11月20日
『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日)は「じっくり聴きたい…”お酒の名曲”13選」という特集であった。お酒というだけに、メロウな雰囲気の曲が多くて個人的にも楽しみがあった。
その中でも、最近の音楽における部屋飲み感のリアルさ、Vaundyの『napori』とか、STUTSの『夜を使いはたして』のあのなんでもない東京の夜の雰囲気……つまり都会のエモみたいなものの、音楽での再現度というかリアリティがすごかった。
今の音楽に込められた雰囲気の解像度が昔とは段違いではないかとも思う。昔はもっとなんかぎこちなかったというか。「恋愛」というものの時代によるぎこちなさともリンクしてたのかもしれないけど。今の音楽は、部屋とか街の情景や空気感が、こっちが気恥ずかしくなるくらい再現されているような。とても好みなんだけれど、そういうものをいくつまでリアルなものとして受け止められるんだろうと思うと、自分の年齢を感じてちょっと寂しくなってしまった。
ただ、STUTSの『夜を使いはたして』のアレンジには、グローヴァー・ワシントン・ジュニアの『Just the Two of Us』またの名を『クリスタルの恋人たち』のコード進行と共通点があるというし、その後もスキマスイッチの大橋卓弥が、TOTOの『Georgy Porgy』テイストを入れるとお酒の雰囲気になると言っていたので、この辺のエモさなら私にもリアルにわかるぞ!と思ったけれど、これはこれでまたさっきの「エモさ」とも違うんだよな、とも。
11月21日
『エルピス —希望、あるいは災い—』(関西テレビ)5話。主人公の浅川恵那は、報道のエースである斎藤正一にプロポーズされたい、そして人から幸せに見られたいということにこだわっていた過去の自分を「終わってる」と客観的に見ることもできる人なのに、それでもやっぱり実際に斎藤が再び自分の前に現われると、今度こそはうまくいくのではないかと淡い期待を持ってしまう。
傍からみればおろかなんだけども、しかし、浅川のようにこれまであまり負けたことのない人生を送ってきた人、特に女性アナウンサーは今の日本で全方位に(女性として見られるということも含まれるし、良い大学を出て誰もが憧れるであろう難関の職業に就くという意味でも)頑張り屋だったからで、斎藤みたいな圧倒的にできる男に女として認められないと、なにか終われないような気持ちになるもんなんだろうなーと思いながら、この10年くらいにおいて、日本の「恋愛」がマスコミでどう描かれてきたかを振り返ってしまった。よく、結婚を「あがり」って言ってる雑誌とかもあったなとか。
そんな、負けられない浅川だからこそ、斎藤の空疎な甘い言葉にも、あっさりとほだされてしまう。しかし、そこには複雑な感情がちゃんと盛り込まれていて、壁ドンや頭ポンポンという形骸的な行動で、ヒロインがいとも簡単にキュンキュンするように作られている安易なラブコメとは対極の苦さがあった。
11月20日
日付が前後してしまうが、『あざとくて何が悪いの?』(テレビ朝日)を見ていたら、田中みな実が、番組内ドラマに出てくる女性を都合のいい女扱いする男性キャラに対して、「ダメ絶対!」というノリでつっこんではいたものの、いろいろ話していると、実は過去にそういう男に振り回されていたことを語っていて、『エルピス』の浅川を思い出してしまった。
この年代で頑張り屋の女性はやっぱり多いと思う。頑張り屋だからこそ、自分をもってしても思い通りにできない(自分を都合よく扱う)男に、メラメラと負けず嫌いの気持ちに火がついて、それを恋と勘違いしたりして燃えてしまうこともあるだろう。それは、高くて険しい山に登ることに達成感を感じるようなもので、頑張り屋は、ときに選択を見誤るのかもしれない。これは、個人に対して言っているのではなくて、2000年代には、そういう恋愛を推奨するような空気があって、その影響を、誰もが少しは受けていたということにすぎない。
それに対して、少し年代の若い弘中アナは、そういう間違った頑張り屋感がまったく感じられないのが面白かった。自分をふりまわす男やないがしろにする男に魅力を感じる必要など一ミリもないと知っているような感じである。これも、メディアが作る「恋愛」の空気が変わったことと無関係ではないだろう。自分を大切にしようとか、自尊心を持とうとか、フェミニズムが以前よりも浸透したことともつながっているはずだ。
昔の女性誌は、女性は全方位に完璧であれというメッセージが多く、そのために多くの人は自分は不完全な存在だからもっと頑張らないと、女子力を磨かないといけないとと常に煽られていた気がする。自分に自信が持てず、自分を認めてくれる男性が現れてはじめて完璧になるというメッセージも多かったのだ。過ぎ去ったことは忘れてしまうものかもしれないからこそ、書いておく。
11月24日
『モニタリング』(TBSテレビ)では、「大泉洋をアナタにレンタルします!」という企画が。その中で、全国からファンが集まるオフ会にサプライズで登場して司会をしてほしいという案が採用されていた。最初はファンがうれしそうに「洋ちゃん」のことを話し合っているところを大泉洋本人が別室から見ていたのだが、「これ、ずっと見てられるよ」とうれしそうだ。
その後、ファンの前に大泉洋が現れると、皆、黄色い歓声をあげる。その姿をみて、20代の頃から彼やTEAM NACSのファンの女性はいただろうけれど、大泉洋という人が、ここまで長く、こんな形で「推される」人であり続けるなんてことは、当時、想像できただろうかと思ったりして、なにか感慨深かった。
もちろん、歌を歌うグループアイドルも年をとってからも推せるものではあるけれど、全員が20年後も同じように活動できるわけではない。その人に対しての気持ちが疑似恋愛対象に近ければ、自分が年をとったり、アイドルが結婚したりしたことで、気持ちが離れることもあれば、ファンが他の人に目移りすることもあるだろう。
昔からお笑い芸人をアイドル視する人ももちろんいるが、お笑い芸人とファンの関係は、アイドルや俳優とファンの関係とも少し違うところがあり、なにかそのようなファンダムが20代からはじまり、50歳になっても続くということは、ほとんどないように思う(これからはあるかもしれないが)。
そんな中、「洋ちゃん」に対して、ほのかな疑似恋愛のような気持ちが皆無とはいわずとも、親戚の人のような、近所の人のような親しみを感じながら応援し続けて、それを本人もうれしく思ってくれるというよう関係性がたぶんこれから老いるまで続くであろうことは、けっこうレアなことではないだろうかと思った。
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