入国隔離で年越し 曖昧すぎる日本と曖昧さをなくしすぎたドイツにコロナ対策

文=柳原伸洋
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GettyImagesより

6回目の隔離、よもやよもやだ……

 2021年の暮れ、コロナ状況になってから6回目の日本への途についていた。日本入国に伴う隔離経験では、私は「トップランナー」の一人で、この20カ月ほどのあいだに計3カ月ほど「隔離生活」を送っていることになる。

 今回の帰国は、世界的なオミクロン株流行から日本の入国制限が厳格化された時期にあたり、当初から6日間の検疫所宿泊施設(ホテルなどを借り上げた施設)への入所が決まっていた。これは隔離施設での年越しを意味する。慣れてきたこともあり、おせち風の弁当が出されるだろうかと妄想する余裕もあった。

 以下、2021年末の日本入国と隔離の顛末をお伝えしたい。前回の記事と同様、この時点の記録という意味合いもあるが、「カクリ世」とも呼ぶべき隔離生活から見える日本の感染症対策の特徴や社会問題にも切り込みたい。また、ドイツとの比較の雑感メモも付した(本文の最後の2ページ目)。

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入国隔離で年越し 曖昧すぎる日本と曖昧さをなくしすぎたドイツにコロナ対策の画像2 ウェジー 2021.05.03

2021年12月28日、20時50分、日本へ

 今回は日本の航空会社での帰国となった。フランクフルト空港の搭乗ゲートではコロナ検査陰性証明の確認などが行われた。客室乗務員は、顔にはアイシールド、手にはビニール手袋、そして足にもビニールを履き、食事の配膳時には防護エプロンらしきものを装着していた。これは、今までの中では最大級の物々しさだ。機内で記載する「誓約書」は、よりカラフルに、より強調されている。加えて、スマホ不所持の場合には私費で借り入れまで誓約させられる。以前は、このチェック項目はなかった。ちなみに、私が2021年3月に借りさせられたスマホは機能しなかったのだけども……。

 11時間ほどのフライトの末、日本に到着。降機時のアナウンス「良いお年をお迎えください」が心に刺さる。なぜなら、この機の乗客全員が隔離施設での年越しが必定だったからだ。

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左は2020年3月末、右が2021年末のもの(滞在先などは別書類)。文言は増殖している。

2021年12月29日、16時、羽田空港にて

 空港の検疫は、日本の対コロナウイルス検疫の水際であり、「際」ゆえに先鋭化した場である。これは厳格という意味に留まらない象徴的な場でもある。たとえば、空港での「適切な距離を取ってください」というアナウンスメント。どれくらいが適切かは、私たちがそれぞれ判断する。入国前の検疫では、過去にも「人詰まり」が起きて滞留する場面が散見されたが、判断は個々人に委ねられている。慮りや恐怖などの感情に委ねる防疫は日本の特性である。

 空港到着後に「書類・アプリ確認→検査→書類確認→検査結果待ち」を経て、およそ3時間で日本への入国審査を通過し、空港の荷物受け取り所に。以前のごとく、書類確認などではアジア圏の日本語以外の母語話者(推定)が対応してくれた。

 最後の検査結果待ちの待機所では、水のペットボトルと消費期限が来月にせまった非常食が配布された。「効率的」になっている。ここで検査番号が読み上げられるのだが、最初は日本語でしか呼ばれない。日本語を解して結果を聞きに来た人「以外」の数字を後から英語で読むということになっていた。なお、前回は電光掲示だったが、今回は隔離施設への直行バスまで一団で連れていくため、この設備は使われていない。

 到着後の書類確認時に識別用の「緑のタグを腕に付けるよう」に指示される。これは前回と同じ理由で拒否した。衆人環視のなかを緑のタグを付けて歩かせる意味についてあまりに鈍感すぎるし、この措置は「人が普通に生きること」との「適切な距離」にない。私なりの「適切な」判断である。

 タグで管理しないとダメな人たち、あるいは烏合の衆となると思われているわけだ。烏(カラス)か人間かでいうと、その境界線ギリギリを衝いている。なお、側聞するところ、この「緑タグ」は羽田だけらしい。長時間の飛行を経て、空港での検疫を終えた私たち一団は、疲れ切った表情でゾンビのようにぞろぞろと歩くわけだ。だが、心まで死なせてしまう必要はない。実は、空港の到着ゲートでカメラをこちらに向けて何かを撮っている中高年の方がいた。確認したかったし、結果次第では止めてほしいと言いたかったが、そのとき私も烏合にいる疲れたひとりで何もできなかった。

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緑色のタグ。右は水と非常食。下にあるタグはペットボトル一本分より少し小さいくらい。某大臣は宅配システム整備を誇らしげにSNSで語るが、まずはこちらを止めた方がよいと思う。

検疫所宿泊施設@品プリへ

 今回の強制隔離の「建物」は品川プリンスホテル(略称、品プリ)だった。前の記事でも書いたが、ホテルを検疫所が借り上げているので公式には「検疫所宿泊施設」となる。なお、不満が続出しているらしく、バス運転手をはじめ係の人たちは滞在先を秘匿するように指示されていた。

 空港から品川までは30分程度、そして施設到着時には前回のように警官が入り口を見張っているわけでもなく、バイトの人たちが手際よく人を中に誘導していく。品プリは、よく知られたホテルなので、同じバスに乗っていた若者は「ずっとここに泊まりたい」などと電話で語っていた。確かに部屋は広く、バスルームでも数時間過ごせるほどの環境だった。しかし、自分で選んで「品プリ」に泊まることと、自分が選択せず、しかも部屋から一歩も出られずに滞在するのは、前回の隔離体験から思いのほか厳しいと分かっていた。友人は「むしろ史上最低の品プリ体験」と語った。言い得て妙である。

 なお、前記事で問題視した子連れの家族の優先的な対応は、今回も確認できなかった。ただし、家族連れの宿泊施設は空港隣接ホテルだとの情報を得た。これは改善された点だろう。

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