『NEWニューヨーク』「お笑い芸人がかっこつけるのはかっこわるい」のその先 ぼちぼちテレビ日記

文=西森路代
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5月2日

 『あちこちオードリー』(テレビ東京)は伊集院光と渋谷凪咲がゲスト。渋谷さんは、2018年にR-1ぐらんぷりに出て、三回戦まで行ったのだという。三回戦とは言うが、これは準々決勝で、すごいことだ。

 しかし、渋谷さん自身は「ファンのみなさんてなんでも笑ってくださるけど」「アイドルってほんとに甘やかされて育ってるなって思った」とか、「レギュラーって挑戦と経験と成功が重なっていって」と語る。春日も伊集院も「一回の舞台でいろんなことがわかってすごいな」「芸人はそれ(に気づくのに)10年かかる」と関心しきり。達者な人は、教科書がなくても学ぶことは多いなと実感した。

 渋谷さんが得意な大喜利についても、「昔からめっちゃアホでものごとしらないこと多いんですけど、調べるっていうよりも、自分なりに導き出した答えで生きてきたんですよ」「頭の中で考えるのが好きなんですよ」と言っていて、とにかく、どんな経験をしても、そこから考えることをやめない人って強いんだなと思った。

5月3日

 『1周回って知らない話2時間SP』(日本テレビ系)は広末涼子がゲスト。人気絶頂期のことが紹介された後、清純なイメージが嫌で芸能界をやめたいと思い始め、15キロ太ったりしていたことを知る。確かにあの頃の広末は、世間に反抗するような行動ばかりしていた。

 広末自身も「今は休んだりする女優さんとかがいるけど、それはいいことだと思う」としつつ、その頃はそんな制度はなかったと振り返っていた。当時の広末は突然、妊娠して子育てで2年間、やっと休むことができた。

 子供の頃から知られた芸能人というのは、その子供時代のイメージがひきずられて、いつまでも純真であることを求められてしまうし、そのイメージにつぶれてしまいそうになるものなのかもしれない。広末はその違和感にちゃんと抗っていたんだなと感じる。その抗い方で失敗してしまう人も多い。

 見ていると90年代後半から2000年代はじめのことを思いだした。この前も『夜もヒッパレ』のことで書いたが、やっぱりあの時代は何かが歪だった。

5月5日

 『ダウンタウンDX』(読売テレビ)は、ダウンタウン結成40周年を祝い、当時の仲間たちが集合。なかなか面白く懐かしいエピソードがあったと同時に、その昔、やっていたという、頭でボウリングの球を突いて卓球のようにラリーをするヘッドボウリングというものを見て普通に引いてしまう。Twitterの反応には「今ではコンプラがうるさくてできない。当時はよかったな」的なものも多く、閉口する。当時は本当によかったのだろうか。

 とはいえ、最後に全員で写真を撮っていたのはエモかった。エモかったけれど、これは老後の始まり(いや始まってる)なのだなという感覚もあった。

 『アメトーーク!』(テレビ朝日)の大喜利苦手芸人。大喜利の苦手な芸人と対照的に、MC席には大喜利が得意なバカリズムと笑い飯・西田が。バカリズムさんが、「みなさんが大喜利苦手ってのは知らなかったんだけれど、大喜利の苦手な人は声が大きいですね」というようなことを言っていて、大いに頷いてしまう。

 ただ、大喜利のできない人はかわいらしい。オズワルドの伊藤は、大喜利のフリップボードを見せるときに自らが肩で笑いながら出すというあるあるを言っていて、その自信のなさをどうにか補う様子も愛くるしかった。

 バカリズムさんは、何枚もフリップに回答を用意してその中からいいものを出すこともあるという。「(頭を)動かしているほうがいいんですよ」というその言葉に、めちゃめちゃクレバーな感じが出ていたが、愛くるしくはなかった。

 以前、『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』(ニッポン放送)にバカリズムさんがゲストで出ていたときにも、「自分からはいろんな人を誘うのに人からは誘われない」というようなことを言っていたし、人と話すときも誰にでも敬語で、それが悪いことではないのに、距離感ができてしまう感じがあったが、日本でクレバーな人というのは生きにくいものなのかもしれない。

 番組の途中でバカリズムさんが、大喜利の技術論を語っていたが、もしも大喜利の講座があるならいってみたい。

5月4日

 『NEWニューヨーク』(テレビ朝日)は、ニューヨークが新しい宣材写真を撮るという内容。私もお世話になっている雑誌「VOCE」の協力で撮影していくのだが、事前にいろんな芸人の過去の宣材写真を見て、自分たちのイメージを決めていく。

 それを見ていて思ったのだが、かつて、男性芸人は、「かっこつける」ことを「かっこわるい」と思っていたふしがあると思う。それが次第に「かっこつける」ことを「面白い」ことであると昇華させようとしはじめ、そして今は、「かっこつける」ことを「面白い」にすることすら脱して、「かっこつける」ときは真剣にかっこつければいいんじゃないかとなっているのではないかという気もしてくる。

 ニューヨークは、過去のかっこよさを意識していることをどこか滲までながらかっこつけている(つまり、「かっこつけてるけど、これはわかってやってるんですよと)エクスキューズの感じられる)チュートリアルの宣材写真をみて、「いいと思うけど俺らとはちゃうな」と語り、まったくおもしろを意識していないガチのかっこいいEXITの宣材写真を見てそのままにかっこいいと語っていた。

 まあ、これがいいとかわるいとかにすぐに繋がるわけではないが、芸人が「かっこいい」を嫌っていたことの中には、かっこいい=芸人が女性に消費される、ということを嫌がっていたという歴史はあるとは思うので、それを考えると、そういうものはなくなっているのだなと感じる。

 ニューヨークの撮影風景をずっと見ていると、ポーズや表情がどんどんよくなっていく。何か自我が解放され、澱みたいなものが出ていく感じがして、妙によかった。

 バラエティ番組としてのオチはとろサーモンの久保田がすべて引き受けていた。

5月8日

 『未来へのテンカウント』(テレビ朝日)の一話で、キムタクがボクシング部のコーチをするのに、ひとコマ2500円という報酬に対して意外な顔をする。この意外さを、「そんなに?」というのと「それだけ?」と思うかっていうので、この役の状況が読み取れると思った。この役は「そんなにもらえるの?」というものだと思ったのだが。

 キムタクが「そんなにもらえるの?」と思うほうの役をやっているということは、ちょっと意義があるとは思ったけれど、その後にこのことはそんなに生かされていないかもしれない。

5月10日

 『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』(TBS)のこの回は、「頑張る」とか「頑張らない」とはどういうことか、人に「頑張って」っていうことはどういうことなのかについてやっているのだと思った。

 このドラマの一回目は、恋愛したくない人が恋愛しなきゃって急き立てられるようなことをやるのかと思っていたので、そのときよりはいいものになってるのかなとは思いつつも、なんとなく、テーマに対して、言葉選びがストレートすぎるような気もするし、でも、これくらいじゃないと、伝わらないのかもしれないとも思ってしまった。

 しかし、磯村勇斗という人は『デイジー・ラック』にしても、『恋する妻たち』にしても、同年代の人にはない、しかもこれみよがしでない色っぽさがある。

5月15日

 『相席食堂』(朝日放送テレビ)をTVerで。この日は相席食堂の山添としずるのKAƵMAがそれぞれロケに。噂の名言「クズの皮を被って麒麟の川島を狙ってます」(ノブ)「っていう本当のクズ」(大悟)はここから生まれていたのか!と。すべてが確信犯なんだけど、その確信犯っぷりがクセになる。

 対してKAƵMAは、一言で言えば不器用の権化。武家屋敷を探す途中に、小学生くらいの姉と弟に声をかけるも、警戒されてしまう。質問されても、間が開き、目を右に左に不安そうに動かす姉の顔がリアルすぎて、かわいそうになる(その女の子もKAƵMAも)。

 山添は、飲み屋に入って、女性ふたりと他愛のない会話をはじめ、その一人に、好きなタイプは?とか聞くも、最後はいい感じ(バラエティ的にも)なって終わっていた。なんで一人にだけ聞くのだろうと思って見返したら、最初にふたりの女性に「彼氏いる?」と聞いて、いないほうにだけ話していたのだった。「彼氏いる?」という会話も微妙なのだが、こうしたことを誰にでも聞いているのではない。聞いていいのかどうかを、瞬時に判断しているんだろう。それくらい、山添は察しがいい人だ。

 KAƵMAも別に不審な人ではないのだが、この差はなんなのだと。KAƵMAは『アメトーーク!』でも、準備してきたことで笑わせる人であると言っていた。『相席食堂』でも、最初に現ナマを準備していたが、街中で出会う人との生の会話で、答えるまでに頭の中でぐるぐる考えているのがわかる。対して、山添は考えないでも口から適切な言葉が出てくる。どっちが悪いってことではないが、奇しくも今の芸人界で、同時期に注目されているまったく真逆のふたりがキャスティングされていたのだ。

 私は、山添の確信犯的な感じが面白いとも思うけれど、KAƵMAのダメっぷり(考えているということも含めて)も放っておけない感じがしてくる。芸人界の扱いもそれと同じかそれ以上で、KAƵMAのことを放っておけない人は多いんだなと感じる。

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