男らしさに呪われる運動家たちの殺人事件『Disco Elysium』をやってみた

文=近藤銀河
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 旧共産圏を舞台にしたゲームはとても多い。タルコフスキー監督の映画『ストーカー』から題材を得た『S.T.A.L.K.E.R.』シリーズはゲームファンの間では有名だし、『The Tomorrow Children』のように共産主義的な労働を匂わせるゲームもある。だけれど、共産主義そのものについて語ろうとしたゲームはほとんどない。

 そんな中で、今日紹介する『Disco Elysium』は、共産革命が失敗に終わった架空の都市を舞台にした共産主義についてのゲームになっている。それは、共産革命に参加した世代と、その下のサブカルチャーに育てられた世代、そしてその一つ下の様々な差別と戦いながら生きる世代の物語でもあるのだ。そして、男らしさへのこだわりと女性嫌悪についての物語でもある。

 ……と、聞くと難しそうだし、実際このゲームは架空の世界の架空の歴史を、ものすごく詳細に語ってくるし、用語も独特で少しとっつきにくいところがある。たとえば、この世界で唯物論を唱え共産主義の基礎を築いた人間はマルクスではなくマゾフという名前の人物だったり、我々の世界でいう新自由主義的なネオリベラル思想はウルトラリベラルと言われていたりする。

 ただ私は『Dsico Elysium』は同時にとても親しみやすいゲームだとも思った。ゲームの舞台となるマルティネーズ工業地区にはたくさんのキャラクターが登場し、その一人一人が際立った個性を見せる。このキャラたちと歴史の重なりにより、共産主義の失敗と現代における姿が多層的に浮かび上がり、差異と断絶が見えてくるのが『Disco Elysium』というゲームなのだ。

レッツ、ディスコ

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 『Disco Elysium』は基本的には会話が主体になったアドベンチャーゲームという形式の作品だ。主人公であるハリーは、殺人事件を解決するために相棒となるキム・キツラギ警部補と共に街を駆け回って、人と会話し少しずつ真相から遠かったり(そう、どんどん遠ざかっていく)新しい謎を見つけたりしながら、事件の解決を目指していく。

 特徴的なのは会話のシステムだ。さっき、たくさんのキャラクターが登場すると言ったけど、キャラクターの中には、主人公の脳内の人物?もいて、こいつらが度々会話に割り込んでくる。

 この主人公の脳内会議の内容は、主人公が割り振ってるスキルのポイントによって色々変化する。たとえば「百科事典」というスキルに振っていると会話の途中で、脳内の百科事典さんが知識を教えてくれるのだ。

 このスキルの割り振りは、選択肢の内容にも影響するし、重要な地点ではスキルの値から導き出された確率で行動の成功と失敗が判定され、物語が大きく変化していく。

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スキルポイントによって失敗成功が変わる場面。この行動では「内陸帝国」というスキルの値により成功確率が増える。

 またゲームでは「思考を内面化」することが出来る。これは会話の中で得た思考の種を習得することでスキルの値が増減したり、会話の中で選択肢の幅が広がったりするシステムになっている。たとえば得られる思考の中には「革命的フェミニズム思考」なんてものがあったりして、この思考を持っているとフェミニズムっぽいことを少し言えるようになったりする(とはいえ習得しても、主人公は男らしさに激しいこだわりを見せ続ける……この要素は正直ちょっとしたフレーバー程度な感じがする)。

 本作はミステリー仕立ての物語で、主人公である記憶喪失の刑事となり、ある港湾で発見された木から吊り下げられた死体の謎を解明することが目標だ。事件の裏には、新自由主義的な巨大企業の思惑と、港湾を仕切る労働者組合のストライキがあって……と複雑な背景がある。

 ゲームを紹介しようとすると、どうしても結末に触れざるを得ない。ということで今回は少し趣向を変えて、『Disco Elysium』のキャラクターに焦点を絞って紹介していくことにしてみたい。

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