フェミニズムを知って幸せになった石川優実が考える「早く知っておきたかった」社会のこと

文=三浦ゆえ
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 石川さんは、2018年からWEZZYで専門家に取材し、不定期で連載してきた。性的同意、痴漢、選択的夫婦別姓、韓国の女性差別とフェミニズム……。そのなかで「はじめて知った!」「社会はこんなことになっていたんだ」と何度も驚きがあった。

 担当編集となった筆者にとって印象的だったのは、選択的夫婦別姓について取材しませんか、と提案したときのこと。石川さんはピンと来ていない様子だった。日本では夫婦は同姓でなければならないと法律で定められており、約96%は女性が改姓する。「それって何かダメなんですか?」と石川さん。自分も結婚するときがくれば、当然姓を変えるのだと思っていた。

 それが、選択的夫婦別姓の問題に最前線で取り組んでいた弁護士の打越さく良さん(現参議院議員)への取材を経て、変わった。ぜひ記事をご一読いただきたい。

どうして日本では夫婦別姓にできないの? 「自分の名前」を失う女性たちの生きづらさ

 こんにちは。グラビア女優の石川優実です。2017年末に#Metooについての記事を書き、みずからの性暴力被害について向き合ったことをきっかけに「男…

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フェミニズムを知って幸せになった石川優実が考える「早く知っておきたかった」社会のことの画像2 ウェジー 2018.09.18

石川「姓や戸籍について考えたこと、なかったんですよね。何のためにあるのか、自分の戸籍はどうなっていて、もし結婚したらどうなるのか……はじめて考えるきっかけになりました」

 これも「早く知っておきたかった」「教わっていたかった」ことのひとつになった。私たちは社会について知らされないことがあまりに多いのではないか。石川さんが10代のとき将来の像をうまく描けなかったのも、それゆえだと言う。

石川「高校生のころって、社会にある職業をよく知らないし、知る機会もすごく少ないと思うんですよね。身近な人を通して知ることはありますが、うちは父が一般的なサラリーマンで、母は専業主婦。私が通っていたのは商業高校で、資格取得の勉強をしてだいたいの生徒は卒業後に事務職に就職します。どんな職業があるのか知らないので、選択以前の話だと思うんです。大学に行っていれば、そこで取れる資格もあるしまた将来の考えも違ったと思うのですが、高校受験の段階で『女の子なんだし、大学は行かないよね』という空気がありました。そこで私の場合、テレビで見たことある芸能人という仕事は知っていたから、そちらに進んだというのもあります」

 はっきりと進学を断念するよう言われたわけではない。”空気”ーー明文化されないまま、当たり前のように共有されていてる価値観や規範。はっきりと強制されるわけではないけれど圧のようにのしかかり、異を唱えたり抗ったりするのはとてもむずかしい。男性優位や女性差別の価値観も、多くはそんな空気として私たちの日常に溶け込んでいる。

 石川さんは空気を必死で読み、それを最優先しながら10代、20代を送ってきた。学校、恋愛、家族関係、友人関係……空気はどこにでも漂っていて、読まなければいけないプレッシャーが常にある。ずっと感じていた息苦しさや、胸に巣食っていた違和感が率直につづられた文に、共感する女性は少なくないだろう。筆者もそのひとりだ。

 #MeTooをして、フェミニズムの価値観を知った。葬儀会社で働いたときの経験から、職場のハイヒールやパンプスの着用が女性にのみ強制されていることに抗議する#KuTooをはじめた。これまで「こういうもの」と飲み込んでいたことを、あきらめなくなった。そして著書のタイトルで「もう空気なんて読まない」と宣言する。

石川「フェミニズムを知り考え方が変わって、女性差別をするような人とは仕事をしないとか親しくしないとか自分の行動を自分で選べるようになって、私自身の問題はだいぶ解決されたと感じます。それでも今後なんらかの被害に遭うことはあるかもしれませんが、相談先もわかっているし、声を上げることもできます。だから、いま悩んでいる人には『まずはちょっとでいいから、フェミニズムを知ってみない?』と提案したいです。でも……たいへんな思いをしている真っ最中の人にはなかなか声が届かないんですよね」

 石川さんが特にむずかしさを感じたのは、夫からのモラハラに遭っている旧友。ほかの友人らと彼女の話を聞いていた当時は、まだハラスメントについて詳しくなく、「本当にむかつくね!」と言い合うだけで終わった。いまなら「あなたは被害に遭っている」とわかるし、具体的な行動を一緒に考えることもできる。でも、正面から話しても彼女は耳を傾けてくれないような気がしている。

石川「自分で気づくのが、いちばんですよね。直接言うのではなく、私の言葉が本やニュースといったメディアをとおして彼女のもとに届いたら、受け取って、考えてくれるんじゃないかと思っています」

 伝えたいのは、彼女だけではない。会ったことはないけれど、いま悩んでいる女性たちひとりひとりに伝えるためにも、メディアが重要だと考えている。それだけ影響力があるからだ。

石川「特に広告の影響は大きいと思います。スマホで、電車で、広告を見ない日はないですよね。そこに女性差別の表現があれば自然に内面化してしまうと思うんです。私自身も、そうでした。だったら、フェミニズムの考えをインプットしてもらうこともできるんじゃないかと考えているんです」

 具体的には、どんな広告だろう。

石川「2020年、刃物メーカーの貝印が『ムダかどうかは、自分で決める。』という広告を公開して、話題になりました。私も体毛って面倒だけど処理しなきゃと思っていたんですが、あきらかに広告の影響だと思っています。電車の車内広告でも、脱毛ってほんとに多いですよね。『ムダ毛はなくせ!』というメッセージばかり受け取って、自分にもそれが刷り込まれていたと感じます」

 それは筆者も同じで、脱毛にはかなりの金額をつぎ込んできた。当時の自分に「それは本当に無駄で、処理しなきゃいけない毛なの?」と問いかけたら、ぽかんとして「だって、そういうことになっているから」と答えが返ってくるはずだ。”そういうこと”という空気は自然発生したものではなく、広告によって作られたものだ。

石川「そうなると、自分で選択しての行動とは言えないですよね。『なくせ』と『自分で決めていい』がそれぞれ半々になってはじめて、選択できると思うんです」

 これからの展望も、メディアに関わることだ。

石川「フェミニズム映画を作りたいとずっと思っていたんですが、それが動き出しました」

 石川さんの映画への想いは、こちらの記事に詳しい。

脱いでてもセックスシーンがあっても「フェミニズム」な表現はある/石川優実☓吉田浩太監督

 こんにちは。グラビア女優・ライターの石川優実です。2017年に自身が芸能界で体験したセクハラや性暴力を「#MeToo」として発信、2019年からは職場…

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フェミニズムを知って幸せになった石川優実が考える「早く知っておきたかった」社会のことの画像2 ウェジー 2020.02.06

石川「以前やっていた役者やタレントの仕事は#MeTooをして以来一度離れたのですが、そのときは私も、フェミニストとしての運動と芸能の仕事を別々のものとして分けて考えていたんです。いったん離れたからには、フェミニストして影響力のある発言ができるようになってからでないと戻れない、という気持ちもありました。でも、いまは分ける必要がないと感じています。日本では、芸能人が政治的発言をすると批判が殺到しますが、私はしっかり活動をしながら、役者もしたい。私にとってはどちらも表現活動だからです」

 芸能人やアスリート、ミュージシャンなどが政治的発言をしない、またはしたいけどむずかしいと感じているのはスポンサーなどの関係もあるが、まさに”空気”のなせるわざだろう。石川さんがそれを読むことは、もうない。映画で表現したいというのにも、理由がある。

石川「自分で文を書いたり取材を受けたりしてフェミニズムについて発信していくのと、お芝居をとおして発信してくのと、目的は同じなんです。ただ文章よりも、映像メディアのほうが知識や情報を得やすい人もいますよね。特に私の同年代の、子育て中の女性たちは本をゆっくり読む時間がなかなか持てない。でも映画だったら見るという人もいると思うんです」

 石川さんは、フェミニズムを知ったことで幸せになったという。観た人も、同じように幸せのヒントをつかむ。そんな作品になるのではないだろうか。

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もう空気なんて読まない』(河出書房新社)

石川優実『もう空気なんて読まない』(河出書房新社)
定価1,694円(本体1,540円)
ISBN:978-4-309-03012-8

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石川優実
1987年生まれ。「#KuToo」署名発信者、アクティビスト。高校時代から芸能活動を開始。2014年、映画『女の穴』で初主演。2017年に#MeToo、2019年に#KuTooを展開。著書に『#KuToo 靴から考える本気のフェミニズム』(現代書館)、責任編集を務めた『エトセトラVOL・4 特集 女性運動とバックラッシュ』(エトセトラブックス)。エッセイ『もう空気なんて読まない』(河出書房新社)を上梓。

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