台湾の戦後と恐怖を再訪する ホラーゲーム『返校 -Detention-』をやってみた

文=近藤銀河
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同性の姿から逃げながら

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 ゲームには気になる点もある。

 それは主人公レイに関するドラマであり、なぜ彼女が密告をしたのか?という動機にまつわるものだ。プレイしていくと主人公の周りの人間関係がわかってくる。ここで重要になってくるのは生徒指導を行う教師のチャンだ。

 レイは彼に想いを寄せていて、彼もそれに応えてしまっていた。ゲームでの二人のデートの場面は他の場面とは際立ってカラフルに描かれていて、それはレイにとっての外の世界を象徴するものでもある。

 だが二人の関係はチャンと共に読書会を主催していたインが、この関係の不道徳さを指摘をしたことでチャンが関係を断つことを決意し破綻に至る。そしてレイは二人がこのやりとりをしていた瞬間をこっそりと目撃してしまっていた。レイはインとチャンの関係が恋愛関係にあると誤解し、二人が生徒を集め主催している読書会について調べ始め、最後には感情のやり場をなくしこの読書会を密告するに至ってしまう。

 ゲームでは教師であるチャンと生徒のレイの関係が自由を奪われたことの象徴としても扱われる。そしてエンディングの一つでは、この関係をもう一度来世でも望むことが主人公の自主性の回復となり、浄化に至る。

 だがこの関係が自由と自主性の象徴となるのは難しいのではないか、と思ってしまう。大人と子供云々というのはゲーム中でもインによって指摘されている事であって、改めて指摘するのも奇妙な気もするが、やはりチャンは職権を濫用し職分を逸脱しているようにしか見えない。

 現代的な倫理観に照らし合わせても間違っているとされることを象徴的に扱うのは、現代もまた抑圧の時代と地続きであることを示したかったからなのだろうか? それにしても題材としてはあまりふさわしいとは言えないだろう。

 そもそもゲーム内でも異性愛を過剰に読み込むことが、友情の理解を妨げこの悲劇を呼び寄せたことが示される。インとチャンの関係を読書会を開く仲間ではなく恋愛関係だと、レイが誤解したことがこの悲劇の発端の一つでもあった。

 学業でも優秀な成績を収めていたレイにとって、同性のロールモデルとなれる存在がインだったはずだ。しかし、異性愛的な読みの過剰さによってレイはこの導き手を遠ざけてしまった。このことが明確に描写されている中で、レイとチャンのロマンスがなにかの解放につながるという物語は落ち着かない。

 レイの感じる抑圧の中には女性としての将来像の不確かさというものもあったはずだ。その緊張の中で圧縮された思念はどこへいくのだろうか? 今も解放されないまま地獄のような世界を彷徨っているのだろうか?

 『返校 -Detention-』は現実と恐ろしい世界を行き来するように、社会と個人、歴史と今を行き来する。そしてタイトルのDetentionとは拘留を意味する言葉だ。これはレイの魂が学校に繋ぎ止められ、そしてウェイが刑務所に閉じ込められていたことの二つを意味する。果たしてなにがどのように、なぜ拘留されていたのか。

 ゲームから受け取り、体験した手紙を読みながら、そのことを自分の延長線上に調べ考えていく必要がある。

これからプレイする人向けのポイント解説

・Switch、PS4/PS5、Xbox、PC、Android、iOSで配信中!
・本当にものすごくとても怖い。突然びっくりさせてくるような、いわゆるジャンプスケアも多め。
・手前に扉があるときがあって、ちょっと見つけにくい。手前側が明るくなってる場所には扉がある。近づく扉マークが出てくるので注意して見て!
・謎解き要素が多い。基本的にある場所で見つけたものを違う場所で使うという単純な謎解きだけど思いつかなくて詰まることも。分からないときは攻略を検索しちゃうのもアリ!
・息を止めれば幽霊には見つからない。息を止めながら移動してすり抜けよう。提灯を持った幽霊は息を止めて、反対方向を向いてやり過ごす。
・エンディングはマルチエンドになっていて選択肢によってバッドエンドやトゥルーエンドがあるのでクリア後はぜひ攻略をみてプレイしなおしてみて!
・ドラマ版や小説版、映画版などのメディアミックスもある(残念ながら筆者はすべて未確認)。
・『怪異と遊ぶ』(怪異怪談研究会監修、一柳 廣孝・大道 晴香編著、青弓社、2022)収録の橋迫瑞穂「怪異と「遊ぶ」装置――『トワイライトシンドローム』を手がかりに」は本作にも影響を与えた『トワイライトシンドローム』を分析する論考。本作をプレイするうえでも参考になるのでぜひ。
・本作から台湾文学に入るのもオススメ。冒頭で紹介した胡淑雯の『太陽の血は黒い』以外にも、白先勇のゲイ小説『孽子』など台湾の戒厳令下を描いた作品があります。

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