90年代のZineとレズビアンの反抗物語 『Gone Home』やってみた

文=近藤銀河
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自主出版カルチャー”Zine”とパンク

 80年代から90年代初めという時代は手作りの本がコミュニティを作ってた頃、という感じがする。

 日本ではミニコミ誌という少部数の自主制作雑誌がレズビアンカルチャーを盛り上げていた。アメリカでは”ライオット・ガール(riot grrrl)”というパンクファンを中心とした若い女性たちによるフェミニズム運動が”Zine”という自主出版文化を使いコミュニティを繋いでいった。”クィアコア”という性的マイノリティの課題を取り上げDIYを重んじたパンクカルチャーもZineを使いクィアな声を響かせようとしていた。

 私にとってそれはとてもキラキラしていて、同時に絶対に忘れてはいけない時代、という感じがする。そこではとてもたくさんの大事なことが語られていたし、それを希求して行動していた当時の若者たちのことを忘れられない。今の私たちが直面している課題も、この時代にさまざまな形で語られていた。

 だからだろうか、Zineカルチャーへの注目は年々高まっている(残念ながら日本のミニコミ誌に関してはまだ注目が集まらない)。

 出版では2011年に翻訳されたアリスン・ピープマイヤーの『ガール・ジン 「フェミニズムする」少女たちの参加型メディア』(太田出版)の翻訳者、野中モモによる『野中モモの「ZINE」 小さなわたしのメディアを作る』(晶文社)が2020年にあった。

 Zineに関する展示を目にする機会も出てきていて、2021年にはZineカルチャーの背景にあるパンクについての展示『PUNK! The Revolution of Everyday Life』が岡山、東京、長崎、福島を巡回し、2022年には山梨県立文学館において『文芸雑誌からZINE(ジン)へ 』が7月から開催される予定になっている。

 私自身、ここ数年は何度かZineを作って販売する機会があって、紙を半分に折って製本することに慣れつつある。初めはほんとに大変だったのだけど。

 そんなZineカルチャーはゲームの中でも時折に登場する。たとえば2020年発売の『If Found…』はZineを意識したヴィジュアルでトランスジェンダーの主人公の葛藤を語るノベルゲームだった。

 今回取り上げる『Gone Home』もZineカルチャーについてのゲームで、90年代を舞台にまさにライオット・ガールの運動の渦中にいた若いレズビアン女性の物語になっている。

 ゲームをプレイするうちに彼女たちが触れていたカルチャーや、その思い、そして社会状況がだんだんと見えて来て、気づくと彼女たちの選んだ結末が気になってやめられない。『Gone Home』は彼女たちの革命の熱を追体験するゲームなのだ。


※日本語字幕もあります

『Gone Home』の描くZineの熱気への追憶

 『Gone Home』を始めると、プレイヤーは家の入り口の前に放り出される。外では雨が降り注ぎ、雷も鳴っていてどこか不穏な雰囲気。

 家の扉には書き置きが貼ってある。恐る恐る読んでみるとプレイヤーが操作する主人公がケイティという名前で、久々に旅行から帰ってきたこと、この一家の一人であること、妹のサムが両親に黙って家出をしたらしいことがわかってくる。

 自宅は大邸宅で、ところどころ電気が切れている。なんだかちょっとホラーっぽい。正直、私は初めてプレイした時には怖すぎて一回挫折している、のだけど別にホラーゲームでは全くないので安心してほしい。こんなホラーっぽい雰囲気の必要は特にないと思うのだけど……。

 ゲームは、家に散らばっているノートや手紙といったテキストを発見し、調べていくことで進んでいく。基本的にはひたすら部屋から部屋へと移動していくゲームになっていて、ゲームっぽい要素は開かない扉に鍵を使ったり、民家なのになぜかある隠し扉を地図と照らし合わせてみつける謎解きが少しあるくらい。このゲームが出た時は「ゲームとは言えない」とまで言われたらしいけど、私はこの少しずつ物語を探っていく感じは、いい意味でとてもゲームらしいと思う。

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