
写真:代表撮影/ロイター/アフロ
このところ、ロシアによるウクライナ侵略への対応ですっかり多忙になっているボリス・ジョンソン英国首相ですが、少し前まではいわゆる「パーティゲイト」疑惑で辞任寸前にまで追い込まれていました。
これは新型コロナウイルス流行の際に会食が禁止されていたにもかかわらず、首相官邸(ダウニング街10番地)でパーティが開かれていたというスキャンダルです。とりわけエリザベス二世の夫だったエディンバラ公フィリップの葬儀前日である2021年4月16日にも官邸でパーティが行われていたことがわかり、感染症予防のための決まりを守って家族と離れてひとりで葬儀の席に座る女王と、規則を破ってパーティ三昧の首相官邸が対比され、英国人の怒りを買いました。
こうしたパーティ文化や決まりを守らない振る舞いの一因としてよく指摘されるのが、ジョンソンがパブリックスクールからオクスフォード大学に進学したエリートだということです。
ジョンソンの両親は貴族や大地主ではないので伝統的な上流階級とは言えないかもしれませんが、父親も保守党の政治家で、非常に恵まれたアッパーミドルクラスの家庭出身です。このような上流からアッパーミドルの上澄みくらいの階級に特徴的な振る舞いを英国では‘posh’と半ば揶揄を込めて言うことがありますが、ボリス・ジョンソンやその2代前の首相であるデイヴィッド・キャメロンは英国の感覚ではかなりposhです。
パブリックスクールとは?
こうした議論でよく出てくるポイントのひとつが、ジョンソンはイートン校の卒業生だということです。
英国では中等教育までのほとんどの学校教育が公費でまかなわれ、学費は無料です。一方で学費が必要な私立学校もあり、パブリックスクールと呼ばれるものもそのひとつです(「パブリック」とついていますが公立学校ではありません)。英国ではこうした学費が必要な私立学校に通っている子どもは、全体の6~7%くらいで、ほとんどが相当なお金持ちの子どもです。とくにイートン校などの古い名門男子校は全寮制であることも多く、閉鎖的な環境で同じような境遇の男の子に囲まれ、自分は支配階級の一員なのだという意識を自然と持つようになったエリート男性が英国を牛耳っているのが問題だ……ということがしばしば指摘されています。
日本ではなんとなくエキゾチックで貴族的な場所として理想化されがちなパブリックスクールですが、英国では階級社会の温存に一役買っているシステムとして厳しい批判が行われ、2014年にはパブリックスクール出身のエリート階級の若者たちがオックスフォード大学で行う悪行を描いた『ライオット・クラブ』という映画も作られました。
パブリックスクールの問題点を扱う本もたくさん出ています。今回の記事では最近出た本の中からロバート・ヴァーケイクのPosh Boys: How English Public Schools Run Britain(『上流男子――イングランドのパブリックスクールがどのように英国を支配しているか』)とムサ・オクウォンガのOne of Them: An Eton College Memoir(『仲間の一員――イートン校回顧録』)を紹介したいと思います(共に未訳)。前者は教育ジャーナリストによるパブリックスクール批判、後者はイートン校に通ったウガンダ系難民の著者の回想録です。
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