禁書ブームのアメリカ〜ホロコースト・黒人差別・LGBTQ+

文=堂本かおる
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GettyImagesより

 人種問題やLGBTQ+に関する本が、アメリカの学校で続々と「禁書」になっている。

 今年の年明け早々、テネシー州の学区のひとつが、ホロコーストを描きピューリッツアー賞を受賞した漫画『マウス―アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語』(日本では晶文社より刊行)を8年生(中学最終学年)の授業から排除する決定を下した。

 この件が全米で大きく報じられると、アマゾンを始め、多くの書店で同書が売り切れとなる皮肉な事態となった。禁書という言葉がセンセーショナルであるだけでなく、ホロコーストへのアメリカ人の関心の高さの表れではないだろうか。

 同州マクミン郡の学区委員会は、『マウス』にはカースワードが8回使われ、女性のヌードもあるとしている。同書はユダヤ人をネズミ、ナチスをネコとして描いており、ヌードの女性とはネズミである。

 禁書賛成派からはユダヤ人の処刑シーンが残酷であり、子供には不適切との意見もあるが、対象学年は翌年に高校生となる8年生だ。禁書反対派からは、なぜカースワードが使われなければならないか、その文脈も重要であるとの反論が出ている。

※俳優ウーピー・ゴールドバーグがホストの一員であるトーク番組『The View』でこの件が話し合われた際、ウーピーが「ホロコーストは人種問題ではなかった」と発言して2週間の出演停止となった。発言の趣旨と出演停止を巡って論争となったが、発言は禁書そのものに関してではないため、ここでは割愛する

黒人少年へのレイシャル・プロファイリング小説

 同じく1月に、ミズーリ州にあるモネ高校では『Dear Martin』(親愛なるマーティン)と題されたヤングアダルト小説が、やはり授業から排除されることとなった。

 エリート校に通う男子高生が、黒人ゆえにレイシャル・プロファイリング(人種に基づいて犯罪者と看做されること)を体験する物語で、現実に起こった射殺事件を模した事件も取り入れられている。タイトルは主人公が日記を敬愛するマーティン(キング牧師のファーストネーム)に宛てた手紙の形式で書くことによる。多数の図書/文学賞を受賞し、ニューヨークタイムスのベストセラーにもなった作品だ。

 同書も禁書の理由として、カースワードと性的描写が挙げられている。人種差別の加害者が相手を貶める手段として、犠牲者が必死の抵抗としてカースワードを使うのは現実に則した描写だ。

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Dear Martin』(Ember)

性教育・LGBTQ+ こそ禁書のターゲット

 実のところ、教育現場での禁書の対象となるのは人種問題より性教育、LGBTQ+関連だ。

 ワイオミング州では同州キャンベル郡公共図書館の司書が訴えられる事態となった。同図書館が児童書コーナーに陳列した小学生向けの『Sex is a Funny Word』(セックスっておかしな言葉だね)、10代向けの『This Book is Gay』(この本はゲイだ)など5冊が問題視されたのだった。

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Sex Is a Funny Word』(Triangle Square;)

 禁書を訴えた地元の教会の牧師は、これらを「公共図書館にあってはならない薄汚い本」と言い、牧師とともに禁書を訴えた人物は「子供へのハードコア・ポルノだ」とコメントしている。さらに「同州の児童性法に抵触の可能性がある」として保安官事務所に司書の逮捕を訴えた。後日、保安官は司書の逮捕は行わないと声明を出している。

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