「性自認は男性」と「子どもがほしい」ーー“私”が抱えてきた性別違和

文=佐倉イオリ
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「性同一性障害なのに母親に? 妊娠、したいんですか?」ーー看護師は私にそう問うてきた。

 不妊クリニックの面談でのこと。その日は、初診だった。問診票の記入を4枚ほど課され、過去の妊娠歴や生理周期などを書き込んだ。受付に渡すと「ほかに検査結果があればご提出ください」と言われた。何か持っていないか、私は記憶をたどった。

 では、不妊治療は保険が効かないこともしばしばらしい。検査をひとつでも減らせたら、お財布的にラッキーではないか?

(そう言えば、この前行ったクリニックで血液検査を受けたな。たしかカバンに入れっぱなしだったはず……)

 漁ってみると案の定、検査結果が出てきた。ちょうど女性ホルモン値を測ったものだ。これでちょっぴりお得になるかもしれない、そう思い、合わせて提出した。

 だが、その判断をただただ後悔することになるとは、そのときは想像だにしていなかった。

 初診では、医師の問診の前に、看護師による面談がある。提出した問診票や書類を確認し、患者の希望と治療方針をすり合わせるようだ。患者としては、医師に事細かに伝えるより、看護師のほうが何かと言いやすい。なかなか好感の持てるシステムだ。

 看護師はやわらかな口調で1枚1枚を読み上げ、丁寧に確認していった。ときに補足のメモを書き入れながら。面談は順調に進み、もうこれで最後だろうというタイミングで、私の提出した検査結果を手に取った。ざっと目を通し、こう確認した。

「これはどちらで、何のために受けたものですか?」

 思わず固まった。わざわざ聞かれるなんて思いもしなかった。「この前行ったクリニック」とは、産婦人科ではかなり口にしにくい場所なのだ。私の動揺をよそに、看護師は書類に目を落としたままだ。

 いつまでも固まってもいられまい。私は意を決して口を開いた。

「ジェンダークリニック……精神科で、性同一性障害の診断のために受けたものです」

 私はおよそ半年前から、ジェンダークリニックと言われる「性同一性障害」を診断できる精神科に通っていた。

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