バイデン大統領「サノバビッチ」に覚えた危機感~アメリカのカースワード文化

文=堂本かおる
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社会を荒ませるカースワード

 相手の属性を特定しないカースワードも状況によっては人種差別、性差別となり得る。その実例をつい先日、ある下院議員が実践した。

 ジョイス・ビーティー下院議員(黒人女性)が首都ワシントンD.C.の地下鉄でハル・ロジャース下院議員(白人男性)と乗り合わせた際、非マスクのロジャース議員に「マスクを着けてください」と依頼した。するとロジャース議員がビーティ議員の背中を突いたため、「触らないで」と返すと、ロジャース議員は「Kiss my ass.」(知ったことじゃねぇ)と言い放った。

 ビーティ議員が黒人女性でなく、自分と同じ白人男性議員であれば、ロジャース議員はこのカースワードを使っただろうか。特に相手に「触らないで」と言われた後に。

 いずれにせよ、状況がどうあれ議員が議員に向かって、しかも公共の場で使うべき言葉では決してない。それが「別に構わない」とされる風潮になってしまったのだ。

 幸か不幸かポッドキャスターはオーディエンスを前に喋るわけでなく、議員も相手からどんな扱いを受けようが暴力でやり返すことはしない(と願う)。しかし、芸能人であれ政治家であれ、著名人の言葉遣いは一般人に浸透する。一般人が日常生活で他者に向かってカースワードや侮蔑語を使い出すと、これは喧嘩沙汰になる。たとえ手は出さずとも心が荒む。いわゆるTPOをわきまえないカースワードは、今もまだコロナ禍でダメージを受けたままの人心と社会をさらに荒廃させるだろう(似た事象が今の日本でも起きつつあるように感じるのは気のせいだろうか)。

カースワード、日本人も使える?

 蛇足となるが、こうしたカースワードは非英語者はなるべく使わないに限る。英語の文法や発音の巧拙が理由ではない。アメリカ社会に馴染むまではニュアンスが汲み取れないからだ。

 「Shit!」「Fuck!」「Damn!」は会議で口走ってしまった際にどれがいちばんマシか、最悪か、そのニュアンス。カオスな状態を表す「messed up」「screwed up」「fucked up」は同じ意味ながら、それぞれどこで、誰に向かって使うべきか……。

 オバマ大統領の「I know whose ass to kick.」と、白人男性議員の「Kiss my ass.」はどちらも「ass」(ケツ)が使われている。なぜ現役大統領のassは褒められたものではないにせよ、とりあえずよしとされ、議員のassは批判されたのか。さらに、この白人男性議員を堂々と告発した黒人女性議員を「badass」と呼ぶ人もいるかもしれない。品の良くないスラングではあるが、褒め言葉だ。

 Nワードは論外として、サミュエル・L・ジャクソンが映画で何百回も使っている「マザファッカー!」を自分が叫ぶとどんな目に逢うだろうか。結果を予測できる程度にアメリカ社会を知るまでは、とりあえずは止めておくに限る。
(堂本かおる)

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