『ミラベルと魔法だらけの家』の多様性〜リプレゼンテーション・マターズ

文=堂本かおる
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『イン・ザ・ハイツ』の誤ち

 マドリガル一家にとってお互いの外観の違いは重要ではなく、一家と村の平和の持続が何よりの使命となっている。

 とはいえ、肌の色の濃淡をめぐる問題は劇中にひっそりと忍ばせてある。ミラベルの姉、イサベラは花を操る「完璧」に美しい女性として描かれている。肌の色は3姉妹の中で最も濃い。もう1人の姉のルイーサは怪力の持ち主で体格も人並みはずれて大きい。肌の色は薄い。女性の肌の色の濃淡と美醜のステレオタイプを意図的に逆転させているのだ。

 本作の音楽を担当したリン=マニュエル・ミランダは、『イン・ザ・ハイツ』『ハミルトン』のクリエイターであり、自身もプエルトリコ系のラティーノだ。昨年、公開された映画版『イン・ザ・ハイツ』はニューヨークのラティーノ地区、ワシントンハイツを舞台としたもので、主演俳優アンソニー・ラモスの演技、音楽、ダンスのいずれもが高評価を得た。しかしながら、ミランダは作品について謝罪文を出すこととなった。主演を筆頭に主だった登場人物のほぼ全員が “ライトスキン”(肌の色が薄い)であることに批判が出たのだった。

 ワシントンハイツはカリブ海のドミニカ共和国からの移民の街で、スペイン語という共通項から他の中南米諸国からの人々も暮らす。比率でいえばライトスキンが多いとはいえ、アフロ・ラティーノも存在する街だ。ミランダはワシントンハイツで育ち、その事実を熟知しているにも関わらず、自身と同じライトスキンのキャラクターのみを配置した。ミランダにもライトスキンの優越感があったのか、もしくはライトスキンの俳優のほうが観客の人種を選ばず、広く鑑賞されるとの計算があったのか、そこは定かではない。

 そのミランダにしても、同じラティーノであってもドミニカやプエルトリコといったカリブ海域と南米コロンビアの文化(衣食住、自然物など)の違いは当然、認識しており、『ミラベル〜』制作に際してコロンビア文化を熱心にリサーチしたと言う。人種民族、分けても外観のリプレゼンテーションにまつわる難しさを物語るエピソードと言える。

「リプレゼンテーション・マターズ」の理由

 子供は2~3歳で人種の違いを認識し始めるという説がある。最初にあげた2人の2歳児に人種という概念自体はまだないと思われるが、ミラベル、アントニオの外観が「自分と同じ」であることははっきりと認識し、画面に夢中になっている。「自分は世界に容認されている」「自分も世界の一部だ」という自己肯定に繋がる体験だ。リプレゼンテーション・マターズの理由はこれだ。

 逆を言えば、アントニオにそっくりなケンゾーの母親が言ったように、自分と同じ外観を持つキャラクターをテレビ、映画、絵本、コミックブック、おもちゃなどで一切見ることなく育つと、社会からの疎外感を植え付けられてしまう。アメリカの現在の高齢者マイノリティたちは、そうしたものをほぼ与えられずに育っている。だからこそ今、子や孫の世代が「自分と同じ」キャラクターを享受している姿に息を呑みつつ、喜びも隠せない。

 ちなみに『ミラベル~』の声の吹き替えも全員がラティーノ俳優だ。原題の『Encanto』はスペイン語であり、魅力、人を惹きつける力、ひいては魔力をも意味する。英語話者の多くは、意味は知らなくとも語感からスペイン語であることだけは知る。そこも重要だ。ディズニーがラティーノを主人公とした作品を作ったと、タイトルだけで知らしめるからだ。これもまた重要なリプレゼンテーションなのだ。
(堂本かおる)

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