2021年のメンタルヘルス事件を振り返る 新型コロナ、セレブ、身体拘束、小山田圭吾…

文=みわよしこ
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 新型コロナウイルスとともに始まった2021年が、夏の東京五輪を経て終わろうとしている。肉眼では見えない新型コロナウイルスは、直接的あるいは間接的に、メンタルヘルスに対する多大な打撃を与え続けている。経済的打撃がメンタルヘルスの悪化につながっていることは、自殺者の増加などによって確認されており、もはや疑いようがない。「貧すれば鈍する」ことに対する最大のクスリは、現金給付だ。しかし、18歳以下の子ども限定の10万円の給付金でさえ、配布形態や方法をめぐり、政党間、あるいは国と地方の間で紛糾が続いている。

2021年のメンタルヘルス事件10選

 2021年のメンタルヘルス事件のうち重要なものを、筆者の独断と偏見で、10件紹介したい。前編は、最初の5件を紹介する。

1. 弱者は見殺したい行政のホンネ露見か

 2021年に入って間もない1月8日、杉並区長・田中良氏は、東京都知事・小池百合子氏に対して「新型コロナウイルス感染症対策に関する緊急要望について」と題する文書で申し入れを行った。

 田中氏の申し入れ内容は、11日、『文春オンライン』に発表された葉上太郎氏(地方自治ジャーナリスト)の記事によって、一般読者へ紹介された。新型コロナ感染症の感染拡大により医療資源が逼迫する際、人工呼吸器やECMOなどの医療資源を配分する「トリアージ」にあたり、年齢・基礎疾患などによって「人口呼吸器などを付けても延命にしかならないようなケース」「逆に救える患者の傾向」を明らかにし、住民が議論して誰に医療資源を割り当てるかを事前に定めておくことが必要だと田中氏は語る。

 緊急性や重症度によって治療の優先度を決めて医療資源の最適配分を図るのが本来のトリアージである。田中氏の考え方は「コストとベネフィットによる命の価格設定」と呼ぶのが適切であろう。杉並区内および全国の障害当事者団体・支援団体多数は、激しく反発し、抗議を表明した。2021年12月現在も、杉並区内の障害者・支援者と区側の粘り強い対話が続けられている。しかし田中氏および杉並区は、この方針を撤回していない。

 前後して、八王子市および川崎市が、障害者施設(障害児施設を含む)・高齢者施設・病院(精神科病院を含む)に対し、「入所者および入院患者が新型コロナ感染症に罹患して重症化した場合、専門治療施設に搬送して治療を受けさせることは断念してほしい」と読み取ることのできる依頼を発した。川崎市は、入所者や入院患者に対する専門治療施設への入院調整を行う条件を相当の重症に限定しており、「治療効果が見込める状態のうちは治療しないということか?」と勘ぐりたくなる。障害当事者団体等は、両市に対しても申し入れと対話を行っていたが、明確な回答が得られないまま、7月・8月の第5波へと突入することとなった。そして高齢者を中心に、必要な治療を受けられないまま亡くなる人々が続出した。

2. 精神科病院の大規模感染クラスターは止まらない

 「3密」が揃いやすい精神科病院では、2020年3月から感染クラスターの発生が続いており、感染者が100人を超えるケースも珍しくない。精神科入院患者を円滑に受け入れる専門治療機関は極めて少ないため、入院患者が感染すると、治療されないまま亡くなる可能性は低くないはずだ。しかし、実態や全体像を把握することは、現在のところは不可能である。

 9月、日本精神科病院協会(日精協)が公表した独自調査結果によれば、8月までに入院患者3602人が新型コロナに感染し、そのうち235人が必要な治療を受けられずに亡くなったということである。ここから死亡率を計算すると6.5%となり、日本全体での死亡率1.1%の約6倍にあたる。

 精神科入院患者には、長期入院あるいは認知症を背景とした高齢者が多い。2020年6月30日現在のデータでは、約27万人の精神科入院患者のうち約63%が、65歳以上の高齢者であった。しかし、全国での新型コロナ感染症による死亡率は、年齢階層によって1.0%(65~69歳)~5.6%(90歳~)の間に分布しており、精神科病院での死亡率よりも低い。精神科病院は、少なくとも「病院だから安心」と言える状況ではない。

 そして、公表された結果には転帰が示されていない。「必要な治療が得られたけれども亡くなった」という患者数を含めると、死亡率はより高くなるはずである。クラスター発生を公表していない精神科病院も存在する上に、厚労省が実態を直接把握しているわけではないことを考慮すると、真の実態はさらに恐るべきものであろう。

 必要かつ可能だったはずの事前の対策が、行われていなかったケースもある。8月、沖縄県うるま市の「うるま記念病院」で、入院患者およびスタッフ合計約200人のクラスターが発生した。沖縄県では最大の感染クラスターとなり、死者は最終的に71人に達した。同病院の入院患者は主に認知症等の高齢者であり、感染した患者のうち約80%はワクチン未接種または1回のみ接種であった。

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