アジア系ヘイトのその後〜深まったアジア系とアフリカン・アメリカンの溝

文=堂本かおる
【この記事のキーワード】

「人種もジェンダーも関係ない」

 コロナ禍の初期に吹き荒れたアジア系への苛烈な暴力犯罪は減ったとはいえ、犠牲者たちは今も苦しみ続けている。

 昨年4月にニューヨークでアジア系男性が襲われる事件があった。中国からの移民であるヤオ・パン・マ氏(61)はレストランに勤めていたが、コロナ禍で職を失った。失業保険を得られなかったマ氏は空き缶拾いを始めたという。イースト・ハーレムで空き缶を集めていたマ氏は通りすがりの黒人男性に地面に投げ出され、何度も頭を踏み付けられた。監視カメラに映されていた映像は、とても正視できるものではなかった。病院に搬送されたマ氏は昏睡状態となり、8カ月後の12月31日にこの世を去った。マ氏の妻は、独りアメリカに取り残された。

 逃走した男は事件の翌日、入所していたホームレス・シェルターで逮捕された。男は取り調べの際、アジア系に恨みはないが、犯行前日に韓国人と日本人の男に強盗された、翌日に道で見掛けたマ氏はその一人だったと、作り話としか思えない供述をしている。男は殺人未遂・暴行罪・ヘイトクライムですでに起訴されているが、マ氏の死亡により殺人罪が加わる。

 この事件も含め、アジア系への暴力ヘイトクライムの現場を撮影した映像を見る限り、加害者には黒人男性が多かった。挙動不審な者が多く、逮捕されてみるとホームレスであることも多々あった。社会的弱者が「コロナウイルスは中国人が持ち込んだ」という大統領によるデマに踊らされ、アジア系へのヘイトクライム多発という「流行」に乗ってさらなる社会的弱者を襲ったのだ。しかし、人生を滅ぼされた被害者、犠牲者には襲った側の理由や背景は関係ない。

 五輪金メダリスト、スーニ・リーは今、同族であるモン族系アメリカ人からのヘイトに困惑している。先日、スーニが恋人とのセルフィーをインスタグラムにアップしたところ、モン族からのネガティブなメッセージが殺到したのだ。恋人はアフリカン・アメリカンだった。

 オリンピックでの快挙に熱狂した同胞たちが、自分のパーソナルな幸せに異を唱えたことに深く傷付いたスーニはインスタグラムのコメント機能を停止している。しかし、モン族の若者から「愛は愛だね。人種もジェンダーも関係ない」のメッセージがTikTokにあり、それに救われたとスーニは書いている。

 以前より燻っており、コロナ禍でさらに複雑化したアジア系アメリカ人とアフリカン・アメリカンの関係性をいったいどう修復すればいいのだろうか。そもそも加害側の人種を問わない、アジア系への慢性化した見下し、マイクロアグレッション、つまり非暴力差別もある。さらに、徐々に社会的に頭角を現し始めたアジア系への嫉みも現れてくるだろう。

 アメリカに暮らすアジア系の、差別解消への模索は今後も続く。

ヘイトが殺到したスーニと恋人の写真(インスタグラム)

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