昔ながらの養蚕を知る貴重な機会
生糸をとるためにカイコを育てる「養蚕(ようさん)」は、かつては国家をあげて取り組んでいた一大産業でしたが、生活の変化や化学繊維の台頭によって、現在は数えるほどの農家しか手がけていないのが現状です。そのため、養蚕のための道具や建物は文化財として残されているものの、リアルに使われている現場を見る機会は、なかなかないでしょう。
ですから、このように昔ながらの道具でカイコにマユを作らせている展示は大変貴重なものだと言えます。そんな事情を知らない子どもからの感想は「シロ(※2)ってすごいんだね~」という軽~いものでしたが「目的があって飼っている」ということは、伝わったよう。
※2娘はカイコをこう呼んでいる。

上へ登っていくカイコの習性を利用した「回転まぶし」。上のマス目に作られたマユの重みでまぶしが自動的に回り、空いたマス目が上に配置され、最終的に全てのマス目にまんべんなくマユを作らせることができるというしかけです。

幼虫がうっすら透ける作りかけのマユは、いつ見ても神秘的。
糸繰り&はた織り体験も楽しい
さて「カワイイだけじゃないカイコの働き」で、目で見てわかるものではやっぱり「糸」。自宅で飼育したときは観察目的だったので成虫までを見届けましたが、本来の目的はマユを茹で糸を引き出し、そこから布を作ること。糸から布へ。そこを理解してもらうため、さあ、織り姫になってもらおうじゃありませんか。
踏み木を足で動かしつつ、横糸を巻き付けたシャトルを滑らせるのを見ながら「しくみが分からん!」と、またもや盛り上がる編集&私。昭和の初めころまで、養蚕農家ではこうした機械で家族の着物をつくるための布を織っていたというのだから、2~3代で生活も文化もがらりと変わるものです。機織で感じる、諸行無常。

機織り体験(小学生以上が対象)ではひとり2往復、横糸を通して織る作業ができます。
娘は展示もそこそこ楽しめていたものの、やはり手を動かす作業はダンチなようで、機織りを夏休みの自由研究にもできそうな勢いの食いつきでした。「布ってこうやって作るんだね~」と、それっぽいことも言ってくれる嬉しさ。
これからの夏休みシーズンにはカイコの飼育数も増え、見どころがさらに増えていくそう。それを聞いた娘も「また8月に来る!」と高らかに宣言。カワイイだけじゃないカイコの行く先を、それなりに面白いと感じてくれたようです。ちなみにマユから糸を引き出す体験も予約不要で行われていますので、時間に余裕がある方はぜひ。

ネクタイ1本、着物一式、ブラウス一枚はマユが何個あれば作れるのか? という展示。答えは球体に入っているマユの数! ネクタイ一本に140粒、着物一式に9000粒必要なのです。美しく恐ろしき、シルクの世界。
夏休みのお出かけ先にぴったり!
後日。本当にたまたま、七五三の貸し衣装を選びに行く予定がありました。予約していたのは、アンティーク着物専門店。ズラリと並ぶ数々の着物は、戦前や戦後、おそらく養蚕が盛んであった時代に織られたもので、さぞかし由緒正しいお宅のお嬢様に仕立てたものなのでしょうね~という豪華なものばかり。

絞りの生地も刺繍の糸も、もちろん絹(シルク)。節目の祝いを彩ってくれる、カイコの働きに感謝。※試着なので、着物も帯もあくまでざっくりの着つけです。
それらを試着させてもらっている娘の姿を、林家パー子のごとく勢いでカメラに収め続ける私に、娘はこんなことをポツリとつぶやいていました。「これ、シロ何匹分かな」。身の周りのものから感じる、生き物の働き。数ヶ月たったら忘れる予感もありますが、ひとまず今回の目的は達成できたかな、と思われます。
こうした教育効果を期待せずとも、シルク博物館は横浜へ遊びに行くついでにフラッと立ち寄るだけでも気軽に楽しめるスポットです。横浜中華街も歩いてすぐ! 夏休みのお出かけ先におすすめです。
information
シルク博物館
WEB: https://www.silkcenter-kbkk.jp/museum/
住所/横浜市中区山下町1番地 (シルクセンター2階)
TEL/045-641-0841
開館時間/9:30 ~ 17:00 ※入館は 16:30 まで。月曜休館(月曜祝日の場合は翌日)
料金/大人500円、シニア(65歳以上)&大学生300円、高校生・小中学生100円
<夏休み企画>小学生のための「かいこ教室」開催 ※事前予約制
開催:7月30日(土)〜8月14日(日)
予約:7月16日(土)から
かいこの生態や体のつくり、まゆや生糸の特徴など「かいこからシルクまで」を1日で楽しく学べます。各体験で完成させたワークシートや作品は、夏休みの自由研究にも使えます。
詳しくは以下サイトで確認してください。
https://www.silkcenter-kbkk.jp/museum/2022kaikokyoushitu/
(おまけ)

博物館スタッフが個人的に作ったというプラバンのアクセサリーにも、カイコ愛を感じる。

マユで作ったすだれを発見。スルーしてしまいそうなところにも、隙間なくカイコを盛り込んでくるのがたまらない。

織り方や草木染の展示は、デザインの色見本を見ているような楽しさ。カイコから広がっていく、美の世界。