フェムテックビジネス拡大中の裏にある、脅し商法や高額資格商法の懸念

文=山田ノジル
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疑問符付きの資格が乱立

 そのなかでひときわ印象的だったのは、ボディケアでは定番である動物オイルを販売している専門店です。その場にいた男性スタッフに軽く話を聞いたところ「何でもデリケートゾーンのケアにうちの油がぴったりだとかで~。これからはフェムテックだ! と言われて~」ですと。ボディケアメソッドを展開している外部に乗せられ誘われ、よくわからないけどフェムテック事業に乗り出したような雰囲気。とりあえず国も推してるし、流れにのっとけ! 的などさくさ感。きっとこういうパターン、これからも続出しそう。ボディケアサロンは、コンサル業者によって次々フェムテック仕様に早変わり、とか。

 そうしたニーズへ向けてなのか「手っ取り早く商売のコツやそれっぽい肩書、最低限の知識を伝授しまっせ」という謎講座の乱立も発生していました。実際どれくらいの権威があるのか、役に立つのかさっぱりわからない、定番の資格商法です(高額設定で価値があるような演出もお約束)。

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 会場でチラシをもらったのは「女性として輝く最大のコツは、女性がもつ子宮まわりのケアをすることだと私たちは考えております」と謳う「日本膣ケア協会」。HPを見ると「デリケートケアのスペシャリストが集まる協会」となっていますが、産婦人科医はメンバーにおらず、美容皮膚科関連の人物中心のよう。同様にチラシを手に入れた別団体の「フェムリスト」なる資格の場合は、エステティシャンや柔道整復師、開業コンサルタントがタッグを組み、妊活や産後の骨盤調整、更年期対策の知識を伝授してくれるようです。

 ほかにはエステティシャンが講師を務める「フェムテックマイスター」なる資格もありました。サロン経営をしている人やこれから起業したい人に向け、腟やホルモンについて教えてくれるそうですが、まさかそれ一般知識だけじゃないですよね……? サロンワークの経験やニーズをベースに、こうした施術にはこういうトークや商品……というあたりを教えてくれるのでしょうか。

 かろうじて、一番内容が濃そうな雰囲気を醸し出していたのは「認定フェムテックエキスパート講座」です。腟ケア本を出している関口由紀医師をはじめ、たくさんの産婦人科医やジャーナリストが講座を担当。

空前の「腟」ケアブーム

 今回のイベントではお見かけしませんでしたが、巷にはこのほか「腟衛生協会」「日本美膣協会」などもあり、同様に謎の資格を与える講座を設けています。それらを見ていると、野菜コンシェルジュやベジタブルマイスター的なものと、大差ないお手軽感がそこはかとなく……。でも役に立とうが立つまいが、「旬の資格」を必要とする人の心をくすぐるのでしょう。メディアで発信する際に、それっぽい肩書があると採用されやすい、とか。

 謎資格といえば、当連載で今まで観察してきたスピリチュアル系の場合。教祖的人物が発行する高額資格(〇〇認定講師とか)は、お金で手軽に「教祖の弟子」というポジションを買うことができ、横の連帯で輪のなかの信者をシェアさせてもらえるメリットがあるでしょう(たしかな技術と知識が必要な伝統芸能の場合は、権威ある看板を背負うため「手軽に」とはいきません)。フェムテック周りの一部資格にも、そうした役割を感じます。資格を得ると運営者たちの派閥に入てれもらえて、人脈や取り扱い商品の便宜をはかってもらえたりするのかな~。すでに似たような活動をしている人の場合は、その資格を取ることで、運営者たちと仲良しごっこが強化できるのでしょう。

 美容機器ジャンルでは、「座るだけで骨盤底筋を刺激できる椅子」を体験できました。感触は、整体院の流れ作業でやられる低周波治療器のよう。ドーンとしたシルエットの四角い座面に座ると、股周辺がビリビリビリ。ブースのスタッフから「まだ大丈夫ですか?」とこまめに声をかけられ、負荷が徐々に上がっていきます。私は運動不足で筋力が弱く、スクワットやらピラティスができないので、これで本当に鍛えられるならそれは嬉しいかも。

 しかしこの1回ではもちろん効果はわからずですから、股をビリビリさせるってだけで、私は一体何をやっているのかという脱力感に包まれました。客観的に自分を見つめるとトホホ感がハンパないので、「今、私は尿漏れ防止に向き合っている」という高い志と、内面に意識を向ける自己対話スキルが必須になりそうです。

 腟に挿入する、家庭用腟ケア器もありました。パッと見は、まるでヘアアイロン。挿入したLEDライトを腟内を照射し、腟の乾燥やゆるみを緩和したり、pHまで整えてくれるのだとか。ただし、HPには「効果を保証するものではありません」とありました(えええ)。さらに掲載されている体験談まで追えば「フェミニンケアをすることでホルモン状態が良好になり、さまざまなお悩みが解消されるのをご存知ですか?」と言ってしまっているのでヤバさ100%。

 詳細を読むと、性生活が充実! 快感を得れば幸せホルモン出るよね~。そしたらストレス減るし、免疫も上がる! というようなことを主張したいようですが、この辺りがどうもきなくさい。サラッと読めば、「女性ホルモンが良好になった」ととらえる人も多そうですが、おそらく正確にはこのグッズで感度が上がり(実際上がるのかわかりませんが)オーガズムを得られれば、オキシトシンという快感ホルモンが出てリラックスにつながるということなのでしょう。と、遠すぎる! どんなホルモンかを明確に言わず、あえてふんわり語っているのはおそらく確信犯。だってフェミニンケアで「女性ホルモン」は増えませんし、免疫も関係ないので。絶妙に言い逃れできるような表現のテクニックも、フェムテック関連の資格講座で学べるのかな。

そのケア、必要ですか?

 ひときわ華やかなブースでは、性器をケアするエステマシンの展示です。見ただけでは用途が全く想像できない形状だったので「これは何をするものでしょうか?」と聞いてみると、人目につかないブース奥へそっと案内され、まるで裏取引のように性器の写真が差し出されました。施術のBefore・Afterです。おお、たるみが引き締まってスッキリなっている。毛穴の奥までキレイにディープクレンジングして、引き締めてくれるんですって~。なるほど性器のニオイが気になるご婦人は、これで清潔になったと安心するのですね。

 ニオイやゆるみ・たるみは時に不快の原因となることもあり、フェムテックの一部にある「すべての女性の悩みや不安によりそい、今まで口にしづらかった悩みをポジティブに解決!」という文脈に、こうした美容機器はマッチするでしょう。でもこれって結局は「性器周りがにおうのは不潔」「たるむのは恥ずかしい・意識低い」という脅し商法じゃなかろうか。フェムテックという大義名分で、本来不要なケアをどんどん課せられる感じもあります。これってホントにフェムテック? 

 ジェンダー問題をふんだんに盛り込み、イクメン地獄を見事に描いた『来る』という映画(原作『ぼぎわんが、来る』)がありますが、そこでは身を守るものと渡されたものが、実はその真逆だったという罠がありました。女性の味方! と謳って近づいてくる「フェムテック」のなかにも、コンプレックスを刺激したり、不安をあおるという罠が無数にしかけられていそうです。フェムケアビジネスの百鬼夜行は、確実に始まっているようです。

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