「ダンゴムシになっちゃダメ」。ドラマ化された『ミステリと言う勿れ』(小学館)に出てくるセリフだが、我が家の場合は「ダンゴムシに、なれ!」である。子供らが大好きなダンゴムシは、絵本や教材にもよく出てくる親しみ深い生き物ですが、あえての「ダンゴムシになって欲しい時」とは?
丸まるポーズは防御姿勢
「ダンゴムシになっちゃダメ」
これはドラマ化され、話題になっている田村由美の漫画『ミステリと言う勿れ』(小学館)で、主人公が精神的に追い詰められた時に出てきたセリフ。ダンゴムシのようにギュッと体を丸め、殻に閉じこもる悲しい幼少期があったことを思わせるエピソードです。

つつくと丸くなる、ダンゴムシ
ヒトが体を丸める姿勢をとるのは、心理的にも物理的にも防御したい時でしょう(地震の時はかえって危険だという意見もあります)。ダンゴムシやアルマジロ、ハリネズミなどが丸まることができるのも、いわずもがな、もちろん身を守るためです。この説明は、幼児向けの絵本や教材に高確率で登場します。
あえての「ダンゴムシに、なれ!」
さて、ヒトがダンゴムシになるのはいいのかダメなのか。
我が家の場合は、あえての「ダンゴムシに、なれ!」です。まずはワクチン接種の場面で。6歳になってもまだまだ注射が怖い娘は、椅子の上でダンゴムシのポーズにならないと、打つことができません。親としては力むとかえって痛いんじゃあ……と思いますが、暴れるよりはマシ。今のところ解決策がダンゴムシしかないので仕方ありません。先日も、小児の新型コロナワクチン接種会場でイヤイヤ拒否するので、「さっさとダンゴムシ!」です。
おなかが痛いときも、ダンゴムシポーズです。娘の場合、腹痛を訴えても胃腸炎や便秘であることはまずなく、ガスがたまっていることがほとんど。なので「お腹いたい~」と愚図りだしたら、「ダンゴムシになって転がっとけ」。ギュッとお腹を抱え布団の上を左右にゴロゴロ……やがて腸が圧迫されるからか見事なオナラがブバンと飛び出て解決です。これらもある意味、身を守る姿勢。
良モデルとなってくれたダンゴムシ、ありがとう!
(とはいえ、これから先は成長にともない『ミステリと言う勿れ』の主人公のように、メンタルを守りたいシーンに出くわすでしょう。そこはやはり殻に閉じこもらず、親に打ち明けてもらいたいですね)
様々な虫たちの面白い防御法
思えば虫たちの防御には、面白いものがたくさんあります。アオムシは角をにょーーんと突き出し、臭いニオイを発します。忍者のように葉や樹に擬態する防御法も、虫絵本に描かれる定番能力。そのほかにも毒毛をまとったり、死んだふりをしたり……。しかし一番確実なのは、多くの生き物に共通する「逃げる」でしょうか。
ダンゴムシの場合は、どうやって逃げるのか? 丸まるだけが能ではありません。「交替性転向反応」と呼ばれる習性があり、分岐点が連続している場合、最初の分岐で右に曲がれば次は左、その次は右というように、高確率で左右交互に曲がるのです。目的は、敵からより確実に遠くに逃げて隠れるため。同じ方向に曲がっていたら、堂々巡りになりますから。
ヒトの場合は「狙撃されるような現場」だと、ジグザグ走ると弾にあたりにくいなんて情報もありましたが、それを実践する機会に遭遇しないことを全力で祈るばかりです。もっと平和なところでは、肢や体幹を鍛えて身体感覚を養うという点に、効果を発揮してくれそうです。そうなるとこれまた積極的に「ダンゴムシになれ!」と言いたい。
迷路実験をして動きを教える
そこでダンゴムシの動きを子供に教えるため、かの有名な「迷路実験」をやってみました。まずはダンゴムシの用意からです。ダンゴムシを集める作業、昔「ダンゴ寿司」を作った時以来だなあ。ポリポリした食感だけで、特徴的な味はありませんでした。

お迎え時、保育園の畑から10匹ほど拝借。ダンゴムシは乾いた場所にはいないので、レンガや石の下などの湿って柔らかい土の周りを捜索します。写真の容器は100均で売っている「小麦粉ふりふりストッカー」。蓋が二重になっていて、ひとつが網つきなので、ミニサイズの虫かごとして重宝しています。
「迷路」はネット検索したところ、通路の幅は8㎜程度、直線は5cmくらいが適当だとか。素材は工作用紙やプラ製のブロックを組み合わせたり。今回はお下がりでもらったレゴがあったので、それで作成してみます。ところで私は「迷路を逃げる」というと、映画『シャイニング』※のラストで庭園の迷路を逃げるシーンが頭に浮かんでしまい……。つい趣味丸出しで、緑一色に。さらに仕事ばかりでダメになったジャックさんと、双子ちゃんの幽霊も画用紙にイラストを貼り付け、配置しました。幽霊に遭遇したり、狂気の父・ジャックさんから逃げたりする不憫な息子・ダニー君は、ダンゴムシに演じてもらいましょう。
※キューブリック監督のホラー映画。冬の間は閉鎖されるホテルの管理人となった男がそこに漂う邪気によって狂っていき、妻子を殺そうとする。双子の女の子はホテルに現れる幽霊。

T字路を9回曲がると、ゴールに着ける仕様にしてみました。シャイニングの素敵なイラストは、デザイナーの秋吉あきらさんによるもの。
ダンゴムシのダニーは逃げ切れるか
さあ、行け! 逃げろ、ダニー君!。

ダニー君役に抜擢された、ダンゴムシ(迷惑してそう)。
結果は、初回で見事成功! ジグザグ進んで無事ゴール! ジャックと双子ちゃんから逃げ切った、ダニー君! その後、個体を変えて何度かやってみると、壁によじのぼってジャックの前に滑り落ちるという、ホラーファン的においしい展開も発生しました。

ジャックの前に滑り落ちたダンゴムシのダニー君。丸まって身を守れ!

映画の迷路シーンに双子ちゃんは出てこないのですが、ここはやはりシャイニングの華ですので。曲がる方向を間違えて双子ちゃんに遭遇したら「ホテルに帰ってあそびましょ」ということでゲームオーバーです(私が勝手に作った設定)。
ダンゴムシの迷路実験は、自由研究の定番でもあります。家で手軽にできる観察なので、休校や休園などでヒマを持て余した親子にも、オススメ。動きを観察して一緒に丸まり、ジグザグ走り、花粉に負けずゆるーく春を楽しみたいものです。
ちなみにシャイニング迷路は「こんな怖いとダンゴムシがかわいそうでしょ!」と娘が怒り、速攻花畑バージョンに作り替えられてしまいました(タイトルの写真です)。
※ダンゴムシは肢が14本(7対)あって節足動物なので「昆虫」ではありません。小動物という「広義の虫」として、ご理解ください。

『むしくいノート びっくり!たのしい!おいしい!昆虫食のせかい』(カンゼン)
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