娘と母の本音トーク:養子であることをオープンにして育てていても、よそでタブーになっていたときにどう考えるか

文=うさぎママ
【この記事のキーワード】
娘と母の本音トーク:養子であることをオープンにして育てていても、よそでタブーになっていたときにどう考えるかの画像1

GettyImagesより

 幼い頃から娘・アンちゃんに養子であると「真実告知」してオープンに育ててきた著者。ところが、いちばんの理解者だったはずの妹が我が子に、従姉妹のアンちゃんが養子であることを伝えていなかったと知ってショックを受けます……。

第4章 花ざかりのアン

 娘が養子であることでもなんでも、とにかく「かくさない」方針でやってきた我が家ですが、20年以上が経って知った衝撃の事実がありました。

 なんと、幼少の頃から娘・アンと姉妹のように育ってきた姪たち(私の異母妹の娘で、アンの従姉妹)が、最近まで娘が養子であることを知らされていなかったんです。妹いわく「長女と次女には去年話したけど、三女はまだ知らない」って。私はとっくの昔に周知の事実になっていると思っていたのに。

 妹は、私たち夫婦が特別養子縁組をしたことを誰よりも喜んでくれたいちばんの理解者でした。私たち夫婦が里親登録をして、赤ちゃんハウス(乳児院)に通っている頃に結婚して東京へ行ってしまったけど、アンよりひとつ下の長女を筆頭に3人の娘を引き連れて、ほぼ毎年里帰りしてきました。

 従姉妹同士の中でアンはいちばんのお姉ちゃんなので一目おかれて、小学生の頃の夏休みにはとても張り切っていました。一緒に宿題や工作に取り組んだり、キャンプに出かけたり。かわいい姪たちとの賑やかな夏は、私もとても楽しみにしていたものです。

 私はアンに早くから養子であることを知らせる「真実告知」をしていましたし、そのことを知っていた妹も、姪たちにオープンにしているものとばかり思っていました。

 妹はアンを0歳からとてもかわいがってくれて、アンも大好きなおばちゃんに気配りはしても遠慮はせず、今でも心おきなく話せる間柄です。そして私と妹も、なんでも話せる間柄だったのに、やはり養子だという事実については温度差があったみたいでした。いえ、それがいいとか悪いとかではないんですが。

 妹に、どうして姪たちにアンが養子であることを伝えなかったのか、その理由を聞きました。妹の考えでは、幼い頃に教えても理解できないかもしれないし、中途半端に知らせるよりは成長してからのほうがいいと思っていたとのこと。それに血のつながりがないことを知って、子どもたちがアンにどう向き合っていいか戸惑うかもしれないからとタイミングをみるうちに月日が過ぎて、たまたま養子の話題が出たときに長女と次女には話したけど、留守だった三女には伝えていないという話でした。

 とても身近なはずの私の妹でさえ深刻にとらえていたことを知り、まだ世間では特別養子縁組は当たり前じゃないんだと思いました。「たまたま、我が子がほかの人のお腹から生まれただけ。ただそれだけ」と早々に割り切って、自分を「ごく普通の母親」だと思っていた私はとても驚いたのです。

 私の妹が自分の娘たちにアンの生い立ちを伏せていたことは、心のどこかに小さなトゲのように引っかかっていたみたいで、数日後にアンと電話で話したとき、妹を責めるような言い方をしてしまいました……。

私「おばちゃんったら、どうかと思うよ。内緒にしてたなんてね!」

 語気荒く語る私に対して、アンは即座にこう言いました。

娘「そりゃそうかも。仕方ないよね」

私「え?  だってだって、夏休みはずーっと姉妹のように過ごして、アンと私とお父さんの様子も見てきた姪たちなんだから、さらっと当別養子縁組だって知らせてくれてもよかったんじゃない?」

娘「うちは慣れているけど、よそはものすごく特別に感じるんじゃないの?  ママみたい に、だれしも簡単には割り切れないはずだよ。とくにおばちゃんって、ママとちがってやさしいところあるじゃん。子どものことになると、すごく一生懸命で気をつけてみてるし。従姉妹たちにショックを与えたくなかったんじゃないのかな」

私「…………」

娘「私も高校生の頃くらいから、“普通”とちがう家庭もたくさんあるんだなあって、だんだんとわかってきたの。都会に出てからは“名前がふたつあるんだよ”って子もいた。子どもの頃から親に大事にされていない人もいて、あまりにかわいそうで思わず泣きそうになったこともある。家庭環境は本当にびっくりするほどさまざまなんだって驚いたよ」

私「うん、家庭環境はさまざまだよね」

娘「それでもね、私のように0歳で特別養子縁組をした人に、まだ偶然には出会ったことがないの。もしかしたら同じ境遇の人がいても、内緒にしているのかもしれないけどね。ママはもう慣れて、“よくあるケース”くらいに思っているんだろうけど、それは全然ちがうと思うよ。私も慣れて平気だけどね、“特別にめずらしいケース”だと思う。だから、おばちゃんを責めるのは、ちょっとちがうんじゃないかな」

 娘に諭されてしまいました。意外にも大人の考え方でびっくりです。確かにそうかもしれません。私たちにとって養子縁組が当たり前になっていただけだと思い直したのでした。

次回更新は5月2日(月)です。

特別養子縁組について

 特別養子縁組は、子どもの福祉のために(親のためではなく)、子どもが実親(生みの親)との法的な親子関係を解消し、養親(育ての親)と実子に等しい親子関係を結ぶ制度です(※)。そんな特別養子縁組制度が成立した翌年の1988年、うさぎママ夫妻は児童相談所の仲介で0歳の娘・アンちゃんと出会い、親子になりました。

厚生労働省 特別養子縁組制度について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169158.html

※この連載は、書籍『産めないから、もらっちゃった!』(2012年、絶版)の改定版を公開するものです。

「娘と母の本音トーク:養子であることをオープンにして育てていても、よそでタブーになっていたときにどう考えるか」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。