
Gettyimagesより
新刊・近刊の人文書から、ライターの高島鈴が気になる新刊をピックアップ。おさえておきたいポイントと一緒にご紹介します。
今月は、『和解をめぐる市民運動の取り組み』、『トランスジェンダーを生きる』、『クィア・スタディーズをひらく2』、『非暴力を実践するために』、『日本近代社会史』、『ソーシャルワーカーのための反『優生学講座』「役立たず」の歴史に抗う福祉実践』、『SNS天皇論』、『忘れられた思想家 山川菊栄』、『学問と政治 学術会議任命拒否問題とは何か』、『無数のひとりが紡ぐ歴史 日記文化から近現代日本を照射する』、『弱者に仕掛けた戦争 アメリカ優生学運動の歴史』、『フェミニズムってなんですか?』、『新しい声を聞くぼくたち』の13冊!
※今回取り上げた書籍について、Twitterのスペースにて高島鈴さんと担当編集がおしゃべりをしています(開催日未定)。wezzyのTwitterアカウントのフォローをよろしくお願いします。
外村大編著『和解をめぐる市民運動の取り組み』(明石書店)

外村大編著『和解をめぐる市民運動の取り組み』(明石書店)
「大日本帝国」が解体されたのちも、列島には帝国主義が残存し続けているとしか思えない。戦中に日本が侵略を行った地域に対する謝罪と反省には終わりがなく、何かを「区切り」として取り止められるものではない。このような状況で市民はいかに自らの負った責任について考え、行動すべきだろうか?
本書では戦後の市民運動に焦点を当て、旧植民地との「和解」を多角的に追う。取り上げられるテーマは、在日コリアン、アイヌ遺骨返還問題、「慰安婦」問題など多岐にわたる。戦争の利益の上に成り立った社会を生きる者として、向き合うべき問題が詰まっている。
町田奈緒士『トランスジェンダーを生きる』(ミネルヴァ書房)

町田奈緒士『トランスジェンダーを生きる』(ミネルヴァ書房)
極めて残念なことに、いまだトランスジェンダー排除言説は現実社会に横行して憚らない。そのような情勢下、一冊でも多くのトランスの「生の声」を聞ける書籍が出るのは希望と呼べるだろう。本書ではトランス当事者であり研究者である著者が、「理論編」と「事例編」の二部構成で、トランスの歴史からトランスパーソンへのインタビューまで網羅する形で筆を奮っている。目次を見るに、〈雰囲気〉をテーマの一つにしているのが興味深い。
菊地夏野ほか『クィア・スタディーズをひらく2』(晃洋書房)

菊地夏野ほか『クィア・スタディーズをひらく2』(晃洋書房)
2019年に発売された『クィア・スタディーズをひらく1』の待望の続刊である。「アイデンティティ、コミュニティ、スペース」という副題を冠した1巻に続いて、今回の主題になるのは「結婚、家族、労働」だ。「女性同士の親密な関係」の歴史を専門とする赤枝香奈子による「女性同士の《結婚》」や、『レズビアン・アイデンティティーズ』(洛北出版)などで知られる堀江有里による天皇制とクィア理論を接続させる論考、昨年亡くなったアクティビスト・宇佐美翔子によるコラムなど、多彩な内容が魅力的である。なお、最終巻である3巻では病や身体、障害がテーマになるようだ。今後が楽しみなシリーズである。