冷えとりからはじまり、婦人科系トンデモの闇を見るー7年の潮流をふり返る

文=山田ノジル
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 7年間お付き合いいただきました連載「スピリチュアル百鬼夜行」、この前後編で最終回を迎えることとなりました。今年に入ってすぐ、掲載媒体であるWEZZYより動画中心のコンテンツへと舵を切る方向転換の意向を聞いていたため、ポツポツと準備をしてきましたが、いよいよこの秋をもってひと区切り。来月からは、別の媒体で新連載が始まります。謎物件ウォッチは続くよどこまでも。

 連載が始まったのは2014年。当初の掲載は「messy」という姉妹媒体でした。WEZZYと比べると性的なテーマの記事も広告も多く、関係者や読者からは「エロ広告表示されるのなんとかしろ」的なお叱りもたびたび。しかし運営元である版元・サイゾーは、そもそもがゴシップメディアでありまして……。個人的にはむしろそれが、エネルギッシュかつカオスで大好きでした。

 その後WEZZYに引っ越ししたり書籍化があったり読者やアドバイザー的な方々と交流が生まれたりと、濃く楽しい時間をありがとうございました。

 さて最終回は締めとして、掲載本数200本超えとなった過去記事の中から、連載の柱となったものを前後篇の2回にわたって振り返ります。

連載のきっかけは、冷えとり&ジェムリンガ

夏でもソックス重ね履き…謎の健康法を信奉する【ヒエトリサマ】の怪!(2014年8月18日掲載)

コレをアソコに…!? 突然ですがみなさん「膣」に何を入れますか?(2014年10月19日掲載)

 「山田ノジル」というペンネームで連載を始めるきっかけになったのが、冷えとり健康法とジェムリンガです。「ジェムリンガ」は、当連載の編集担当である三浦ゆえの著書『セックスペディア』(文藝春秋)発売記念トークショーで、はじめて耳にしたアイテムでした。トークに出てくる単語を手元のスマホで次々ググると、膣に入れて使うパワーストーンだと……!? ヨガ界隈にあるヨニエッグやそれまでの膣トレにはないきな臭さを感じ、さらなる情報を……と打ち上げに参加。そこでかねてより違和感を覚えていた冷えとり健康法はじめ、女性向け情報のカオスさについて盛り上がり、勢いで連載が始まったのでした。短期のつもりでしたが、その後7年続くとは。

すべてが地続きだった「子宮系女子」「布ナプキン」「経血コントロール」

布ナプ専門店潜入レポ。「紙ナプキンで子宮汚染」など数々の超理論に唖然!(2014年10月7日掲載)

婦人科系トンデモの代表格「経血コントロール信仰」は、アレと似ている!?(2014年12月9日掲載)

子宮の声に従い、やりたい放題! 子宮系女子界のカリスマによる非常識な万能感(2015年10月27日掲載)

 ジェムリンガを調べると、必然的にその広告塔であった子宮系女子たちを観察することとなり、さらにその界隈で子宮にいいと謳われる布ナプキンや経血コントロールに出会います。また、経皮毒思想がベースにある布ナプキンユーザーや経血コントロール実践者は自然派である率が高く、多くが冷えとり健康法を実践していたり。それら婦人科系トンデモ案件すべてが地続きになっている、そんな分布図が見えてくるのでした。ちなみに「子宮系女子」というネーミングは、「妖怪男ウォッチ」のぱぷりこさんが2014年11月にブログで書いていた「子宮女子」を参考にさせていただいています。

(余談)

 このあたりの記事は、拙著『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)にリライトのうえ掲載されています。

 書籍化は連載開始年である2014年に某社から打診されていたものの、山田の妊娠出産ほか諸々の事情で中断し、その後仕切りなおし。いろいろな出版社へ相談する中では、こんな出来事もありました。

 記憶では、2017年ごろです。元首相夫人・安倍昭恵さんのスピリチュアル傾倒が注目されていた時期だったことも関係していたのでしょう。書籍企画に伴い、某出版社編集男性から提案されたタイトルは「スピに騙される馬鹿女たち!」。編集三浦とともに、絶句。えーと当連載のスタンスは、健康問題に関わる根拠なき言説や、それで商売する側にツッコミを入れるものであり、決してハマった人たちを責める意図はなく……。そう説明すると、その後音信不通となりました。編集Aさん、お元気ですか~。

子宮系の後「膣ケアブーム」幕開け

「健康のため」という言い訳がないと、自身の性や性器と向き合えない/徹底討論! 話題の1冊『ちつのトリセツ』がいかにトンデモ本か【1】(2017年7月27日掲載)

スピリチュアル界の新潮流、「膣系女子」 女の幸せをなぜ膣が決める?(2019年1月29日掲載)

 キラキラ発信やイベントの多いエンタメ色濃厚な子宮系スピリチュアルの勢いが減速してきたころ、婦人科系トピックスに、別機軸の新星が現れました。膣ケアで不調が改善すると主張する『ちつのトリセツ 劣化はとまる』(原田純著・径書房)です。この本が火付け役となり、その後植物療法士がオイルケアを軸にして有名人などを引き入れ「今の時代を生きる女性のたしなみ」としてエレガントな雰囲気漂う膣ケアブームを爆誕させました。世のフェムテック、フェムケア需要も相まって、今や女性向け健康情報では定番にすらなりつつある物件です。

 膣にアプローチする女性向けの健康情報は、例えば2010年ごろに膣トレブームがありましたが、それは骨盤底筋群を鍛えてセックスの質を高めることが主な目的でした。また、出産では会陰切開を避けたい人のためのマッサージも、以前よりありました。ところが新・膣ケアでは「女の幸せは膣ケア次第」と風呂敷を広げまくり。ホルモン分泌の乱れも、更年期障害もセックスレスも不妊も孤独死も、すべては膣ケア不足のツケであると。根拠なさすぎ、脅しすぎ。それでもオシャレなイメージだけを切り取って、伊勢丹などで関連グッズが販売されているから、驚きしかありません。こちらはまだまだ追跡中です。

 このほか肛門日光浴や疑問だらけの性教育など、次から次へと見るべきコンテンツが押し寄せます。またそうしたものを、フィクション作品やドキュメンタリーの中で取り上げられているのを見つける楽しみもありました。

後編へ続く

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