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特別養子縁組によって親子になった著者夫婦と娘のアンちゃん。母は娘が幼い頃から養子であることを伝える「真実告知」をしながら、しっかりとした親子関係を築きました。中学・高校と続いた反抗期も終わり、アンちゃんは都会の短大へ進学し、まもなく成人式!
第3章 アンの子ども時代:短大生のアン
短大生活も2年目となり、娘・アンもいよいよ成人式を迎える歳になりました。児童相談所の日当たりのよい相談室で出会った小さくかわいかった新生児がついに成人式とは……と感慨に浸りたいところでしたが、これがまた大変なことに。
その一年以上も前から、晴れ着のダイレクトメールや勧誘の電話が山ほど来ていました。私はアンが小さな頃から華やかな振り袖姿の成人式を楽しみにしていたので、費用のほうも準備万端! なんのための日々の節約かって、こういうときのため!
特別養子縁組ということで人生のスタートが人とは少し違っていたアンに、折々に何ごとも人並みにと思っていました。これは本来、私の考え方とは少しずれるのですが、親心として、少なくとも人並みにはしてあげられるようにと思っていたのです。
ただ、一枚の振り袖を何度も何年も着ることは、これまでを振り返っても期待できないし、あとのお手入れとかも考えて、とりあえずはレンタルと決めていました。もしも着物が好きになったら買おうかなと思いつつ、アンには「卒業式にも着られるし、そちらでレンタルするよう当たってみたら」と、けっこう早めに言いましたが、母娘とものんびりしたものでした。地元の同級生は、早々と準備していたものです。
お正月の帰省時にも「下見会があるよ」と言ったのですが、「え〜寒いし、いいわ」なんて言うアン。ところが、休み明けに寮に戻ると、あわてて電話をかけてきました。
娘「お母さん、友だちはもう決めてるらしいよ〜。どうしよう」
私「だからね、そっちのお店を友達に聞いてみてよ。卒業式にも便利でしょう」
なんてやりとりをしていたくらいなので、この時点ではアンも振り袖派だったんですけどね。春休みに帰ってきたアンは、何だかさっぱりその気が失せていました。
娘「特に振り袖を着たいと思わなくなった。別に着物で、っていう決まりはないよね」
私「おばあちゃんもお祝いで費用の一部を出してくれるって」
娘「え〜もういいのに。めんどうくさいわ、いちいちお店に行くのが」
そうして、夏休みの帰省時にも同様のやり取りが続き、とうとうこんなことまで言い出しました。
娘「あのね、お母さんやおばあちゃんが、どうしてもどうしても振り袖を着てほしいって言うなら、がまんして着てもいいけど、どう?」
あまりにも上からの物言いにあきれていると、さらに重ねて言うには……。
娘「お母さんだって、成人式には振り袖を気なかったって話してたじゃない」
私「ま、まあ、お金も時間ももったいないし、親のすねをかじる気がなかったから」
正直に言うと、20歳の頃は、私も生意気盛りでした。「人と同じことするよりも、ちがうことしたほうがかっこいい」と成人式を欠席して神戸に遊びに行ったくらいです。
私「どうしてもお願い、なんて頼む気はないわよ。じゃあ、おばあちゃんのお祝いで、きちんとした洋服を買う?」
娘「うん! うんとかっこいいの探すから!」
よそはよそ、うちはうち。まあいいかの選択でした。私の育てた娘だもの、こうなるのも、むべなるかな。
そうはいっても、ちらっと世間様はどう見るか、考えなくはありませんでした。「まあ、ひとりだけ洋服なの?」「ほら、あの子は養子でしょ。遠慮したのかしら」なんて言われたりして。もっとも、娘はいつだってあんまり遠慮してくれませんでした。ま、私も遠慮しらずの母親だからお互い様だけど。
きちんと人並みにとがんばって育ててきたアン。習いごとや学校関係、その他いろいろ、費用で却下したことは一度もありません。アン本人や近しい人たち、私自身がよくわかっているからいいか、と思いました。
こうして似た者同士の母娘のやり取りは続き、アンの成人式が近づいてきました。振り袖の勧誘電話を受け流す合間に、アンからメールで写真が次々と送られてきます。
娘「ステキな服を見つけたよ」
と、ペラペラで派手なブラウススーツの写真が……。
私「こ、これはさすがに普段の服と変わらないんじゃないの?」
娘「アクセサリーとかでかわいく着たいの。おしゃれでしょう?」
私「う〜ん、そうかな……」
と押し問答をして、結局この洋服になりましたが、迷っているうちにセールで50%オフになっていたとのこと。それならいいかと、私は変なところで納得してしまいました。
こうして私の夢見ていたような成人式の晴れ姿とはなりませんでした。洋服だとしても、仕立てがよくて華やかな色合いのスーツとか、深みのある色のベルベットの上品なワンピースとか、ね。でもまあいいかと。何しろアンの成人式だから、本人が思いのままに装えば。
短大生のアンは経済的にはまだ親がかりでしたが、私の中には娘の独立独歩を認める心が育っていました。
うさぎからの手紙
今、養子を育てている方へ
さまざまなブログやSNSなどで、「いいご縁をいただきました」「かわいい子がやってきました」なんてご報告を拝見すると、ほんわかと幸せな気分になります。迎える養親さんも、迎えられるお子さんも、とても幸運だと思います。
今、あなたの腕の中でミルクを飲んでいる赤ちゃん。すやすや眠っているお子さん。スタートは、ほかのお子さんと少しちがってしまったけれど、当然ながら、その子の過失でも罪でも汚点でもありません。だから養子であることはかくすことなく、堂々と伝えてあげてくださいね。
この連載には大人になった娘・アンの本音もたっぷり書いています。育った過程で困ったことや悩んだこと、大人になった養子としての正直な気持ちを語ってくれました。私自身も初めて知ったこと、意外だったこともあります。
もちろん、お子さんによって感じ方も悩みもまったく違うと思いますが、子育て中の方のお役に少しでも立てたら嬉しいです。
次回更新は2月21日(月)です。
【特別養子縁組について】
特別養子縁組は、子どもの福祉のために(親のためではなく)、子どもが実親(生みの親)との法的な親子関係を解消し、養親(育ての親)と実子に等しい親子関係を結ぶ制度です(※)。そんな特別養子縁組制度が成立した翌年の1988年、うさぎママ夫妻は児童相談所の仲介で0歳の娘・アンちゃんと出会い、親子になりました。
厚生労働省 特別養子縁組制度について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169158.html
※この連載は、書籍『産めないから、もらっちゃった!』(2012年、絶版)の改定版を公開するものです。