考えすぎちゃん』の11月4日深夜の放送では、松永が番組の冒頭で「いやー、楽しいね」としみじみ言うと、佐久間も「『楽しい』でワンクール乗り切ろうぜ」と返していた。またファーストサマーウイカも「演者が楽しんでるの見るのが一番楽しいみたいな平和な世界になろうとしてるから」というと、やはり佐久間が「テレ朝の『バラバラ大作戦』も夢を叶えてあげる番組ばっかりじゃない」と具体例をあげ、「出演者の夢を叶えてる番組のほうが、応援されるんだよね最近」と言っていた。

 これを聞いて、『M-1グランプリ』で優勝した錦鯉のふたりが歓喜して泣いてしまった顔や、彼らの優勝を見守る芸人仲間や審査員の顔を思い出してしまった。やっぱり『M-1』も、「夢が叶ったことを皆が一緒になって喜ぶ」番組であり、その傾向がこれまでよりも強くなっていた気がした。もちろん、自分もそんな風に見たひとりである。

 これが、いいとか悪いとか、ここからどうなっていくのかはまた別の話であるが、2021年のテレビにはそんな空気が確かに漂っていたということを、記録しておきたいと思う。

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