テキサス州の小学校で乱射~消えた21人の命と銃規制法

文=堂本かおる
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難航する銃規制法

 アメリカでは昨年だけでも700件近い乱射事件が起きている。そのうち日本でも報道されるのは死者数の多い事件、子供が犠牲となる学校での乱射事件だ。中でも多くの人の記憶に残っているのが2018年フロリダ州の高校(死者17人)、2012年コネティカット州の小学校(死者26人)での事件だろう。今回の事件も小学校で起きたことから、米国ではコネチカット州サンディフック小学校事件のフラッシュバックが起きている

 サンディフック小学校での乱射事件が起きたのは、今から10年前となる2012年のクリスマス直前の時期だった。1年生20人と教職員6人が亡くなっている。この時も犯人(20)は自宅で母親を射殺してから小学校に出向いて乱射し、警官に射殺されている。

 犠牲者が6~7歳と幼かったこと、裕福な白人地区であったことなどが重なり、事件後に今度こそ銃規制法が成立するのではないかと期待されたが、共和党の反対により為せなかった。加えて、この事件は「銃の保持を保証する米国憲法修正第2条に反対する者によるヤラセ」であり、「犠牲者は他所で生きている」とする陰謀論が流布した。デマを煽動した極右の著名ラジオ・パーソナリティは犠牲となった子供の親たちから訴えられ、訴訟費用により今年4月に破産している。

 アメリカで延々と争われている銃規制法だが、主な項目に「乱射事件で多用される大型銃AR-15の規制」「銃購入時の犯罪歴/精神疾患歴のチェック」「銃購入の年齢」がある。AR-15は軍用銃M-16の民間販売用バージョンであり、一般人がこれほど強力な銃を持つ必要性はない。この銃を18歳になった途端に、犯罪歴/精神疾患歴のチェックもなく、または甘いチェックで購入できる仕組みも常識では考えられない。しかし、それがまかり通っているのが現在のアメリカだ。

 ただし銃法は州によって異なり、ニューヨーク州はテキサス州などより格段に厳しい法を持つ。今、そのニューヨーク州の銃法が緩められる危機に瀕している。同州では銃の所持に許可証が要り、持ち歩くには別の許可証が必要となるが、一般市民が携帯許可証を得るのは実質的にほぼ不可能となっている。これを違憲とする訴えがなされており、米国最高裁はこの夏にも裁定を出すとされている。

 ちなみにテキサス州での事件直後、ニューヨーク市内では高校生が学校のコンピューターで銃の購入方法を検索しているところを見咎められたり(同州では未成年の購入は不可)、アリーナ会場でのボクシング試合中に大きな音がしたために観客が銃声と思い混乱状態になるなどしている(観戦していた大坂なおみ選手もカオス振りをツイートしている)。

ブルックリンにあるバークレイズ・センターで逃げ惑う観客たち

大統領と最高裁判事の関係

 アメリカにおける銃の問題は銃を自由に持てるか否かだけでなく、政治的に非常に大きな意味が加えられている。銃を持つ権利があってこそのアメリカ、銃はアメリカの自由の象徴だと考える保守派と、銃による犯罪/事故/自殺を減らすために規制を望むリベラルの間に大きな溝があり、共和党と民主党の対立構造に直結している。

 ここで問題となるのが、先にも出てきた最高裁だ。ニューヨーク州の銃法と同じく中絶問題もじきに裁定が出されるが、他にも移民問題、環境問題など最高裁は米国の方向性を定めていく。そのメンバーである9人の判事に欠員が出ると指名するのは大統領だ。大統領の任期は最長でも2期8年だが最高裁判事は終身制。50代で任命される判事が多く、従ってその影響力は少なくとも30年程度続く。

 現在、最高裁の判事は保守派6人、リベラル3人の構成になっており、保守に大きく傾いている。オバマ大統領の任期後期に判事が急死した際、共和党はオバマ大統領による判事指名を無視し、数カ月後に当選したトランプに指名させた。にもかかわらず、トランプの任期終了前に欠員が出た際には大急ぎでトランプに指名させた。トランプが指名した判事の中にはレイプ疑惑のある者もいる。これらの結果が現在の判事の偏りだ。共和党の上層部はトランプの大統領としての能力を評価はしておらず、しかし保守派判事を指名させることでアメリカを保守化できることからトランプを支持し続けた。

 ニューヨーク州での銃の携帯法に話を戻すと、4月にニューヨーク市内の地下鉄で10人が撃たれる事件(死亡者なし)が起き、続いて5月に同州バッファローで10人が射殺される事件が起きた。そこへ他州ではあるが、テキサス州の小学校で19人もの子供が殺される事件が起きた。一連の事件が最高裁の裁定に影響を与えるかが注目されている。

プロ・アスリートの政治的アンチ銃メッセージ

 今回の事件に際し、プロ・スポーツ界が大きく反応している。

 NBAゴールデンステート・ウォリアーズの監督スティーヴ・カーは、事件当日の記者会見にて相次ぐ乱射事件への怒りを表した。銃規制法に反対票を投じる共和党のリーダーを名指しで批判する厳しい内容だった。カー監督の父親は監督が18歳の時に銃で頭部を撃たれて亡くなっており、監督は非常に辛い青年期を送っている。

「もううんざりだ」相次ぐ乱射事件に、NBAウォーリアーズのカー監督が怒りを爆発

 ニューヨーク・ヤンキースとライバルのタンパ・ベイ・レイズはツイッター公式アカウントにて「2020年アメリカの子供とティーンの死因の一位は銃による」など、銃被害にまつわるデータを20連投した。

 同じくプロ野球のサンフランシスコ・ジャイアンツのゲイブ・ケイプラー監督は、試合前の国歌斉唱時にグラウンドに出ないことを発表した。

 これらは犠牲者への哀悼であるだけでなく、現在の銃規制法の在り方に強く抗議する社会的/政治的なメッセージだ。保守派/銃擁護派のスポーツ・ファンからの強い反感を招くことは承知の上でのアクションであり、そこに一縷の望みが見える。アメリカの銃規制法は変えねばならない。
(堂本かおる)

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