結婚したら、周囲の態度が変わった。性別の違和感を無視できなくなった

文=佐倉イオリ
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自分の違和感を尊重していい

 くり返しになるが20代のころの私は、個人よりも家や女性としての義務を優先するべきと思っていた。自分の意思よりも、自分が属する社会やコミュニティが良しとする価値観に従ったほうが、何ごとも丸く収まると思うフシがあったのだ。

 結婚も30歳前にしたほうが、角が立たないと思っていた。そして、親に認められる形の結婚がいいと思っていた。

 夫から、婚姻届を出す前に同棲をしたいと提案された。だが、私の家では同棲は禁止されていたのだ。親族に同棲の可能性を伝えただけで「結婚前なのに同居すると言うのなら、まず私たちと縁を切ってからにしなさい」と厳しく叱責された。夫にそのことを伝えると、

「あなたの家族の考えはわかった。でも、オレがいま話しているのは、あなた。あなたの意思は? あなたが嫌ならあきらめる。だから、あなたの意思を教えて」

と、言ってきたのだ。私は、驚き、戸惑った。何よりも、私が嫌ならあきらめると言われたことに衝撃を受けた。

 社会やその組織で正しいとされていることと自分の意見が合わなければ、自分を殺すべきだと思ってきた。自分の気持ちを尊重してくれる人がこの世界にいると気づくと、抑えてきた思いがブワッとあふれ出した。

 今まで私には関係ないと目を背けてきた「性別違和」というものが、自分の生きづらさとつながっているのではないか。

 やっと目が向くようになったころ、「X(エックス)ジェンダー」と呼ばれる人々がいることを知った。従来の男性でも女性でもない、自身の性別を「X」と主張する人々だ。

 それまで、性別の違和感を持つ人には、2001年に放送されたドラマ『3年B組金八先生』で、上戸彩さんが演じた人物のように、女性の制服を嫌がったり「俺は男だ!」と強く主張したりするわかりやすさが不可欠だと思っていた。どちらでもないという人々がいることに、ぼんやりと自分と通じるものを感じた。

 だが、まだ私は自分の性別違和を認めきれてはいなかった。「後学のためだから」と自分に言い訳をしながら、彼らの交流会に足を運んでみることにした。

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