ニューヨーク:白人至上主義者が黒人の街で銃撃〜10人を殺害

文=堂本かおる
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写真:AP/アフロ

 5月14日、土曜の午後2時30分(現地時間)。ニューヨーク州の北部、カナダとの国境に位置するバッファロー市のスーパーマーケットにて銃撃事件が起こり、10人が死亡、3人が負傷する大惨事となった。

 犯人は白人至上主義者の18歳。死者の全員、負傷者のうちの1人が黒人だった。犯人は犯行の様子をライブストリーミングしており、SNSに出回った映像には、銃口を向けた相手が白人と気付くと「ソーリー」と謝り、銃を背けたシーンが含まれていた。

 犯行の背景には、近年、人種差別主義者の間に広がった「リプレイスメント・セオリー replacement theory([人種民族の]置き換え理論)」がある。以下、事件の概要と置き換え理論について記す。いずれも5月16日時点の情報であり、以後さらに詳細が報じられると思われる。

※以下、事件の内容に関する暴力的な記述があります。

銃口に「Nワード」

 ニューヨーク州コンクリン在住のペイトン・ジェンドロン(白人、18歳)は、自宅から車で3時間半ほど離れた同州バッファロー市に出向き、同市の黒人地区にあるスーパーマーケットの駐車場に駐車した。

 ジェンドロンは防弾チョッキとカモフラージュ柄のズボンに身を包み、ブッシュマスターXM-15(AR-15)と呼ばれるアサルトライフルを抱え、ヘルメットにはライブストリーム用のカメラを装着していた。アサルトライフルの銃口には白いペイントで「Nワード」が書かれていた。車には別のライフルとショットガンも積まれていた。

 駐車場に停めた車から降りたジェンドロンは即座に銃撃を開始し、駐車場にいた3人が死亡、1人が負傷した。店内に入ったジェンドロンと、元警官の同店警備員が交戦。ジェンドロンは撃たれるも防弾チョッキを着ていたために命拾いし、警備員を射殺。その後、店内で8人を撃ち、入り口に戻ったところで駆け付けた警官隊に無傷で逮捕されている。

10人の犠牲者

犠牲者10人を描いたイラスト。

アーロン・ソルター(55)
スーパーマーケットの警備員。犯人と交戦し、死亡。元警官。

ルース・ウィットフィールド(86)
老人ホームに暮らす夫を見舞った帰りにスーパーに立ち寄り、射殺される。

ロバータ・ドゥルーリー(32)
重病を患った兄のために他地区からバッファローに越してきた女性。夕飯の食材を買いに出掛け、射殺される。

アンドレ・マクニール(53)
3歳になる息子のバースデーケーキを買いに出向き、射殺される。

セレスティン・チェイニー(65)
姉と共にショートケーキのためのイチゴを買いに出掛け、射殺される。姉は無傷。

ヘイワード・パターソン(67)

パール・ヤング(77)

マーガス・モリソン(52)

ジェラルディン・タリー(62)

キャスリーン・メッシー(72)

 3人の負傷者(20, 50, 55)はいずれも命に別状なし。

 いずれも引退したマクドナルドのマネージャー、牧師、地域活動家など、ごく普通の人たちだ。日常生活の一端として行き慣れたスーパーマーケットに出掛け、どこの誰とも知らない者に銃殺された。肌の色のみが理由で。

 残された家族や友人、そしてイースト・バッファローのコミュニティは、この事件をどう受け止めればいいのだろうか。いや、イースト・バッファローだけでなく、全米の黒人地区に住む人たちが憂えている。今日、スーパーマーケットで起こったなら、明日は学校かもしれない、駅かもしれない、映画館かもしれない、私が住む街の。

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