茂木謙之介『SNS天皇論』(講談社)
今やほとんど忘れられているような気がするが、「改元」前後の妙な「お祭り感」はやはりおかしかった(即位礼の日に出た虹を「奇跡」であるかのように囃し立てたSNS投稿がバズっていたのを今になって思い出す)。本書は現代の天皇を取り巻く言説をメディア表象、ポップカルチャー、スピリチュアリティ、慰霊などのテーマから取り上げて論じている。あの当時の「お祭り騒ぎ」をあらためて解体・再考するために役立ちそうだ。
鈴木裕子『忘れられた思想家 山川菊栄』(梨の木舎)
『金子文子 わたしはわたし自身を生きる』(梨の木舎)など、最初期の列島のフェミニストたちについて多くを記している鈴木裕子が、今度は山川菊栄について重厚な評伝を上梓した。総力戦体制に多くのフェミニストが協力してしまったなか、山川菊栄は反戦の思想を貫いたことで知られている。戦争がすぐそばで起きていて、それに乗じた軍国主義の声も高まる今だからこそ、山川菊栄のあゆみに注意を向けてみたい。
芦名定道ほか『学問と政治 学術会議任命拒否問題とは何か』(岩波書店)
2020年、菅内閣から日本学術会議の新会員となることを拒否された著者六名による問題追及の書。今や内閣は交代し、世間ではこの事件について語る人がずいぶん減ったが、問題の根本はいまだ解決されていない。あのとき何が起きていたのか、そしてなぜ学問が内閣(ひいてはそれを組閣した現与党)から任命拒否という形で警戒されたのか。学問の自由を考えるために重要な一冊。
田中祐介編『無数のひとりが紡ぐ歴史 日記文化から近現代日本を照射する』(文学通信)
中世史を専攻する筆者からすると本当にうらやましい限りなのだが、近現代史の世界にはまだまだ読み解かれていない日記史料が大量に存在する。本書は自らについて書き記す「日記」に焦点を当て、そのダイアローグから歴史を紐解いていく魅力的な本だ。目次を見るに、女性の手による家計簿史料や、「戦場に行かない兵士」の日記を扱った章に特に惹かれる。また、「慰安婦」研究の第一人者である吉見義明へのインタビューが掲載されている点も要チェックだ。
エドウィン・ブラック著『弱者に仕掛けた戦争 アメリカ優生学運動の歴史』(人文書院)
近現代優生学というと、多くの人は真っ先にナチスドイツを想起するだろうし、私もそうだ。だが本書では、優生思想がいかに「アメリカにおいて暴走を始めたのか」を追いかけ、その背景を紐解いている。誰が人に「役立たず」の烙印を押し、誰がそれを支持したのか。税別8000円と決して安くない本だが、列島が優生学の系譜と無関係ではないどころか極めて深く結びついていることが明白である以上、時間とお金をかけて挑戦する価値はじゅうぶんありそうだ。
清水晶子『フェミニズムってなんですか?』(文藝春秋)
ファッション雑誌『VOGUE』web版に掲載された清水晶子の人気連載が待望の書籍化。リーズナブルな価格の新書で「フェミニズムとは何か」という誰もが知っておきたい問いかけに応じてくれるのがうれしい。内容もフェミニズムの歴史から現在のシーンの状況解説、セックスワークや中絶などの重要なトピック、さらにフェミニストたちとの対談まで入っている。「まずはこの一冊から!」と勧められそうな、新しいフェミニズムの入門書だ。
河野真太郎『新しい声を聞くぼくたち』(講談社)
今も重版を続けている人気ポップカルチャー評論『戦う姫、働く少女』(POSSE叢書)と対になるような一冊が誕生した。全体を通じて男性性をテーマとしており、今回も映画や漫画を題材として批評を展開する内容になっている。男性性を語る言葉は近年急激に増えたが、フェミニズムとの接続は今もぎこちないように思われる。『戦う姫〜』で身近な作品からフェミニズムの現在を照射した河野の筆が、今回は何を語るのか、非常に楽しみにしている。
※今回取り上げた書籍について、Twitterのスペースにて高島鈴さんと担当編集がおしゃべりをしています(開催日未定)。wezzyのTwitterアカウントのフォローをよろしくお願いします。
■記事のご意見・ご感想はこちらまでお寄せください。
1 2