サウザンブックス社さんが、フェミニズムの視点からトランス女性の経験をひもとく金字塔的エッセイ(洋書)『Whipping Girl: A Transsexual Woman on Sexism and the Scapegoating of Femininity』 の翻訳出版をめざすクラウドファンディングを、2022年1月14日(金)より4月14日(木)まで実施。本プロジェクトを応援すべく、プレスリリースを転載させていただきました。
さらにwezzyでは、2月18日19時より、クラウドファンディング応援オンラインイベントを開催いたします。近日掲載予定のイベント告知記事もご確認ください!
非公開: 【2月18日(金)19時配信】遠藤まめた×高井ゆと里×三木那由他『ホイッピング・ガール』翻訳プロジェクト応援イベント開催!
フェミニズムの視点からトランス女性の経験をひもとく金字塔的エッセイ(洋書)『Whipping Girl: A Transsexual Woman on S…
トランスアクティビズムはフェミニズム運動である。
様々な視点で、性別移行をめぐる経験を分析する。
トランスジェンダーの当事者による本といえば、自叙伝が定番だが、2007年に発表された本作はちがった。著者のジュリア・セラーノはトランス女性かつフェミニスト、さらには生物学者という超ユニークな視点で、性別移行をめぐる経験を分析したエッセイを綴り、世界中に大きな衝撃をあたえたのだ。
それまで性別越境については好き放題に解釈されていた。精神科医はトランスを病気だと考えた。内分泌医はホルモンのせいだと考えた。社会構築主義の学者はすべてが後天的に形成されたと説明し、文化人類学者は「第三の性」を西洋中心主義を批判するためのアイテムとして消費した。一部のトランス排除主義のフェミニストは「きちんと教育されてフェミニズムが広まればトランスジェンダーはいなくなる」と説明した。どうして当事者の話していることを聞いてくれないんだろう。トランスの人生は、あなたの持説強化のための標本ではない。私たちの話を聞いて。そんな思いが本エッセイでは全編を通して貫かれている。
特にトランス女性に対する偏見が女性蔑視(ミソジニー)に基づいたものであることが明らかにされていく様は、圧巻だ。トランス男性に対してはそこまで干渉されないのに、トランス女性に対しては強いフォビアが向けられるのはどうして。男性的だとみなされる性質は「優れている」とか「自然だ」「普通」とかみなされるのに、女性的だとみなされる性質が「人工的だ」とか「劣っている」「演技してる」「セクシュアルなものに由来する」とみなされ、トランス女性はトランス男性よりも攻撃されていく。その根本にあるのは実は、単なる「トランスフォビア」ではなくて、「女性的であること」そのものに対する世間の強烈な女性蔑視(ミソジニー)にほかならないと、セラーノは訴える。
ある人がフェミニンに振る舞うとき、男のためだとか、だますためとか、女性ジェンダーを強化しているとか、わざとらしいとか、いろんな非難が飛び交う社会を、著者はユニークな視点で分析し、問いかける。あなたが排除しようとしているのはトランス女性ですか。それとも「女性的である」とみなされるものがお気に召さないのでしょうかと。
出版されてから今日まで、北米のフェミニズム、クィアスタディーズ、社会学、心理学の大学講義で広く使われている。
女性嫌悪、トランスフォビア 今、必要な言葉がここにある。

ホイッピングガール応援チーム代表 遠藤まめた(えんどうまめた)
一般社団法人にじーず代表。「LGBTの子ども・若者が安心して思春期をサバイバルできるつながりを作ること」をミッションにLGBTユースの居場所を広げるための活動をしています
米国在住の友人が帰国した際、おみやげに渡されたのが「ホイッピング・ガール」でした。トランス男性に対しては向けられない嫌悪が、どうしてトランス女性にはむけられるのか。学校では女子のスラックス制服導入は進むのに、男子のスカート着用には消極的な先生が多いのはなぜ。LGBTコミュニティでも、トランス女性はお断りの女性向けイベントが、なぜかトランス男性には参加の門戸をひろげているところがある。長年気になっていた非対称性について、すべて解き明かしているのがジュリア・セラーノだった。
昨今、SNSなどを中心にトランス女性に対するバッシングがひろまっている。トランス女性に対する攻撃は、単なるトランスフォビアではなく、もう少し根が深いものだ。攻撃をしている人たちの中には、フェミニストを自称している人たちもいるが、彼女たちの様子をみていると「自分は女性であることでこんなに苦しんでいるのに、男性として生まれた人間が自分は女性であると捉え、そのように生きようとするなんて信じられない」という、自身の人生に対する苦しみを根強く抱えている人が多いようだ。
仲間たちと読書会をかさねて、英語の本なのに最後まで夢中で読んでしまった。そして、女性嫌悪的な社会だからこそ、女性嫌悪に苦しむ女性が、トランス女性を攻撃しているのだと確信するようになった。トランス排除言説を目にする機会が増えた現在の日本に必要な言葉がここにある。本書は、トランスフォビアだけではなく女性嫌悪が克服されるためにもなくてはならないエッセイだ。

『Whipping Girl: A Transsexual Woman on Sexism and the Scapegoating of Femininity』(Seal Press)
著:Julia Serano(ジュリア・セラーノ)
1967年生まれ、アメリカの作家、ミュージシャン、トランスジェンダーの活動家、生物学者(コロンビア大学で生化学および分子生物物理学の博士号取得)。代表的なトランス・フェミニストの論客。ジュリアの著作は、ニューヨークタイムズ、TIME、ガーディアン、デイリービースト、サロン、AlterNet.org、The Advocate、Out、Bitch、Ms.マガジンなどのメディアに掲載されており、北米の大学でジェンダー研究、クィア/LGBTQ研究、人類学、社会学、心理学、ヒューマンセクシュアリティのコースで教材としてよく使われている。
翻訳:矢部文
ロサンゼルスを拠点とする日系LGBTQ団体、OkaeriのOkaeri Connects!日本語グループ共同ファシリテーター。アジア系LGBTQ当事者とその家族のサポートグループであるAPI Rainbow Parents of PFLAG NYCメンバー。NQAPIA(National Queer Asian Pacific Islander Alliance)プロジェクトコンサルタント。レズビアンで既婚の娘の母親。日本人を含むアジア系LGBTQ当事者とその家族を可視化することで、彼らの存在が当たり前と受け止められる社会づくりを目指して活動中。ニューヨーク在住。