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特別養子縁組によって親子になった著者夫婦と娘のアンちゃん。娘が幼い頃から養子であることを伝える「真実告知」をし、確かな親子関係を築きました。そしてアンちゃんが就職したあと、実父や出生時の詳しい事情などを含む「最後の真実告知」をしたのです。
第4章 花ざかりのアン
特別養子縁組をした娘に、私は小さな頃から養子であることなど、本当のことを知らせる「真実告知」をしてきました。嘘の上に信頼関係を築くことはできないからです。でも、ただひとつだけ、話していなかったことがありました。それが最後に告知した、娘の実母と実父が不倫関係にあったこと、生まれてすぐからの1か月間は実父の妻のTさんが自分の子どもと一緒に育ててくれたことです。
翌日、出生時の複雑な事情を知ったアンの気持ちが波立っているかもしれないと心配しながら電話をかけました。
娘「え? 今? カフェでまったりしているところ。うん、ひとりじゃないよ」
そのとき、娘は恋人と一緒にいるというので、少しだけ離れるように頼んでから、少しだけ話をしました。
私「実父の妻のTさんのことなんだけど、聞いても大丈夫だった?」
娘「ん〜、なんかね、他人ごとって感じがした。彼にも話したよ。“すごい話を聞いちゃった! 聞きたい? 聞きたい?”ってね。すごくびっくりしてたよ」
私「実父のことは今まで何も聞いてこなかったけど、どう思っていたの?」
娘「だって、お母さんも今まであまり詳しく知らないようなことを言っていたしね。知らないのだったら、聞いても無駄だと思っていたからかな。実父がどんな人かなんて、あん まり考えたこともなかったなあ」
アンの自己分析によると、次のようなことだったようです。
娘「子どものときの状況に不満があったら、逃げ道として空想をふくらませたかもしれない。“かわいがってくれない今の親とちがって、本当の親はやさしくていい人にちがいない。きっといつか会える日がくる。それまではがまんしよう”って。でもね、私は、お母さんとお父さんさんに大事にされてきて、そう思う必要なかったからね」
私「でも、ちょっと重い話だったよね、アンにとっては」
娘「そんなことないよ。裁判にたとえるなら、私は傍聴席で聞いているだけというか……。うううん、それをテレビの前で見ている視聴者くらいの立場って感じ。お母さんたちは当事者だから、すごく大変な思いをしただろうけど、私はぜ〜んぜん平気。ドラマみたいだと思ったよ。うふふ」
ええっ、このドラマの主人公は私と夫ではなく、アンなんだけど……。
娘「あ、ねぇ、お母さん。彼を待たせてるから、もういい? じゃあ、またね!」
あっさりと、とても軽やかに主人公の退場です。脇役の私が真面目に考えすぎたのか、主人公のお気楽な性格のせいか、シリアスなはずのドラマが、いつの間にかコメディになっていました。
でも、あとで聞いたところによると、当時のTさんの年齢にだんだん近づいているアンは、夫の不倫相手の子どもである自分の世話をしてくれた彼女のふところの深さに感嘆したようです。そして今回の話でいちばん驚いて、子どもに返って喜んでいたのは「私って母乳で育ったんだね! わ〜すごい! 思っても見なかった!」ということ。
「いつかTさんにお礼が言えたらいいのにね。いつかお会いできればいいのにね」とふたりでしみじみと話しました。
次回更新は3月14日(月)です。
特別養子縁組について
特別養子縁組は、子どもの福祉のために(親のためではなく)、子どもが実親(生みの親)との法的な親子関係を解消し、養親(育ての親)と実子に等しい親子関係を結ぶ制度です(※)。そんな特別養子縁組制度が成立した翌年の1988年、うさぎママ夫妻は児童相談所の仲介で0歳の娘・アンちゃんと出会い、親子になりました。
厚生労働省 特別養子縁組制度について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169158.html
※この連載は、書籍『産めないから、もらっちゃった!』(2012年、絶版)の改定版を公開するものです。