高島鈴の人文書新刊・近刊ウォッチング 同意、朝鮮籍、クィア批評、恋愛

文=高島鈴
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Gettyimagesより

 新刊・近刊の人文書から、ライターの高島鈴が気になる新刊をピックアップ。おさえておきたいポイントと一緒にご紹介します。

 今月は、『同意 女性解放の系譜をたどって』『幕末社会』『当事者は嘘をつく』『戦争と日本アニメ 『桃太郎 海の神兵』とは何だったのか』『歴史のなかの朝鮮籍』『革命的知識人の群像』『〈トラブル〉としてのフェミニズム』『〈洗う〉文化史 「きれい」とは何か』『全国水平社1922-1942』『沖縄とセクシュアリティの社会学』『徳政令』『クリティック再建のために』『(見えない)欲望へ向けて クィア批評との対話』『現代日本の若者はいかに「恋愛」しているのか 愛・性・結婚の解体と結合をめぐる意味づけ』の14冊!

ジュヌヴィエーヴ・フレス著/石田久仁子訳『同意 女性解放の系譜をたどって』(明石書店)

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ジュヌヴィエーヴ・フレス著/石田久仁子訳『同意 女性解放の系譜をたどって』(明石書店)

 「そもそも、〈同意〉って何?」――帯に書かれたこの問いかけに、すんなりと答えられる人はそう多くはいないだろう。本書はフランスのフェミニズム哲学者による「同意」をめぐる思想史である。私もしばしば安易に「同意を取る」と口にしてしまうのだけれど、他者といかに約束を交わし、いかに誠実な応答を果たすかを考えてみると、「同意」というものの深淵に思いを馳せざるを得ない。

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須田努『幕末社会』(岩波書店)

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須田努『幕末社会』(岩波書店)

 『幕末の世直し 万人の戦争状態』(吉川弘文館)、『「悪党」の一九世紀 民衆運動の変質と“近代移行期”』(青木書店)などの魅力的な著作が多い近世近代移行期民衆史研究の第一人者が、幕末社会の地殻変動を新書で描く。何より百姓、若者、女性に焦点を当てている点が興味深い。中央から見た幕末ではなく、在地社会から見た幕末の様相を知るための入門書として期待が高まる。

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小松原織香『当事者は嘘をつく』(筑摩書房)

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小松原織香『当事者は嘘をつく』(筑摩書房)

 性暴力サバイバーの哲学者が自身の被害経験と格闘した「学術ノンフィクション」。性暴力経験を語ることに対する葛藤がタイトルや目次に現れており、読者はそこに開かれた語りに対してどのように耳を傾けるべきか、ある種の覚悟を迫られるものだろう。同じ著者による『性暴力と修復的司法』(成文堂)にも注目したい。

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佐野明子・堀ひかり編著『戦争と日本アニメ 『桃太郎 海の神兵』とは何だったのか』(青弓社)

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佐野明子・堀ひかり編著『戦争と日本アニメ 『桃太郎 海の神兵』とは何だったのか』(青弓社)

 日本初の長編アニメーションにして、戦時下のプロパガンダとして作られたことで知られるアニメ『桃太郎 海の神兵』。本書は従来そのイデオロギーばかりが注視されてきたというこのアニメーションに、映像テクストとしての分析を加える映像文化論である。まず政治的なアニメ批評の実践例として勉強になりそうだと感じたし、個人的には第七章で「少年倶楽部」との関連が論じられている点に関心が向く。兵士と男性性表象の連続性についても一緒に考えたいところだ。

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鄭栄桓『歴史のなかの朝鮮籍』(以文社)

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鄭栄桓『歴史のなかの朝鮮籍』(以文社)

 昨年末、在日コリアンの多く住む京都ウトロ地区で放火事件が起きた。間違いなく在日コリアンに対するヘイトクライムだが、政府は沈黙を貫き、差別に抗する姿勢を全く見せようとしない。現在も「日本」が、そして日本国籍を持つ私/あなたが加担し続ける差別の構造がどのように形成されてきたのか。植民地支配によって生じた「朝鮮籍」の歴史を、種々の史料から読み解いていくのが本書である。まずは知らねばならない。その責任がある。

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木村政樹『革命的知識人の群像』(青土社)

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木村政樹『革命的知識人の群像』(青土社)

 有島武郎、大杉栄、堺利彦、山川均……まず書籍概要に列挙された名前が魅力的である。社会主義が取り締まられた時代の革命言論を扱う文学史本と聞けば手に取らぬわけにもいくまい。女性知識人の名前がない点が気になるが、運動と文学史がどのように連動していたのかを把握するために便利な一冊になりそうだ。

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藤高和輝『〈トラブル〉としてのフェミニズム』(青土社)

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藤高和輝『〈トラブル〉としてのフェミニズム』(青土社)

 『ジュディス・バトラー 生と哲学を賭けた闘い』(以文社)などで知られるフェミニズム哲学研究者による待望の新刊。藤高和輝の著作はとにかくアクチュアルかつ真摯で、『福音と世界』2020年9月号に掲載されていた論考『他者とともにあるために――ジュディス・バトラーの責任論』の印象が今も鮮烈にある。横行するトランス差別に抗する理論づけの書としても期待したい、〈トラブル〉を生きるための抵抗の書。

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国立歴史民俗博物館・花王株式会社編『〈洗う〉文化史 「きれい」とは何か』(吉川弘文館)

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国立歴史民俗博物館・花王株式会社編『〈洗う〉文化史 「きれい」とは何か』 (吉川弘文館)

 「衛生」の問題はパンデミック下において極めて象徴的に浮上した。だが「きれい」であるとは、根本的にどのような状態なのか? 本書は古代から近代までを広く射程に入れ、「清潔」観念、入浴、手洗い、「禊ぎ」といった、「洗う」行為の意義を幅広く問い直す。タイムリーかつユニークなテーマ設定に加え、歴博こと国立歴史民俗博物館(行ったことのない人は絶対に一度行ってみてほしい、常設展だけで丸一日が過ぎる!)と花王株式会社の共編である点が面白い。個人的には虫歯予防・歯磨きの歴史が気になる。

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朝治武『全国水平社1922-1942』(筑摩書房)

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朝治武『全国水平社1922-1942』(筑摩書房)

 今年は全国水平社創設100年の節目に当たるが、全国水平社に関しては、教科書では習った、しかしその内実は知らない……という人が少なくないのではないだろうか。筆者も恥を承知で告白すればあまり勉強してこなかった分野で、だからこそ新書で基礎から学べる機会がありがたい。

 著者は大阪人権博物館の館長を務める。大阪人権博物館は当時大阪府知事であった橋下徹が「差別や人権などネガティブな部分が多い」と述べたことから問題視され、昨年建物ごと解体された。今年じゅうの再開を目指すが、まだ目処は立っていないという。大阪人権博物館に対する不当な財源カットに対する抵抗の意志も込めて、読んでおきたい一冊だ。

(参考記事:https://www.asahi.com/articles/ASP9N03JYP9KPTIL010.html

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玉城福子『沖縄とセクシュアリティの社会学』(人文書院)

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玉城福子『沖縄とセクシュアリティの社会学』(人文書院)

 併合から現在に至るまで、日本という国家からの植民地的暴力を受け続けている土地=琉球/沖縄を舞台にしたポストコロニアル・フェミニズム論。軍事と性暴力の問題を中心に、それらを取り扱う言説――博物館展示や自治体史など――を問題化している点に注目したい。傷の記憶/加害の経緯がどのように記録されるのかは、今を生きるわれらの責任である。

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笠松宏至『徳政令』(講談社)

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笠松宏至『徳政令』(講談社)

 80年代のいわゆる社会史ブームを牽引した筆者の不朽の名著がついに講談社学術文庫入りを遂げる。近年は元号の変わり目に「徳政令を出せ」などと要求する言説がネット上でも見られたが、実のところ徳政令の実情を知る人は少ないであろう。明文法を慣習法が押し切り、奇妙な法則で「もののもどり」が発生する中世社会のありさまを生き生きと写し取った筆致には、きっと現代の読者も改めて魅了されるに違いない。

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木庭顕『クリティック再建のために』(講談社)

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木庭顕『クリティック再建のために』(講談社)

 「クリティック」を単純な「批評」ではなく「物事を判断する場合に何か前提的な吟味を行う」営みとして捉え、その歴史をダイナミックに描き出そうとする、野心的な思想史。私は近代における実証主義の誕生に関心を持っていたのだが、そこに至るまでの「知の伝統」が古代ギリシャにまで遡って論述され、さらに現代の問題系にまで言及するとのことで、期待値が高い。筆者は『誰のために法は生まれた』で紀伊國屋じんぶん大賞2019を受賞した木庭顕。

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村山敏勝『(見えない)欲望へ向けて クィア批評との対話』(筑摩書房)

 2005年に人文書院から刊行され、品切れ・重版未定となっていた書籍がちくま学芸文庫に仲間入りするようだ。目次にはセジウィック、ジジェク、バトラー、ベルサーニらの名前が並んでおり、それだけでワクワクしてしまう。英文学の古典とクィア批評との間でどのような対話がなされてきたのか、なんとも好奇心を刺激される一冊。

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大森美佐『現代日本の若者はいかに「恋愛」しているのか 愛・性・結婚の解体と結合をめぐる意味づけ』(晃洋書房)

 最近『現代思想』でも「恋愛」特集が組まれたように、これまで自然化されてきた「恋愛」を解体するような言説が世に送り出されている。本書は「恋愛」「性愛」「結婚」といった一直線上に置かれがちなイデオロギーの内実を細かく腑分けし、そもそも「恋愛」なる営みが何なのかを解き明かしていく。「愛」概念の暴力性に打ちのめされてきた身に、この新しい分節は極めて興味深い。

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