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おかしな人(もしくはお説)を行政がお墨付きにしてしまう、アチャー感。しかもその舞台は、学校! 一見いい話風なら、多少おかしい部分があってもいいじゃない? グダグダな感じで教育現場へトンデモが入り込んだ実情が『オカルト化する日本の教育』(原田実著/筑摩書房)では詳しく解説されています。同書で取り上げている物件は、江戸しぐさに親学、大規模な組体操、1/2成人式、誕生学など。
そして今ならきっとここに、有機給食(オーガニック給食)が入りそう。
昨今、SDGsに乗っかって公立学校の給食に有機食材を使うべしという、有機給食(オーガニック給食)推進活動が見られます。市民団体が自治体に働きかけるケースもあれば、自治体が地域のウリにするため積極的に採用することも。
農林水産省がタイアップしたドキュメンタリー映画『いただきます2 ここは発酵の楽園』でも、「オーガニック給食編」なるバージョンが新たに作られ、千葉県木更津市など自治体の主催で上映会が行われています。このドキュメンタリー作品、すでに方々がザワついたのでご存じの方も多いと思われますが、ちょっと……いや、だいぶヤバい。
まず多くの人から「アウト!」とツッコまれたのは、「オーガニックなものを食べれば、アトピーやアレルギーがよくなる」と思わせるような描写があったことです。今どきの真っ当なオーガニック農家は「安全」すらアピールしなくなっているというに、わざわざ根拠なき健康効果を謳うとは、怪しさマシマシ。ツッコミに対して木更津市からは、「オーガニックなものを食べればアレルギーが改善される」という考えを伝える意図はなかったが、オーガニックとアレルギーを混同してしまうような表現、誤解を招く表現があったこと自体にはお詫びする声明文が出されていました。果てしなく「そこじゃない感」。そういう要素があるのをサクッとスルーしちゃう体制が問題なのではってば~。
同映画にはほかにも、西洋医学批判ととれるようなシーンもあり、その点は、思想の偏ったオーガニック界隈が反医療や反ワクチン(ひいてはそれに乗っかるマルチ商法なども)と親和性が高いことをうかがい知る教材としてはナイスだと思いました。実際、反ワクチン医やマルチの広告塔となっている人物と一緒に、講演会※をやっていた「菌ちゃん先生」も、堂々登場していますし。
※2021年8月につくば市で開催された「食が変える!こどもの未来 からだを良くする『食育』と『農業』」。登壇者は国光美佳、本間真二郎、吉田俊道。
慣行農業に対する、お約束のディスり
さてさて、この「菌ちゃん先生」の存在感がすごかった。菌ちゃん先生とは、生ごみから作った堆肥で野菜を育てる「元気野菜づくり」を普及している、有機野菜農家・吉田利通(としみち)氏のこと。
同作品ではオーガニック給食のモデルケースとなっている千葉県いすみ市の取り組みなどが取り上げられていますが、菌ちゃん先生はそうした中に挟み込まれて登場するキーマン的人物たちの中でも、圧倒的にユニークです。
著書『完全版 生ごみ先生が教える「元気野菜づくり」超入門』(東洋経済新報社)には、生ごみを発酵させた堆肥を使って育てた野菜(通称菌ちゃん野菜)こそが、真の健康野菜! そして地球と人を救う! という主張がつづられています。化学肥料を使った現代の野菜は、昔と比べると栄養価も生命力も低い「ひ弱野菜」。室温で放置した野菜を観察すると、市販の野菜は腐り、菌ちゃん野菜は枯れるのもその証拠。何よりも素晴らしいのは、ベランダのプランターでも作れるので食育になるし、菌ちゃん野菜を食べれば微量栄養素がきちんと摂れるので落ち着きのない子、暴力的な子どもも改善していく! 実際、菌ちゃん野菜を給食に取り入れた保育園などでも目覚ましい効果が出た。体験談では「菌ちゃん野菜で癌が消えた」なる報告もあった……とな。
フォーマットでもあるのかな。これらはどれも、慣行農業をディスる際に一通り使われるお約束の主張です。言うなれば、自然派しぐさ。さらに同映画では、こんなオモシロトークもありました(カッコ内は山田ノジルの感想です)。
・土が発酵していると、カラスやイノシシが来ない(マジで~!?)
・発酵した土で育った野菜は土中で菌とつながっているから、自分自身の根っこが少ない(よくわからないけど、植物の根って栄養を吸収するだけでなく、土から出ている部分が倒れないために固定させる役割があるんでないの?)
・虫は弱ったものを食っている。ウジ虫を見るとよくわかる。刺身は食わないが、腐りだしたらバリバリ食べる。つまり虫食いは弱った野菜だということ。腐ったところ、死んだところばっかり食べてくれるから虫はありがたい。ナウシカが言ったとおり。地球をキレイにしてくれている(腐肉食※であるウジ虫を、野菜の話に持ってくるとは大胆~。虫の食性とは一体……)
※腐敗した肉を食物とする食性。ウジのほか、シデムシ、ハゲワシ類、カラス、ハイエナ、タヌキやキツネなどさまざまな生き物が該当する。
どこまで本当なのか、菌ちゃん先生の語りを聞いていると、おひさまふりそそぐ穏やかで健やかな楽園を思い浮かべ……ねーわ! 奇妙な健康法で語られる「パンを水なしで食べられるようになった」とか、「屋外で虫にさされなかったのは、体から毒素が出ている証拠!」とかの、味わい深い体験談は私の大好物ではありますが、これはさすがに自然を都合よく解釈しすぎでは。
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