アフター・トランプで揺れ続けるアメリカ、どうなる2024大統領選〜銃と絵本

文=堂本かおる
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広がる歴史修正主義

 差別言動と方策を繰り返すトランプ政権下の2020年に、黒人男性ジョージ・フロイド氏が警官に殺害されたことからBLM(ブラック・ライブス・マター)の運動が大きく再燃し、白人保守層に危機感をもたらせた。これがCRTの曲解とヒステリックな拒絶反応につながったものと思われる。

 奴隷制も現在にまで残る黒人差別も事実であり、LGBTQの存在、ラティーノやアジア系など移民の存在、ネイティヴ・アメリカンの存在はすべてアメリカの現実だが、保守派はこれらを認めず、ないものとする。その一つの方法が教育現場で「子供に教えない」だ。歴史と事実に蓋をするこの方法が功を奏し、白人の優位性と既得権を維持できると信じることにも大きな問題がある。これはトランプ、およびトランプを見下しながらもトランプを自身への集票、リベラル打倒、保守拡張に利用した共和党の政治家たちの責任によるところが大きい。

 後先を考えられない一部の者たちが議事堂に押し寄せてクーデター未遂を起こし、下院議長宅を襲撃した。しかし保守派の多くは暴力に訴えないだけの常識は持ち合わせており、彼らは暴力よりも現実的(と彼らが思う)方法によって自身の立ち位置を守ろうとする。それがBLMへのアンチであり、誤った認識でのCRT反対だ。

トランプの次にくる者

 トランプはすでに2024大統領選への出馬を表明しているが、共和党支持者の中でのトランプ支持率は下がっている。今のところ立候補をほのめかす、または立候補すると予測されている顔ぶれの中で最も支持率が高いのは、フロリダ州知事のロン・デサンティスだ。

 デサンティスはトランプ同様のゴリ押しタイプであり、フロリダ州で低学年児童に性的指向と性自認を教えてはならないとする通称「ゲイと言うな」法を制定した。また、10月にはテキサス州にたどり着いたベネズエラからの難民希望者をテキサス州知事にすら告げないまま飛行機に乗せて他州のリベラル地区に送り付けることもしている。

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アフター・トランプで揺れ続けるアメリカ、どうなる2024大統領選〜銃と絵本の画像2 ウェジー 2022.10.27

 いずれも2024大統領選を見込んでの、全米規模で報道されるためのスタンドプレーではないかと思われる。ただしハーヴァードの法科を出た法律家であり、下院議員を6年勤めた後に知事となった政治家であり、トランプとの違いは法と政治を熟知していることだ。

 同じ共和党員でありながらデサンティスはすでにトランプと犬猿の仲だが、同様に立候補をほのめかしているトランプ政権時の副大統領マイク・ペンスはトランプを憎んでいる。1月6日の議事堂襲撃クーデター未遂の際、トランプの大統領選敗戦を覆さなかったとして押し寄せたトランプ支持者に命を狙われ、それを暗に示唆したのがトランプのツイートだったからだ。

 やはり大統領選に出ると思われる、トランプ政権下の国務長官だったマイク・ポンペイオもトランプの再出馬を揶揄するツイートを行なっている。共和党の大物/上層部の政治家でトランプに敬意を示す者はいない。ちなみにポンペイオは国務長官の立場にありながら、コロナ・ウイルスを「武漢ウィルス」と呼び続けた人物だ。

 一方、ツイッターを買収したイーロン・マスクは凍結されていたトランプのアカウントを解除した。

 トランプと懇意であり、ホワイトハウスにも招かれていたラッパーのカニエ・ウエストも大統領選出馬を語っている。カニエとトランプの現在の関係は不明だが、カニエは黒人でありながら自身のファッション・ショーで「ホワイト・ライブス・マター」と書いたシャツを着、その後に反ユダヤのツイートを行なったためにバレンシアガ、アディダス、ヴォーグ、JPモルガン、さらには所属していたタレント・エージェンシーからも契約を解除されている。カニエは以前より言動が不安定であり、今のところ出馬はタチの悪いジョークにように扱われている。

見通せない2024大統領選

 アフター・トランプの米国政治は何もかもが見通せないが、共和党が大きな過ちを犯したことは確かだ。大統領となったトランプを見て勢い付いた者たちが議員に立候補/当選し、政局を混乱させている。彼らの無茶振りと政治家としての未熟さに、トランプを利用し尽くしてきた共和党のリーダー、ミッチ・マコーネル上院少数党院内総務自身が今回の中間選挙では「候補者の質」を愚痴ることとなった。共和党本来の保守派と、新手の過激派の分断が起きているのだ。

 民主党は共和党に翻弄されながらも、中間選挙では善戦したと言える。しかし、高齢の夫を自分の立場ゆえに瀕死の状態に追いやられたナンシー・ペロシ下院議長は年内で議長を退くと表明した。暴力が一人の政治家の進退を変えてしまったのだ。そもそも襲撃時にペロシ議長が在宅していれば、議長自身が暗殺されていた可能性もある。

 ただし、ペロシ議長の後継として民主党院内総務となるのはハキーム・ジェフリーズ議員と目されている。まだ52歳のジェフリーズ議員は、ペロシ議員が19年前に史上初の女性院内総務となったように、黒人初の院内総務となる。

 大統領選までまだ2年もあり、先はまったく見通せない。良くも悪くも盛大なお祭り騒ぎとなる米国大統領選だが、それまでの2年間、米国人(市民権の有無ではなく、米国に暮らす人々の意)は浮き足立つことなく、静かに浸透しつつある歴史修正主義=誤ったCRT禁止に注意を払わなければならない。経済や戦争も含め、全ての政策の土台になるのは、やはり「人」と、その「人」を国がどう扱うか、なのである。

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