アジア系女性へのヘイトクライムと『私ときどきレッサーパンダ』~アジア系スパ銃撃事件から1年

文=堂本かおる
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GettyImagesより

 2021年3月、米国南部のジョージア州アトランタにて3軒のアジア系マッサージ・スパが銃撃され、6人のアジア系女性が殺害された。全米のアジア系アメリカ人(ここでは米国籍者のみを指さず、米国居住のアジア系を全て含む)を恐怖に陥れたこの事件は、そもそもは当時の大統領トランプと側近が「チャイナウイルス」「武漢ウイルス」を繰り返したことに起因する。全米各地、わけても総人口が多く、かつアジア系の人口も多い西海岸、東海岸でアジア系へのあらゆるヘイトクライム−−暴言や暴力−−が多発していた中、恐怖を頂点にまで高めた事件がスパ銃撃殺害事件だった。

 その後、アジア系へのヘイトクライムを防ぐためにアジア系団体やアジア系セレブによる様々な取り組みが行われてきた。その甲斐あってか昨年後半にはヘイトクライムの件数がやや減ったように感じられていた。ところが今年に入り、ニューヨークではアジア系女性が殺害、もしくは重傷を負わされる事件が連発し、再度、アジア系コミュニティを震撼させている。

 このようにアジア系へのヘイトクライムが急増したがゆえに、アメリカにおけるアジア系のアイデンティティ模索が加速し、ディズニーを筆頭に大手メディアも呼応し始めいている。

 さらにヘイトクライムの背景には、ニューヨーク市行政システム(司法・精神医療・ホームレス支援)の機能不全もある。以下、事件の詳細、行政システム、アジア系の努力について記す。

※編集部注:以下、具体的な暴力の表現を含みます

地下鉄で押され、死亡

 1月15日、ニューヨーク市マンハッタン在住のミシェル・アリッサ・ゴーさん(40)は、タイムズスクエア駅のプラットホームで男(61)に背後から押され、駅に入ってきた地下鉄列車に轢かれて死亡した。男はいったん現場から逃走するも自首。

 男はミシェルさんを襲う直前に他の女性を襲おうとして失敗しており、殺人罪で起訴されるもその女性が非アジア系であったことからヘイトクライムには該当せず。

 ミシェルさんはコンサルト企業に勤めるかたわら、ホームレス支援ボランティアを10年以上続けてきた人物だった。

 この事件後、アジア系はプラットホームの端に立つことを止め、壁際に立つようになった。

自宅アパートで40回以上も刺され、死亡

 2月13日、マンハッタンのチャイナタウンに住むクリスティーナ・ユナ・リーさん(35)は、帰宅時に後をつけてきた男(25)に自宅アパートに押し入られ、40回以上刺されて死亡。クリスティーナさんの叫び声を聞いた隣人が警察に通報。駆け付けた警官はアパートのドアを開けることが出来ず、後続の警官隊がドアを突破した時には通報から1時間半近くが経過、クリスティーナさんはバスタブの中で死亡していた。ベッドの下に隠れていた男は逮捕。

 クリスティーナさんが半裸であったことから男は殺人罪に加え、性的目的の押し入り罪などで起訴されたが、ヘイトクライムは適用されず。

 クリスティーナさんはアートギャラリー勤務を経て、デジタル・ミュージック・プラットフォームSplice のクリエイティブ・プロデューサーを努めていた。

街を2時間歩き、7人のアジア系女性を攻撃

 2月27日、犯人の男(28)はマンハッタンのミッドタウンからダウンタウンに向かって約2時間歩き、その間にすれ違った女性7人を順次、襲った。被害者は全員がアジア系、57歳と19歳を除く5人が20代。男は被害者たちの顔面を拳、または肘で殴る、押し倒すなどし、7人のうち病院での手当てを必要としたのは2人。逃走から数日後、立ち寄った図書館の警備員が男に気付いて通報、逮捕。

 男は犠牲者を襲う際、アジア系への侮蔑語などは発していなかったが、犠牲者がアジア系のみであることからヘイトクライムで起訴。

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