私の違和はニセモノなのか。性別違和をもつ当事者との対話

文=佐倉イオリ
【この記事のキーワード】

FtMとして生きるか、子どもを産むか。

 それはヒゲ面の男性が、臨月になったお腹を出し、微笑むもの。加工写真やフィクションかとも思ったが、そうではなかった。ホルモン治療を受けたトランス男性(FtM)が男性パートナーとのあいだに子どもを授かるという、海外の事例を紹介した記事だった。

 私は漠然と、一度ホルモン投与などの治療を受けてしまえば自分の子どもを授かることはないと思っていた。ジェンダー・アイデンティティに従って生きることと、好きな人とのあいだに子どもを授かることは、二者択一だと考えていたわけだ。

 それはただの偏見かもしれない、と気づくとともに、「どちらもあきらめない生き方があるかも」と希望が湧いた瞬間だった。

生殖機能は回復する

 性同一性障害の治療である性ホルモンの投与は、人工的に思春期の第二次性徴期を起こすようなものだ。中学時代を思い出してもらいたい。体毛が濃くなる人もいれば、たいして変わらない人もいただろう。治療の効果も個人差が大きく、思うように性別移行できない人もいる。ホルモン治療をストップすることで元に戻るものもあれば、声変わりや乳房の膨らみなど、一度変化すると元に戻らないものもあるそうだ。

 しかし、妊娠機能は違う。FtMの場合、ホルモン治療をやめれば、機能は回復するらしいのだ。それどころか、治療中(男性ホルモンを投与中)でも妊娠することがあるという。

 見つけた写真は外国の人のものばかりだったが、きっと日本にもいるはずだ。私は躍起になって探し、日本、関東圏にFtMで子どもがほしい人がいるとわかってきた。

 「あの人なら、わかるかも」「彼なら、答えてくれるかも」と幾度かの紹介を経て、Cさんという、匿名のSNSアカウントにたどり着いた。DMを送ると、会って話を聞かせてくれるという。

連載「性別をめぐる旅」一覧ページはこちら

1 2 3

「私の違和はニセモノなのか。性別違和をもつ当事者との対話」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。