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子供の”好き″を応援することは、教育上望ましいとされているけれど、時にはそうも言っていられない場合もありそうで……? 虫が大好きだという子供の親御さんたちはどうしているのでしょうか。虫を楽しむ子供たちの成長、親はサポートやトラブルにどう対処するのか? 虫がいる生活のアレコレを、座談会で伺ってみました。
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虫×育児にまつわるアレコレを追っていく本連載。「うちの子供は虫が大好き」ーー今回はそんなご家庭3組に集まっていただき、オンライン座談会を開催してみました。まずはメンバーをご紹介していきましょう。
中辻大也さん・渚さん
大阪府茨木市で革製品を製造&販売しているご夫婦。小学2年生の長男が、虫好きから発展して昆虫食に目覚めた。
清水さん
長男が小学校時代から立川の虫観察会「ムシムシ探検隊」 で虫に親しみ、中学に進学した現在は、生物部。親子で虫活動を楽しむものの、妻は虫嫌い。
川本さん
兄弟2子を持つ、40代のお父さん。長男は虫好きが高じて、大学は理学部へ進学。いきものサークルに入り、虫活動をさらに充実させている。
「好きなもの」があることの利点
――今回ご参加いただいた皆様のお子さんは大の虫好き。虫が好きになったきっかけなどはありますか?
中辻大也さん(以下、大也):我が家の住まいは大阪の北の方、茨木市です。家からちょっと行くと山があるような環境で、自分も少年時代は虫を捕まえて遊んでいました。だから子供が生まれると、自分と同じように自然の中で遊ばせていました。そうしたら親が誘導したわけでもなく、いつの間にか虫にハマっていたんです。最近ではどこからか知識を仕入れてきて、食べる方面にも手を出し始めました。
中辻渚さん(以下、渚):私も子供には生き物と触れあって欲しいと思っていたので、自然の中で遊ばせるのは大賛成でした。そういう環境の中で自然に虫好きになったという印象です。
川本さん(以下、川本):我が家の場合は、幼稚園の頃、身近に図鑑がある環境にしていたことですかね。魚、恐竜、昆虫……図鑑の全てに興味を示していたけれど、その中で一番身近にいる生き物ということで、特に虫に興味を持ったようです。そこからはとことん深く突き詰めていき、今は大学で理学部の生命科学科へ進んでいます。基礎研究の分野で、虫の分類や生態、構造とか生き物の体の中身を勉強しています。親としては、同じ理系なら医療系のほうが、稼げるようになるのにとか思ったり(笑)。
清水さん(以下、清水):うちの息子も虫限定ではなく、基本的に生き物全般が大好きです。やはり「虫は身近にいるから」というのも同じですね。最近では海の生き物に興味を持ち始め、食べる方面も大好きです(笑)。
――子供が虫好き。それについてはどう感じていますか?
渚:虫をきっかけに、近くで生息している魚など、他の生き物や自然へと興味が広がっていくところがとてもいいですよね。
川本:息子は今大学生ですが、幼稚園のころから全くブレないんですよね。後ろにあるこの絵は、息子が中学の時に描いた作品なんですが、本人曰く油絵を描くことが目的ではなく、虫を描きたくて絵を描いただけだと。出かける時も、その土地に行きたいんじゃなくて虫をとりに行くのが目的。全てのベースが、虫なんですよね。そうした姿を見ていると、好きなものを持っていると、辛いことがあっても乗り越えていく力になるのを感じます。もし虫じゃなかったとしても、没頭できる何かを見つけていたんだと思います。

川本家長男の作品。蛾の絵(下)は中2の時に、学展(幼稚園児から大人までが参加できるアート&デザインアワード)で優秀賞に選ばれた
清水:うちの子は中学で生物部に入り、山の方にある学校なんで、サンショウウオの卵を観察したり沢蟹とったり、とても楽しそうに過ごしています。「今日、こんなもの見たんだ!」とキラキラした目で話す姿を見ていると、対象は何であれ好きなものがあるっていいなあと。それが虫や生き物だったんで、自分も一緒に楽しめています。
大也:子供と一緒に夢中になれるものがあるのは、すごく幸せなことですよね。子供が小さいころ、公園で一緒に遊んでいても、自分が飽きてしまうんですよ。でも、子供を見守りながら座り込んでスマホを観ているのは嫌だった。そこから子供の虫活が始まり、一緒に楽しめるようになったので、お互いにとっていいこと尽くしです。
清水:一緒に走り回って捕って、だんだん活動をサポートする協力者になって……そのうち川本さん家みたいに見守る形になるのかな。めいっぱい、好きなものを楽しんでもらいたいですね。
実録! これが我が家の「虫事件簿」
――ちまたでは「洗濯した子供のズボンから、大量のダンゴムシが出てきた」など、虫由来のアクシデントが定期的に発生しているようですが、皆様のご家庭ではどうでしょう?
川本:そうですね。うちの困りごとは、長男の部屋が臭いこと。部屋の中の飼育箱にはアリやゴキブリ、シロアリ、サソリもどき……。なんか発酵するような匂いが漂っている(笑)。時々それらが、巣箱から逃げ出していることもあります。息子に「アリが逃げてるよ!」と言えば、「大丈夫、戻ってくるから」だそうで。長男は部屋の中も虫が中心で、温度調整も虫が基準。夏は「虫が死ぬから」とエアコンつけっぱなしだったり。部屋の一部には、温室も作ってあります。飼育ケースがぎっしりなので、ベッドの上だけがかろうじて人間の居場所になっている有り様です。
清水:うちは妻が虫苦手で、ガが1匹でも室内に入ってくると「キャー!」となるくらい(笑)。なのに虫ってなぜか、そういう人のところに寄っていくんですよね。息子が捕まえてきたヤゴ(※1)が、わざわざ妻のサンダルで羽化しちゃってたり。
※1トンボの幼虫。ヤゴ(幼虫)である期間は、種類によって異なる。

なぜわざわざそこ!? 積極的にお母さんの私物へ寄っていくトンボ(ヤゴ)たち。
川本:ちなみに私は虫よりも海水・魚派(笑)。強いていうなら車やバイクの方が好きなくらいで。あくまで、息子の好きなことだから、見守っているという姿勢ですね。
渚:うちは長男がまだ小さいので、捕まえてきた虫の世話を、最終的に親がするようになっちゃうことに困っています。夏に、カブトムシとかを大量に捕まえるんですよ。初めのうちはお世話するけど、途中でやめてしまう。だからあくる年は「捕まえてもいいけど、世話するように」と言い含めました。
清水:虫の世話を手伝わなくちゃならない問題、ありますね。うちの子はヤゴが好きなんですよ。幼虫であるヤゴの期間って3~4年間あるんですけど、それを経ていざ羽化するのが朝方。小学校2~3年生の頃は学校を休ませて午前中に観察していたんですが、5~6年にもなってくるとそうそう休めない。そうなると結局、虫が嫌いな妻が午前中に見張って記録をつけるハメになってしまう。しわ寄せが、妻に行ってましたね。だから今では妻から「ヤゴはやめてくれ」って言われています。

ヤゴの羽化を観察する、清水家の息子さん(小学生当時)。
川本:子供の年齢が上がるとひとりで行動するようになるので、虫活動で怪我をして帰ってくるんですよ。この前は笹薮でやらかしたようで、目から血を流して帰ってくるし。
一同:ええええ!
川本:他にはマダニやられたり、家の庭で耳にムカデが入ったこともあります。大学生になると車で山に入って行ってしまうので、とても心配です。この前は、静岡のほうにフェモハム(※2)とかいう、美味しい虫を取りに行っていました。
※2 フェモラータオオモモブトハムシ。ここ数年生息が確認されている外来種。幼虫の味がよいと、昆虫食愛好家たちの間で人気急上昇中。
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