中年レズビアンの過去と未来を描いた映画『ユンヒへ』 イム・デヒョン監督インタビュー

文=西森路代
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©2019 FILM RUN and LITTLE BIG PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

 2022年1月7日より劇場公開予定の『ユンヒヘ』は、韓国の地方都市で娘のセボムと二人で暮らすユンヒが、20年前の初恋の相手・ジュンから届いた一通の手紙をきっかけに、自分自身と向き合う映画だ。

 これまで韓国では、中年のレズビアンの恋愛は正面から描かれることが少なかったというイム・デヒョン監督。2020年に韓国のアカデミー賞ともいえる青龍映画賞で最優秀監督賞と脚本賞を受賞した本作品について、お話を伺った。

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イム・デヒョン
1986年7月28日生まれ。ソウル、漢陽大学にて映画と演劇を専攻し、2014年、短編『THE WORLD OF IF』にて、ミザンセーヌ映画祭、特別審査員賞を受賞。2016年、ある日突然、癌宣告を受けることになった中年男性の悲哀を描いた、白黒のコメディ映画『メリークリスマス、ミスターモ』にて長編デビュー。釜山国際映画祭のNETPAC賞、ワイルドフラワー映画賞の新人監督賞を受賞したほか、カルロヴィヴァリ国際映画祭を含む他の多くの映画祭に招待された。2021年、「男女平等週間」(9月1日~9月7日)に行われた韓国映画監督組合(DGK)主催のイベント『ベクデルデー2021』では、メイントレーラーを演出。才能豊かな韓国映画界において、いま最も期待される若き俊英である。

フェミニズムは時代を代表する精神になりつつある

――監督は、中年の世代の性的少数者について考える機会を作りたいと思ってこの映画を作ったとお聞きしました。その中でもレズビアンの女性に焦点を当てた理由はどこにあったんでしょうか?

私はもともと性的少数者の物語を映画はもっと描くべきであると思っていました。また、フェミニズムは今や韓国では時代を代表する精神になりつつあります。また、韓国で中年女性がメインキャラクターになった作品は多くなくて、まだ取り組んだことのない物語だと思いました。誰かに背中を押されたということでもないんですが、2019年頃に、一人のクリエイターとして、責任感とプレッシャーも感じながらも、自分なりに悩み、勉強しながらこの作品を撮ってみたいと思い、この映画を作ることになりました。

――「フェミニズムは時代を代表する精神になりつつある」とのことですが、監督自身はどのようにその変遷を見られてきましたか?

私の考えでは、韓国社会の変化のスピードはものすごく早いと思うんですね。以前の世代は抑圧や差別が非常に激しかったわけですが、それを克服して進歩するために大勢の人が様々な発言をしたり、抵抗をしたりする中で、様々な衝突も起きていたと思います。そして今日もまた毎日進歩しようとして頑張っている人達がいます。ただ、まだまだ道のりは長いと思います。

――監督は以前のインタビューで、この映画は男女を二分化して書く物語ではないと言われていて、それは映画を見て私も感じました。一方で、この物語に出てくる男性が、ユンヒに固定化したジェンダー観でものを言ったりする場面もあって、とてもリアリティがありました。

私自身も、以前からある性的役割分担を強要される状況をたくさん見てきました。子供のときから、そういう雰囲気が空気の中に取り込まれているので、それが行動様式の中に取り込まれてしまって、にじみ出てしまってる人もいると思います。フェミニズムにおいて、家父長制度の問題、それから性別を二分してすべてを論じるようなことからは脱却すべきと思っています。映画は監督個人の文学作品ではないので、多くの方にアイデアをもらったりして、シナリオを完成させました。

経験が反映されたシーン

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――ユンヒとジュンの2人も魅力的でしたが、彼女たちを囲むユンヒの娘のセボムやジュンの伯母のマサコも素敵な人々でした。これらの人物はどのように生まれていったんでしょうか。

私はこの映画において、セボムとマサコは、本当に重要な人物だと思っていました。というのも、この2人のおかげでユンヒとジュンが再会できるからです。ユンヒもジュンも、それぞれ家族から受けた傷を抱えていたんですが、長い時間を経て、またもう一度、別の家族の手によってそれが癒されるという点でも、セボムとマサコの存在は非常に大切だと思いました。そういうことを考えると、この映画は家族の物語とも言えますね。

――本当に細かいシーンが一つ一つ良くて、マサコとジュンがハグをし合うシーンもよかったですし、逆にジュンの親戚の男性の言動も本当にどこかにいそうな感じでした。そういう細かいところは監督の経験や観察によるものなんですか。

やはり監督は、シナリオ書く作家という立場でもあるので何か作品を書く時に自分の経験を土台にすることはよくありますよね。自分の経験が無意識の中でもある時ふっと出てくることもあります。直接自分が経験したことに基づいている部分もあれば、本を読んで間接的に経験したことが反映されているところもあります。

その一つが、ユンヒが手書きで履歴書を書いている時に高卒という文字がクローズアップされるシーンで、そこはぜひ映し出したいと思っていたところなんです。ユンヒはそれまでは兄の助けで就職したりしてきたんですが、兄の力を借りずに自分で仕事を探そうとしています。ユンヒは初めて自分で勇気を出して履歴書を書いてるんですが、その姿を娘に見せているんだということを表現したいと思いました。

実はそれが私の経験に基づいていることです。過去に私の母が履歴書を書いているときに私が横で手伝ったことがあったんですね。そのとき、母が履歴書を書き終えて、すごく喜んでいました。あのシーンにも私の経験が入ってるんです。

静かなようで、激しい映画『ユンヒへ』

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――それで、監督は岩井俊二監督の『Love Letter』がお好きということです。この作品は、韓国でも支持されている作品だと聞いていますが、『Love Letter』は、どのような見られ方をしていたんでしょうか。

韓国では冬になると必ずと言っていいほど言及されるのが『Love Letter』なんですね。『Love Letter』は1995年に作られた作品ですが、私自身も子供の頃に見ていました。作品の舞台になった小樽を旅行したことがあるんですが、そのきっかけというのも『Love Letter』が大好きな友達に強く誘われて旅行することになったからだったんです。

今回の『ユンヒへ』も舞台が小樽であり、そして雪が降っていて、手紙も出てくるということで、おそらく多くの方が『Love Letter』を思い出すだろうと予想しました。そう思ったので、この作品を作るときには逆に参考にしないようにしていました。作り手としては、やはり似たような作品になってしまうのを避けなければいけないという思いが強くあります。だから、その点においては、非常に注意深く考えながら作りました。

実は、むしろ影響を受けたのは、オーストリアの作家シュテファン・ツヴァイクの『見知らぬ女の手紙』という小説を1948年に映画化した『忘れじの面影』のほうかもしれません。それともうひとつ、日本の荻上直子さんの作品も好きで、拝見しました。荻上監督のあるインタビューを読んだら、「自分の作品はあっさりした作品だと言われています。でも、表向きはそう見えるかもしれないけれど、非常に感情の激しいドラマチックな作品なんです」と言われていたんです。

私も、今回の『ユンヒへ』に関しても、同じように思っています。『ユンヒへ』も、一見あっさりしているように見えるかもしれません。でも、私の中ではドラマチックで激しい感情を描いている作品なんです。

Information

『ユンヒへ』
2022年1月7日(金)シネマート新宿ほか全国ロードショー
公式サイト:transformer.co.jp/m/dearyunhee

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