
写真:ロイター/アフロ
ベネズエラからの難民希望者がニューヨーク市内に続々とやってくるようになった。今春以降に急に増え、現在2万人を超えている。理由は祖国の政情不安と壊滅的な経済、警察も抑えきれないギャングによる過剰な暴力と大量の殺人、かつ各家庭内でのDVなどさまざまだ。国連のデータによると2021年末の時点で440万人のベネズエラ人が自身と家族の命を守るためにベネズエラ国外に出ている。
難民希望者のうち北米を目指す人々はまずメキシコに渡り、そこから米国との国境を越え、国境に接するテキサス州やアリゾナ州に入ることとなる。そのベネズエラ難民希望者の一部がテキサスから25時間もバスに揺られてニューヨーク市内に送られてくる。理由は後述するが、米国のとてつもなく醜い政治事情だ。
急に大量の難民希望者を迎え入れることとなったニューヨーク市長は対応し切れずに緊急事態宣言を発令し、バイデン大統領に支援を依頼した。ただし市議などとの協議を行わないまま、独りよがりの場当たり的な策を続けていると批判されている。
ベネズエラからの難民希望者が絶え間なくやってくる中、米国では中間選挙が迫り、バイデン大統領は10月半ばに2.4万人のベネズエラ難民を受け入れると発表。過去10カ月間に国境を越えて米国にやってきたベネズエラ人の総数は15万人であり、圧倒的多数が本国に送還されることを意味する。ちなみにロシアによる侵攻が続くウクライナの人々もメキシコ経由で米国に避難しているが、こちらは現時点で10万人以上を受け入れている。
テキサスからニューヨークへ
メキシコとの国境にあるテキサス州やアリゾナ州などは、以前より大量の不法移民対応に悩まされてきた。国境警備をどれほど厳しくしても地続きゆえに人が続々と流れ込んでくる。
それに業を煮やしたテキサス州知事のグレッグ・アボット(共和党)はベネズエラ難民希望者をバスに乗せ、ニューヨーク市やワシントンD.C.など「聖域都市」に送り出し始めた。聖域都市とは不法移民にも滞在環境を提供する都市を指す。例えば、ニューヨーク市は正規の滞在資格を持たない者も取得できる独自の身分証明書を発行している。法的な場面では使えないが、子供を迎えに行く際に学校で提示する、ビールやワインを買う際に年齢証明として提示するなど日常生活を潤滑に行うために使える。
そもそも保守派で移民、特に不法移民を快く思わないアボットは、聖域都市などと気取るリベラル都市が自分で難民の面倒を見てみろと一方的に移民を送り付け始めた。移民たちはバス賃は無料だからと言われ、どこに行くのかも定かでないままバスに乗せられている。アボットはさらに首都ワシントンD.C.にあるカマラ・ハリス副大統領の自宅付近にもバスを送り、移民たちを路上に降ろしている。
政治家としてあるまじき行為に出たアボットをさらに上回るのが、フロリダ州知事のロン・デサンティス(共和党)だ。フロリダ州は国境に接していないにもかかわらず、デサンティスはテキサスにいた難民希望者たちを飛行機に乗せる手はずを整え、マサチューセッツ州にある富裕層の避暑地であるヴィンヤード島に送り込んでいる。デサンティスは次期大統領選に出馬すると言われており、保守派の目を引くための派手なスタンドプレーとして行ったものと思われる。アボットもデサンティスも祖国から命からがら逃げてきた難民希望者を人ではなく、政治のコマとして使っているのである。
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