ポリティカル・コレクトネスはなぜ必要か~セサミプレイスと国土交通省

文=堂本かおる
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差別を防ぐトレーニング

 もっとも、差別言動が許されない最大の理由は、差別が相手を傷付けるからだ。したがって差別が起こる前に予防策としての「訓練」を行う必要がある。どんな言動が偏見に基づいており、差別となるかを教えるのだ。この際にポイントとなるのが、無意識の差別言動だ。自分が差別主義者であると自覚し、差別主義者グループに属しているような人間は最初から排除できる。しかし自分を常識的な一般人であり、差別意識など持たないと信じている多数派こそが、一見些細な差別言動を無意識に繰り返す。

 例えば、オバマ元大統領は最初の大統領選中に対立候補者から「初の明晰で、聡明で、クリーンで、ハンサムな主流派のアフリカン・アメリカン」と “賞賛” された。「黒人は明晰でもクリーンでもない」という偏見に基づいた上でのほめ言葉であり、発言者はその差別意識にまったく気付いていなかった。他方、差別を受けた側にとっては抗議し辛く、しかし生涯忘れられない差別体験の典型だ。ちなみに発言者は、後にオバマ大統領から副大統領として全幅の信頼を得たジョー・バイデン現大統領である。この件はメディアを通して批判され、バイデンは学んだのである。

 今回のセサミプレイスでの出来事では、ロジータに無視された少女たちはまだ6歳ゆえに「私たちは黒人だから差別された」とは思っていないだろう。夏休みに連れて行ってもらったテーマパークが楽しく、ワクワクし、そこへお馴染みのキャラクターがやって来たから「ハグしたい!」と思いっきり腕を伸ばしたのに、ロジータは相手にしてくれなかった。番組ではあれほどフレンドリーなロジータなのに「なぜ?」「ショック」「悲しい」に加え、「自分が何か悪いことしたの?」といった不安が交錯したことと思う。

 マイノリティの子供たちは人種差別を社会的な意味合いで理解する前に、かつ自分の感情を言語化できる年齢となる前に、こうした差別体験をしてしまうことがある。成長と共に差別体験を繰り返し、やがて社会の大きな偏りを知る。無残なことに、その中から警察暴力の犠牲になる若者も出てしまう。だからこそ少女の両親は立ち上がって声を上げ、警察暴力専門と思われていたクランプ弁護士も参加を決めたのだ。

国土交通省〜講師は男性のみ

 ポリティカル・コレクトネスが必要なのは人種問題だけではない。セサミプレイスでの一件の3日後、日本では国土交通省主宰のオンライン・スクールの告知が問題視された。「都市を創生する公務員アーバニストスクール」と称し、9月から半年ほどの間に総勢25名の講師によるレクチャーを無料で受講できるものだが、講師の全員が男性なのだ。

国土交通省主宰オンライン・スクールの告知

 スクールの告知文には「人中心の居心地が良く豊かなまちを実現」「『つかう』視点」などと書かれており、人口の半分を占める女性を抜きにしてこうしたテーマを教授する矛盾さを指摘する声が多数あった。

 そうした批判に対し、国土交通省は「女性講師は日程等の都合がつかなかった」と釈明している。これに対しても「各講師1回限りのレクチャーに女性は1人も都合がつかなかったのか」と、呆れ切ったコメントがついている。

 この件は国土交通省の職員、おそらく企画に関わっているであろう広告代理店の社員が女性に対するポリティカル・コレクトネスを意に介していなかったために起こったのだと言える。個々の担当者が女性登用の重要性を理解していなくとも、「男性のみでは社会的に批判される」と認識していれば、少なくとも今回の件は避けられた。

 そもそも論で言えば政府の省庁は率先してマイノリティを登用する意義と必要性を知っておかなければならない。それが民間企業のロールモデルになり得るからだ。各専門分野での能力に性別や人種などは関係ないことも理解しておかなければならない。こうしたことを認識できない職員ばかりである以上、やはり「訓練」は必要だ。問題は、トップまで込みで丸ごと不自覚・不認識な団体である以上、誰がポリティカル・コレクトネスと訓練の必要性を進言するか、だ。少なくとも米国ではセサミプレイスがSNS発祥の批判→大手メディアの報道により訓練を行うと約束させられている。

 最初に書いたように日本ではポリティカル・コレクトネスの本来の意味を矮小化した「ポリコレ不要論」や、さらにはマジョリティを “叩き”、逆に差別するための「ポリコレ棒」だとして批判する声がある。被差別側からの「差別を止めて」「私たちにも同等の権利を」の声と、それを実現するための仕組みにここまで動転する人々の精神的な不安定さ、拠り所の無さは何に由来するのだろうか。

 国土交通省のこの件についてのツイートは、「頂いたご意見を真摯に受け止め今後の取組に生かしてまいります」の後、更新されていない。
(堂本かおる)

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