「スピリチュアル百鬼夜行」連載終了にともない(連載終了の経緯は前編ご参照)、連載の柱となった過去記事と、それにまつわる思い出を振り返る後編です。
闇深さを感じる、妊活&母親ターゲットのスピ商売
『かみさまは小学5年生』に見る、大人の期待に必死で答えようとする子どもの痛々しさ(2018年08月28日掲載)
妊娠効果を謳う無責任スピリチュアル「おへそに水晶玉をはめると妊娠体質に」(2020年12月3日掲載)
さまざまな物件を見ていく中で、健康問題とは別の怖さを感じたのは、母親(もしくはプレママ)をターゲットにしたビジネススピリチュアルです。
「雲の上からお母さんを選んで生まれてきた」。そうした子どもたちの語りを根拠とした「胎内記憶」界隈では、ついに広告塔に子どもを引っ張り出し、書籍の大ヒットをかっ飛ばしました。そこへ何かとお騒がせな絵本作家が乗っかったり、ドキュメンタリー映画がつくられたり、協会設立&資格商法が始まったりと、どんどん拡大していくムーブは見どころ満載。そうした動きを踏み台に、スピ教祖化していった胎内記憶キッズは今、どうしているでしょうか。冷えとり健康法や子宮系スピチュアルはそれに振り回される子どもたちの不憫さも際立っていましたが、こちらもまた同様です。
胎内記憶は胎教という点から、妊活商材としての需要もありますが、妊活界隈のスピ&自然派情報も、時に不穏さを感じます。「へそ玉」などのスピリチュアルグッズも、「妊娠体質」と謳ってしまった時点で願掛けやお守りの範疇を超えているでしょうし、前編に登場した布ナプや膣ケアも、似たり寄ったり。不安定かつ必死な気持ちにつけこむことや、そこで刷り込まれる思想、それを選ぶ人たちの背景に、今もなお呪いが発動していることでしょう。
(余談)
日本における胎内記憶研究は産婦人科医の池川明氏が中心人物でありますが、氏のメルマガに嬉しい呼びかけがあったのも、思い出深い出来事です。私が池川クリニック近くのお宅へ足を運んだ記事をご覧くださったようで、「近くまで来てたなら、寄って下さればよかったのに」と(クリニックにお邪魔したことはあるのですが、その時はお会いできませんでした)。いつかお目にかかれますように、池川先生!
当事者たちからの話が、続々到着
私たちが自己啓発&スピリチュアル系から脱出できた理由【元・呪われ女子座談会 part1】(2019年04月27日掲載)
巷のさまざまな動きを観察していたスピ夜行でしたが、2017年に翻訳者のナカイサヤカさん(@sayakatake)から「当事者の話を聞いてみてはどうか」というアドバイスを頂戴したのが、連載内の体験談シリーズ始めたきっかけです。この辺りから、たくさんの方からご連絡をいただくようになり、発信者周辺を見ているだけではわからない、さまざまな人間模様やその背景に触れることができ、本当にありがたい運びとなりました。
「自然派」から派生する、育児まわりのさまざまな言説
豆乳に新生児の手を入れてぐるぐるかき回す「赤子ヨーグルト」に発酵食品の神秘を感じている人たちへ(2018年6月5日掲載)
「いまどきの抱っこ紐は赤ちゃんの成長に悪影響を与える」という呪い(2019年6月4日掲載)
「森のようちえん」自然派育児ママに、ネットワークビジネスが忍び寄る(2020年7月28日掲載)
「自然なお産」に始まり、「母乳神話」に「布オムツ」「無添加信仰」。今では「反ワクチン・ノーマスク」がズバ抜けて目立っていますね。個人的に最もツボに入ったのは「赤子ヨーグルト」に代表される、野良発酵。これらは「育児周りの自然派」です。スピリチュアル物件と親和性が高く、情報提供も相次ぎました。いまだ手をつけられていないものも山ほどあり、この連載はいつまで続くんや……なんて思っていましたが、掲載媒体が動画中心となる方向転換することとなり、ネタが尽きる前に終了を迎えました。
あらゆる物件内に現れる、「マルチ商法」の存在感
「飲めるアロマオイル」のマルチ商法が危険すぎる! おしゃれイメージに隠された罠(2018年09月25日掲載)
れいわ新選組・山本太郎代表が「合法だ」と連呼したことがさかんにツッコまれている「マルチ商法」ですが、女性周りのトンデモ物件と合体しているケースも散見されました。ビジネススピリチュアルや過激自然派などに沼った体験談を聞いていると、かなりの頻度でマルチ商法アイテムが出てくるのです。前編で婦人科系トンデモのアレコレが地続きだと書きましたが、マルチ商法の分布図は比べ物にならないほどの広大さ。そこから、健康問題にからむようなマルチ商法のセールストークやさまざまなトラブルも採り上げいく流れに。
有名人たちの「その後」もいろいろすごかった
いきすぎた自然派&キラキラスピリチュアルの有名人、この二人に極まれり!(2021年6月29日掲載)
「あの人は今」。かつて広く名が知られた人の近況にも、スピリチュアルや過激自然派の波が押し寄せていました。作家やモデル、タレント、ミュージシャンがメディアから姿を消した後、再び新たな武器を携えて話題を提供してくれるようになるのは、世の常。元々が輝かしい素質を備えている人たちですから、全く別の分野で頭角を現しても何ら不思議はありませんし、家族ができればライフスタイルや考え方が変わるのもまた当然。しかし時に一部を激しく動揺させるようなトランスフォームがあり、その様は百鬼夜行と呼ぶにふさわしい風格。かつての姿がインパクトの強い情報に上書きされてしまうのも、計算ずくでしょうか。
有名人たちの変化には時の流れや時代を感じることができ、トンデモに興味のない人とも盛り上がることができる、井戸端会議の潤滑油とも言えそうです。
以上、7年間の「スピリチュアル百鬼夜行」を振り返る、前後編でした。
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ウェルク((WELQ)問題、コロナ禍、フェムテックやSDGs需要、性教育の手引き改正、参政党の議席獲得、宗教二世問題ほか多数。連載を続ける中で、世の中は目まぐるしく変化していき、それに伴い沼の様相も変化しつつあります。そんな様子も含め、これからもマイペースに、不穏な空気を放つアレコレを追っていかれればと思います。呪いや沼は姿は変われどなくなるはずがないので、観察&記事執筆のゴールはありません。
来月からは扶桑社の「女子SPA!」での連載が始まります。次の連載タイトルは「山田ノジルのシン・スピリチュアル百鬼夜行 沼の話を聞いてみた」です。引き続き、編集・三浦とともにこれまでと変わらぬ体制で記事をお届けしていきますので、どうぞよろしくお願いします。