私は、その後も何度かXジェンダーの当事者会に参加するようになっていた。相変わらず多くの当事者たちの言葉にあまり共感できなかったが、女性扱いをされない空間はやはり居心地がよかった。
そんななか、男性から女性へ戸籍変更したBさんと出会った。性別移行に関わるあらゆる治療と手続きを済ませて「完全な女性」になったはずだが、Xジェンダーを名乗っていたのだ。
日本では、戸籍の性別を変えるには「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」※が求められる。だが、性別違和を抱えていたとしても、誰もが生殖腺の切除をしているわけではない。私が知り合うのはXジェンダーの人が多いというのもあるだろうが、戸籍変更までしている人は多くはなかった。
※https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_23/index.html
そんな思いまでして女性になったのに、なぜ?
「そこまでやりきらないと自分がXジェンダーだと気づけなかっただけ。そういう性格なんだ」
会話を重ねてもマスメディアで見るような、わかりやすい「そりゃあ、性別移行してもしゃーないわ!」な話はぜんぜん出てこない。私と同じくらい、どこかぼんやりした理由ばかり。
納得できない私はさらに食い下がったが、ひざを打つような言葉は返ってこなかった。ただ、後悔を含んだような、あきらめたような、複雑な声色だった。目の前にいるBさんが、人生を迷いながら歩む、私と同じ「普通」の人にしか思えなかった。業を煮やした私は、答えようのない問いをしてしまった。
「あなたから見て、私の違和感はニセモノ?」
Bさんは、少し困ったような顔で答えた。
「それが、あなたの性格なんだよ」
最後の最後まで、LGBT当事者と自分自身の境界線を見つけることはできなかった。男性か女性か、ニセモノかホンモノか。どう生きるのかはあなた次第だと、言われた気がした。