
GettyImagesより
アメリカでのコロナ禍は、アジア系へのヘイトを急増させた。トランプが「チャイナ・ウイルス」を連呼したからだ。全米のあちこちでアジア系への凄まじいヘイトクライムが起きた。すれ違いざまに「ファッキン・チャイニーズ!」と叫ばれる、いきなり飛び蹴りを食らわされる、鉄パイプで殴られる……など惨憺たる事件が続発した。
その最たるものが昨年3月にジョージア州のアジア系マッサージ・スパで起きた乱射事件だ。若い白人男性の乱射によって命を奪われた8人のうち、6人がアジア系の女性だった。
全米でアジア系への憎悪広がる「アメリカに新型コロナウイルスを持ち込んだ奴ら」
全米各地でアジア系へのヘイト・クライムが吹き荒れている。「中国人がアメリカに新型コロナウイルスを持ち込んだ」として憎悪の対象になっているのだ。 「…
五輪メダリスト、スーニ・リーへのヘイト
乱射事件の後もアジア系へのヘイトクライムは続き、各地のアジア系団体、警察、アジア系セレブたちよる被害予防の努力が続き、メディアも盛んに報じた。その甲斐あってか、 暴力を伴うヘイトクライムは徐々に減っていった。
だが、皆無になったわけではない。
昨年の東京オリンピックにて、アジア系アメリカ人として初めて体操女子個人総合で金メダルを獲得したスニーサ・リー選手は、一躍時の人となった。スーニ(スニーサの愛称)はモン族系のアメリカ人だ。モン族は中国南部、ベトナム、ラオス、タイ、ミャンマーなどに暮らす民族で、スーニの母親はラオスからの難民として渡米している。
オリンピックでの活躍によりタイム誌の「2021 最も影響力ある100人」に選ばれ、人気のダンス・リアリティ番組「Dancing With the Stars」にも出演したスーニもまた、アジア系へのヘイトクライムに遭遇している。昨年、アジア系の友人たちと道で車を待っていたところ、行き過ぎる車の中から「チン、チョン(中国語の音まね)」「出身国に帰れ」などと侮蔑され、催涙スプレーを吹きかけられたと言う。
また、つい先日もカナダのモントリオールのスーパーマーケットにて、買い物客の白人女性が「21カ月ものファッキン・コロナ禍を持ち込んだのはチャイニーズ」「ファッキン・ピープル!」「ルーザー!」と喚き立てるシーンが撮影され、SNSに投稿されたばかりだ。
リプレゼンテーション・マターズ
延々と続くアジア系ヘイトを抑止するための努力もまた続いている。BLMを発端とする「多様性」の展開も手伝い、大企業も徐々に黒人だけでなく、アジア系のメディア露出を始めている。
スターバックスの昨年のホリデーシーズンのCMのひとつが、アジア系の若い女性と祖母が、雪がちらつく中、笑顔でコーヒーを囲む「Holidays: Love You Nai Nai」だ。”Nai Nai” は中国語で「おばあちゃん」を意味する。
現代アメリカン・カルチャーを代表する企業であるスターバックスがアジア系のみを起用したCMは非常に新鮮に見えた。逆に言えば、これまでの同社のイメージ戦略にアジア系アメリカ人はほぼ含まれていなかったことになる。
Starbucks TV Spot, ‘Holidays: Love You Nai Nai’
https://www.ispot.tv/ad/qD7l/starbucks-holidays-love-you-nai-nai
バービー人形のマテル社傘下の、もう1つの人形ブランド「アメリカン・ドール」は、コリーン・タンと名付けたアジア系の人形を販売開始した。コリーンは「コロラド出身・スキーとレスキュー犬の訓練が大好き・中国系アメリカ人」というプロフィール設定がなされている。同社は毎年1種の人形を選んでフィーチャーする「今年の女の子」にコリーンを初のアジア系として選び、プロモーションしている。同社はコリーンを介してAAPI Youth Rising(*)というNPOとタイアップし、アジア系ヘイトや外国人ヘイト抑止の啓蒙活動を行うとしている。
*AAPI = Asian American and Pacific Islander = アジア系アメリカ人および太平洋諸島系
アメリカン・ドールのコリーン・タン人形
Our newest trailblazer hits the slopes! Meet 2022 Girl of the Year™ Corinne Tan. ⛷️ 🐾 ⛰️#CorinneTan https://t.co/iAQ2UDUETm pic.twitter.com/yU3Uuy0lTy
— American Girl (@American_Girl) December 30, 2021
英語に “Representation matters”(リプレゼンテーション・マターズ)というフレーズがある。リプレゼンテーションとは「表す、表現する、描写」などを意味する。これまでアジア系に限らず、あらゆるマイノリティはメディア露出が少なかった。映画であれ、CMであれ、人形のような商品であれ、多くの人が目にする回数が増えるほど、見る側はそのグループを自分とは異なる特殊なグループととらえず、自分の周囲にもいる人々なのだと認識するようになる。同時にマイノリティ側は自尊心、社会の一員としての意識を持てるという意味だ。
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