
写真:AP/アフロ
生き残った生徒の一人、サミュエル(10)は父親と共に朝のニュース番組にリモート出演し、事件について語った。犯人は「おまえら全員死ぬんだ」と言い、生徒と教師に向かって銃を撃ち始めたと言う。
女児(11)は撃ち殺された先生の携帯電話から1時間近く911(日本の110番)に通報し続けた。自分の隣で死んでいる友達の血を自らの体に塗り付け、死んだふりをしながら警察に早く来てと懇願を続けた。
ジェイデン(10)も後日の取材に応えている。亡くなった友達の名前を挙げながら途中で諦め、「基本的に全員」と言った。「また同じことが起こるかもしれないから」学校にはもう行きたくないとも言った。
前回の記事に書いたニューヨーク州バッファローの黒人地区にあるスーパーマーケットでの銃乱射事件から、わずか10日後に今回の惨劇は起こった。
ニューヨーク:白人至上主義者が黒人の街で銃撃〜10人を殺害
5月14日、土曜の午後2時30分(現地時間)。ニューヨーク州の北部、カナダとの国境に位置するバッファロー市のスーパーマーケットにて銃撃事件が起こり、1…
事件のタイムライン
(5月29日現在の情報。全ての事実はまだ明らかにされておらず、内容が追加/訂正される可能性があります)
5月24日、テキサス州の西部に位置し、メキシコとの国境にほど近い街、ユヴァルディの小学校で乱射事件が起きた。人口1.5万人、住人の8割近くがラティーノの小さな街だ。犯人のサルヴァドール・ラモス(18)は自宅で祖母を撃って負傷させた後に車で地元の小学校に向かった。
学校の近くで車が窪みにはまったため、犯人は車から降りている。そこで犯人はそばにある葬儀場から出てきた2人を撃つも当たらず。犯人は小学校のフェンスをよじ登り、乗り越える。
11:33am、犯人は校舎の裏口のドアから校内に侵入。学年度最後の日であることから4年生2クラスが合同でディズニー映画『リロ&スティッチ』を観ていた教室に入り、教師と生徒に向かってアサルトライフルで100発以上発砲。犯人は教室のドアを内側からロックしていた。
犯人の校舎侵入の2分後には3人の地元警官が校舎に入っている(葬儀場前で撃たれた人物の通報によると思われる)。以後、徐々に警官や国境警備隊員などが駆け付け、最終的に計19人が校内の廊下に待機。
犯人侵入の10分後にSNSにて学校のロックダウンが告知されたため、生徒の保護者が学校に集まり始める。いつまで経っても校舎に突入しない警官たちに保護者は苛立ち、事態を恐れ、「子供を救え!」「校内に突入しろ!」など、懇願または叫び始める。捜査妨害だとして警官に押さえ付けられ、手錠を掛けられた保護者もあった。
Here’s a longer version of the chaos outside Uvalde Elementary. While parents were trying to get to their kids. From the RobbsElementarySchool shooting on Tuesday.#Uvalde #RobbElementaryschool #SalvadorRamos pic.twitter.com/IG8Hj4IKx2
— TheFamily’sSoup TV (@FamilysSoupTV) May 27, 2022
学校の前で警官に「校内に突入しろ」と泣き叫ぶ親たち
犯人侵入の30分後に生徒が携帯電話で警察に通報開始。教室内の状況、警官に早く来て、などのメッセージを送る。
犯人侵入から78分後の12:50pm、国境警備隊員が学校の用務員から借りた鍵で教室のドアを開け、犯人を射殺。
事件当日のテキサス州知事アボットの説明は辻褄の合わない部分が多く、ジャーナリストから厳しい追及を受けている。銃擁護論者のアボットは「シカゴは銃規制が厳しいにもかかわらずテキサスより銃事件が多い。LA, NYもそうだ」など他州の他都市を引き合いに出して自己擁護を行ない、テキサス州の司法長官は「教員の武装」を語った。
事件3日後の28日にようやく警察の対応の詳細が発表された。当初の情報に誤りがあったこと、犯人が射殺されるまで「78分」もかかったことが今、さらに厳しく批判されている。警察がドアを打ち破るための破城槌(はじょうつい)を持っておらず、用務員から鍵を借りなければならなかったことも大きな衝撃となっている。翌日、米国司法省は警察の対応を捜査すると発表した。
事件の3日後に銃擁護の演説をしたトランプ
同じ28日から3日間、テキサス州ヒューストンでは予定通り、NRA(全米ライフル協会)の年次総会が開かれた。NRAは非常に強固な銃の擁護団体であり、同時にアメリカの二大政党制の副産物的な立ち位置にもある。銃の使用法を教えるなどしていた創設初期と異なり、現在のNRAは銃規制に徹底的に対抗し、銃の所持をアメリカにおける「フリーダム」の象徴とみなす団体だ。会員の多くは共和党支持者。
今、NRA年次総会の公式ウエブサイトのトップページには今回の事件についてのメッセージが掲載されており、「first responders に敬意を表す」とある。first responders とは事件/事故/天災などの際に「最初に駆け付ける人々」、つまり警察/消防/救急などを指す。今回、警察の対応が厳しく批判されているにもかかわらず、銃所持者である警官たちを遠回しに賞賛しているのだ。また、「単独で狂った犯罪者の行為」とも書かれている。銃擁護者の決まり文句「銃は人を殺さない。人が人を殺すのだ」の言い換えである。
21人が惨殺された小学校での事件からわずか3日後に、同じ州内で開催された銃擁護団体の一大大会とあって、会場前には犠牲者の写真を抱えた子供たちが銃規制を求めて立ちはだかった。犯人は同州の銃法に則り、18歳の誕生日の翌日に大型銃を購入していたのだ。こうした空気に銃擁護派のアボット州知事は出席を控え、録画出演とせざるを得なかった。しかし、元大統領のドナルド・トランプ、テキサス州選出の上院議員テッド・クルーズ、サウスダコタ州知事クリスティ・ノエムなど、2024大統領選への立候補が噂されている共和党の政治家たちは予定通りに出席し、演説を行っている。銃の擁護、銃規制への反対が得票につながると信じているのだ。
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