アジア系の多様性を語るアメリカの絵本8選~子供たちのハピネスのために

文=堂本かおる
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GettyImagesより

 アメリカでは5月は「アジア/太平洋諸島系アメリカ人の文化遺産月間」だ。アジア系に太平洋諸島系を加えたグループをAAPI(Asian American and Pacific Islander)と呼び、その歴史や文化にまつわるイベントなどが開かれる。

 現在、アメリカには約2,000万人のアジア系が暮らしている。全米規模では人口比わずか6%に過ぎないが居住地域によって大きな差があり、ハワイ州ホノルル市では53%にもなる。実人口ではニューヨーク市が120万人を越えており、全米最多となっている。アジア系は異人種婚率が高く、他人種とのミックスであるアジア系も多い。彼らを加えるとアジア系の人口はさらに増える。そもそも近年、アジア系の人口増加率は他人種を超えており、つまりアジア系の人口は今後、増えていくものと予測されている。

 アジア系アメリカ人(*)のルーツ国別では人口の多い順に中国、インド、フィリピン、ベトナム、韓国、日本となっている。ただし、どの国も人口が増え続けている中、日本のみ人口が減っている。

*米国籍者に限らず、各種ビザ保持者や滞在資格のない人も含む

 ルーツを問わず、アメリカ生まれの二世や三世、さらには四世代目、五世代目となる人たちもいれば、昨日、移民してきたばかりという人たちもいる。幼い頃に親に連れられてアメリカに移住し、移民ではあるが祖国の記憶がない人たちも存在する。祖国の言葉を使い続ける人もいれば、英語しか話さない人もいる。宗教もさまざま。東アジア系と南アジア系では顔立ちも異なる。

 一口にアジア系といってもこれほどの多様性があり、その多様性を表す絵本が近年のアメリカでは盛んに出版されている。以下、アジア系やアジア文化にまつわるアメリカの絵本8作を紹介する。多くは筆者が書評新聞「週刊読書人」の絵本レビューで取り上げた作品だが、まとめて再読することにより、アメリカにおけるアジア系の複雑さ、文化の豊かさ、抱える諸問題に改めて気付くこととなった。

Eyes That Kiss in the Corners(目尻でキスする目)中国系

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Eyes That Kiss in the Corners』(HarperCollins)著:Joanna Ho 画:Dung Ho

 アメリカでは吊り目(slanted eyes)とからかわれることもあるアジア系特有の目の形を、家族から受け継いだ美しいものとして描く秀作。主人公の少女は「私の目は目尻でキスをして、温かいお茶のように柔らかな光を放つ」と繰り返す。この目は大好きなお母さんやおばあちゃんから受け継ぎ、そこには中国の歴史や文化も潜んでいる。自分とまだ幼い妹も同じ目で、これは未来を表している。白人の友だちは青いサンゴ礁みたいな目とレースみたいに長い睫毛。それも美しいけれど、私はそうじゃないと言い切る確たるアイデンティティとプライドが少女にはある。

My Footprints(私の足あと)ベトナム系・インド系

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My Footprints』(Capstone Editions)著:Bao Phi 画:Basia Tran

 インターセクショナリティを簡単に説明すると、複数のマイノリティ属性を併せ持つ人は複合的な差別を体験する、あるいはそうした差別を理解するための言葉。ある日、トゥイは学校でいじめられてムシャクシャしながら雪道を歩いて帰る。トゥイは「女の子」で、「移民」で、「人種マイノリティ」で、お母さんが2人いるのだ。それを知ったお母さんたちは、動物が大好きなトゥイの想像力を掻き立てる祖国ベトナムとインドのおとぎ話をする。雪の中で空想の大きなドラゴンや不死鳥と遊ぶ母子3人。大好きなお母さんたちに見守られて、トゥイは幸せで元気いっぱいに。

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