最後の真実告知で明かした、実母でも自分でもない、もうひとりの母の話

文=うさぎママ
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GettyImagesより

 特別養子縁組によって親子になった著者夫婦と娘のアンちゃん。母は娘が幼い頃から養子であることを伝える「真実告知」をしながら、しっかりと親子関係を築きました。そしてアンちゃんが都会の短大へ卒業して就職したあと、「最後の真実告知」をすることに……

第4章 花ざかりのアン

 我が家では、毎年アンを迎えた日を「家族記念日」としていて、アンが子どもの頃には家族3人で外食で祝うのが恒例行事でした。今では夫と2人で過ごすことがほとんどですが、毎年、この日に改めて思うことがあります。

 きっと、いや間違いなく、夫も同じ気持ちです。

「アン、私たちの娘になってくれて、本当にありがとう」

 ところが、当のアンは私たち親がこだわるほど、この日を気にしていない様子。「親の心子知らず」でしょうか。そんなところも、まったく普通な我が家ですが、私はけっこう気に入っています。

 こうして特に何もしなくなっていましたが、22年目の家族記念日は特別なものになりました。アンに最後の重要な真実告知をしたからです。かくさないがモットーの私が、アンに今まで伝えなかった唯一のこと……、それは3人目の母の話です。

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 じつはアンには3人の母がいます。ひとりは出産と同時にアンを手放した実母、ひとりはアンと特別養子縁組をして母となった私。そして、もうひとりは……アンを産んだ人と私のあいだに存在した母です。そう、助産院を出てからの1か月間アンを育て、私たちがアンを迎えた時にメモをくださったTさんのことです。

 これまで「どんとこい」精神で真実告知をしてきた私も、Tさんからもらった愛情をアンに伝えたいと強く思いながらも、もう少し大きくなってから、成人してから、社会に出てから……と先延ばしにしてきました。その理由は、これまでアンに話したことのない実父に言及することになるからでした。なぜならTさんは、アンの実父の妻だったからです。

 実母のIさんは19歳でアンを出産しましたが、実父とは不倫関係でした。Iさんの母親は、大切な娘を守るためにアンを手放す選択をします。そのアンの実祖母は、当時40代でした。

 アンを迎えたときの私と、片手ほどしか年齢のちがわない人だったと思います。どんなに悩み苦しんだことでしょう。

 娘が田舎町の高校を卒業して進学し、ホッとしたのも束の間。すでに中絶はできない妊娠を知らされ、相手には家庭があり、妻のTさんも第二子を妊娠中でした。実父はIさんに「離婚するから結婚しようか」などとほのめかしたようですが、Iさんの母は断固拒否。「娘とは別れてもらう。今後は一切関わらないでくれ」と詰め寄ったそうです。なぜなら、まったく同じ経緯でTさんと結婚していたからでした。さらには妻のTさんに経済的に依存した生活を送っていたようです。自らも妊娠中に夫に裏切られ、どうするかの話し合いをしなくてはいけなかったTさんは、どんなにつらかったか。

 やがて、妻のTさんが出産。その1か月後にIさんが出産し、アンが元気に生まれてきました。人目を避けるためだったのか、当時すでにマイナーだった助産院での分娩でした。

 さて、この世にかわいいアンが生まれてきた頃、アンの実祖母(Iさんの母)と児童相談所の方は揉めに揉めていたそうです。実祖母が将来ある娘の戸籍にアンを入れたくないと言い張り、児童相談所はそれでは無戸籍となってしまって養子縁組もできないので困ると説明したそう。

 この戸籍問題が落ち着くまでに1か月もかかり、宙に浮いた形となった小さなアン。戸籍がないと乳児院へ入ることもできません。そんなときにアンを受け入れてくれたのが、自分も出産したばかりのTさんでした。

「この子がかわいそう……、それなら私が預かります」

 Tさんはそう言って、アンの戸籍ができて、私たちへの里親委託が決まるまでの1か月間、養育を引き受けてくれたのでした。

 何も知らない小さなアンに、この世で初めて愛情を注いでくれたTさんには、本当に今も心から感謝しています。新生児2人の世話で、眠る時間などなかったでしょう。ご自身の赤ちゃんと交互に飲ませてくださった母乳のおかげか、出会ったときのアンはとてもふくふくしていました。きっとすごくかわいがってくださったと思います。

 Tさんがアンをかわいがってくれたもうひとつの証拠が、私がアンを連れて帰った日にもらったメモです。

「アンについて。少し抱きぐせがついています。泣くと、声が高いのでびっくりすると思います。昼間にあまり寝かせていると、夜あまり寝てくれなくなるので、昼間はあまり寝かせないほうが楽です。寝かしてもぐずぐず言うときは、背中をたたいてやると安心して寝ます。横抱きより縦抱きのほうが、胸と胸がくっつくので安心するみたいです。」

 前にも書きましたが、特に「少し抱きぐせがついています」という一文に愛情を感じ、目頭が熱くなりました。

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 この複雑ないきさつを、やっとアンに話せた家族記念日には、長く背負ってきた重い荷物を下ろしたような心地がしました。

次回更新は3月7日(月)です。

【特別養子縁組について】

特別養子縁組は、子どもの福祉のために(親のためではなく)、子どもが実親(生みの親)との法的な親子関係を解消し、養親(育ての親)と実子に等しい親子関係を結ぶ制度です(※)。そんな特別養子縁組制度が成立した翌年の1988年、うさぎママ夫妻は児童相談所の仲介で0歳の娘・アンちゃんと出会い、親子になりました。

厚生労働省 特別養子縁組制度について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169158.html

※この連載は、書籍『産めないから、もらっちゃった!』(2012年、絶版)の改定版を公開するものです。

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