【最終回】「虫たちとの触れ合いは、子育てに何をもたらすのか?」をゆる~く考えた

文=ムシモアゼルギリコ
【この記事のキーワード】

【最終回】「虫たちとの触れ合いは、子育てに何をもたらすのか?」をゆる~く考えたの画像1

 子供との生活の中で、触れ合う虫のアレコレについて書いてきた当連載も、今回で最終回。乳児期から7歳となる現在まで「虫好きではないけれど嫌がるでもない」という中立な態度を貫いてきた娘を見つめながら改めて、虫との触れ合いは子供に何をもたらしてくれるのかを考えてみました。

「虫採りの効果」がちょっと嫌

 娘が5歳のとき、毎晩『アルプスの少女ハイジ』を1話ずつ観ていました。1974年に放映された、カルピスまんが劇場のヤツです。自分が子供の頃はヤギのユキちゃんやヨーゼフとの可愛らしい交流に目を奪われていましたが、大人になって改めて観ると、こんな自然崇拝作品だったか! とのけぞりました。一番驚いたのは、ペーターが崖からアレするシーンが削除されていたことですけど(蛇足だ)。

 アニメのハイジで描かれていたのは、「子供は自然と触れ合って育つべき」という価値観です。それは多分、今の日本でも同じで、文部科学省の教育指針あたりに自然と触れ合うべし、自然を愛するべしという項目が入っているでしょう。そこに異論はありません。しかし、です。子育て本で謳われるような「虫採りの効果」がちょっと嫌。それは、こんな調子だからです。

「虫採りをすると、頭が良くなる」
「虫採りをすると、クリエイティブな感覚が養われる」
「虫採りをすると、健全な心が育つ」
「虫採りをすると、命の大切さを学べる」。

 虫採りの効果は後付け、もしくはこじつけである部分も多いでしょうし、「東大に入る子どもはコレをやっていた!」みたいに「親の欲望」を子供に押し付けているような気がしてならないからです。

生きるための知恵を学ぶために

【最終回】「虫たちとの触れ合いは、子育てに何をもたらすのか?」をゆる~く考えたの画像2

生き物が大人になるまで』(稲垣栄洋、大和書房)

 子育てと生き物について書かれたもので、逆にとても納得できたのは『生き物が大人になるまで』(稲垣栄洋、大和書房)でした。虫などの生き物と比べ、ほ乳類が大人になる過程について、おおよそ次のように解説されています。

 子供の遊びは、生きるための知恵を学ぶこと。親が守ってくれる環境で経験を活かし、知能を発達させてきたこと。体験は思い出のためではない。経験を積み重ねた蓄積が、子供の知能を創り上げること。記号化できない感覚を認識するには、五感が必要であること。

「よりよい子供を育てるため」ではなく、「生き物として成長のため大切なこと」という説明が、腑に落ちました。ヒト以外の生き物で、大人のために生きる子どもはいないというのもすごくいい。

 私が娘と虫を楽しむたびに、実感してきたのは、こんなことです。ヒトとはかけはなれた生態や造作に自然の凄みを感じること。虫の暮らしから、四季がより色濃く感じられること。思っている以上に身の周りに存在していて、親しみやすいこと。

 社会的な面では、予想通り虫嫌いな子供がたくさんいること。一緒に遊んでいても、虫や小動物を「怖い! 汚い! 気持悪い!」と騒ぐ子が多いのは、親の影響も大きいでしょう。好きなものにせよ嫌いなものにせよ、子供への価値観の刷り込みには気を付けようと思う毎日です。

子供の虫エピソードは最高!

 当連載で過去に紹介した実話絵本『虫ガール』でも描かれていましたが、「虫好きは変わり者」「虫が好きな女はおかしい」という社会からの偏見や圧力は確かに存在していて、実に鬱陶しい。

 子供が先々好きなものを選ぶとき、「好感度」などの雑音は消し、本当に自分の好きなものを選んで欲しいと思うのが親心。社会的に嫌われがちな虫と親しむことで、そうした意識を徐々に身につけてもらえれば喜ばしいことこの上なしです。

 そうしたまじめな話は横に置いても、子供の虫エピソードは、単純に最高です。虫を見ると、つい追いかけちゃう本能。アリを口に入れちゃう野生。ポケットぎっしりのダンゴムシ(しかも、それを洗濯する悲劇)。カマキリの繭を引き出しに入れたのを忘れて春に孵化して部屋中で跳ね回る無数のベビーと親の悲鳴。家の中に放たれ、大合唱するセミ(漫画『よつばと!』でもありましたね)。カマキリと蝶をひとつの虫かごに入れてしまった結果の凍り付いた空気。

 虫の立場で考えれば迷惑でしかありませんが、こんなエネルギッシュな出来事、虫以外の生き物で発生するでしょうか。時に大人もしでかしますが、子供がやらかすオモシロさは格別です。

 娘があつ森にハマり、虫の名前を次々覚えているというエピソードも過去に書きましたが、あれは捕まえるのが簡単すぎて、トライ&エラーがないのが物足りないですね。トライ&エラー、そして成功! という楽しさを、ぜひリアルで味わってもらいたいものです。

子供時代を急がず過ごしてほしい

【最終回】「虫たちとの触れ合いは、子育てに何をもたらすのか?」をゆる~く考えたの画像3

 さて最終回ということで、「虫×子育て」について思うことをあれこれ書き散らしてしまいましたが、これからも娘の子供時間はまだまだ続きます。

 『生き物が大人になるまで』では、イノコヅチという植物が、身を守るためにイモムシを早く成長させてしまう成分を含んでいることが紹介されています。イノコヅチをエサに育ったイモムシは十分に食べないうちに大人になってしまうので体が小さく、卵を産む力がないのだとか。ヒトに置き換えて考えた場合、この生態からは栄養面の教訓も得られそうですが、同書で示唆されているのは心の問題。私たちヒトも、急ぐことなくしっかりゆっくりと子供時代を過ごしましょうということです。

 そんなメッセージを心に刻み、今後も親子で虫と自然をのんびり楽しむような時間をたっぷり味わって行きたいと思います。また、別視点からの「虫ばなし」もお届けする機会があれば幸いです。

 それでは皆様、楽しい虫生活を! いよいよ夏本番、虫のハイシーズンが始まります。

「【最終回】「虫たちとの触れ合いは、子育てに何をもたらすのか?」をゆる~く考えた」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。