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特別養子縁組で親子になった著者とアンちゃん。幼い頃から養子だと伝える「真実告知」をして育て、大人になった今ではよりなんでも話せるようになりました。今回のテーマは、予期せぬ妊娠をしたときに「養子に出す」という選択肢を考えるかどうか、です。
第4章 花ざかりのアン
娘・アンのもとへ遊びに行ったときは、必ず長いおしゃべりになります。あるときには、アンの友だちの予期せぬ妊娠という話題もありました。恋人と別れようかと迷っているのに、赤ちゃんができたかもしれないというのです。深刻ですよね。
結局は早とちりだったのですが、まわりの友だちもずいぶん心配したようです。当人は「ひとりで産んで育てる自信はないし、そもそも生活できないし」「かといって中絶するのは、かわいそう。どうしよう」と悩んでいたようです。
娘「本人がいないときに、私が選択肢のひとつとして、“赤ちゃんを産んで養子に出すって方法もあるよ”って言ったんだけど、“あり得ない〜。自分の赤ちゃんを、ほかの人に渡すなんて考えられないよ”って全員に却下されちゃった」
私「みんなの考えは、産んで育てるか、中絶するか、の二者択一なの?」
娘「うん。普通はそうなんだね〜」
そう驚きながらも、妙に納得していました。アンは物心ついた頃から「養子」という言葉が当たり前に飛び交う環境で育ったので、「うちは意外と普通じゃなかったんだ」としみじみ感じたそうです。かといって、特にどんよりと落ち込んだ風でもなく、とても明るい口調でしたが。
娘「お腹の赤ちゃんが母性愛の対象にならない、ってわけじゃないよね。愛情があるから、このまま産んで手放すよりも中絶を……と思うのかな。でもそれって、その子にとっては迷惑なのか、ありがたいのか、わからないよね」
私「そうだね。難しい問題だね」
娘「でも、思い切って“養子に出す”と決めて産んでくれたら、きっと新しいお母さん、お父さんが見つかるだろうと思うよ」
私「だけど養子に出すということがよくわからないと、不安に思うかもしれないね」
娘「私は産んでもらって、本当によかったよ。だって、どこにでもある普通の家庭で育って、楽しいことがいっぱいあって。養子だから不幸だと思ったことはないもの」
私「それは本当によかった」
娘「養子は悲しいことでも、つらいことでもないし、うちみたいな普通の親子がいると知ってもらって、世間の養子に対するイメージが変わるといいよね」
とある養子あっせん団体のウェブサイトを拝見すると、待機養親さんが多数なので現在は受付をしていませんとのこと。つまり、赤ちゃんを待ち望んでいる人たちはたくさんいるんです。そのかたわらで、ひっそりと出産して、その命を消してしまう親も。
本当なら、産みの親が育てられなくても、せっかく元気に生まれた赤ちゃんには愛情をたっぷり受けて、幸せに育ってほしい。
外国の養子縁組ポリシーとはまったく違う、日本ならではの母性神話(子どもは実母に育てられるのがいちばん幸せ、血のつながりが何より大事)が、多くの女性たちを苦しめるだけでなく、家庭に恵まれない子どもをも苦しめている気がしてなりません。
もちろん養子縁組をすればいいということではありませんが、実親が育てることのできない子どもたちが偏見の目で見られることなく、新しい親に出会って幸せに暮らせることを祈っています。
次回更新は5月9日(月)です。
特別養子縁組について
特別養子縁組は、子どもの福祉のために(親のためではなく)、子どもが実親(生みの親)との法的な親子関係を解消し、養親(育ての親)と実子に等しい親子関係を結ぶ制度です(※)。そんな特別養子縁組制度が成立した翌年の1988年、うさぎママ夫妻は児童相談所の仲介で0歳の娘・アンちゃんと出会い、親子になりました。
厚生労働省 特別養子縁組制度について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169158.html
※この連載は、書籍『産めないから、もらっちゃった!』(2012年、絶版)の改定版を公開するものです。